第二部 【企業情報】

 

第1 【企業の概況】

1 【主要な経営指標等の推移】

 

回次

第3期

第4期

第5期

第6期

第7期

決算年月

2018年12月

2019年12月

2020年12月

2021年12月

2022年12月

事業収益

(千円)

16,698

18,181

13,326

59,330

178,801

経常損失(△)

(千円)

177,402

275,358

297,034

240,082

138,455

当期純損失(△)

(千円)

178,200

278,209

297,905

232,319

141,381

持分法を適用した場合の投資利益

(千円)

資本金

(千円)

216,099

90,000

90,000

790,000

90,000

発行済株式総数

 

 

 

 

 

 

 普通株式

(株)

1,100,000

1,100,000

1,100,000

1,100,000

1,100,000

 A種優先株式

(株)

590,657

590,657

590,657

590,657

590,657

 B種優先株式

(株)

500,000

500,000

500,000

500,000

 C種優先株式

(株)

560,000

560,000

純資産額

(千円)

192,406

814,197

516,291

1,683,971

1,542,590

総資産額

(千円)

233,656

873,761

596,249

1,754,789

1,598,576

1株当たり純資産額

(円)

215.99

468.91

739.73

306.10

280.40

1株当たり配当額

(円)

(1株当たり中間配当額)

(―)

(―)

(―)

(―)

(―)

1株当たり当期純損失(△)

(円)

162.00

252.92

270.82

51.92

25.70

潜在株式調整後1株当たり当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

82.3

93.2

86.6

96.0

96.5

自己資本利益率

(%)

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

営業活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

234,988

148,780

投資活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

7,632

55,547

財務活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

1,395,100

現金及び現金同等物の期末残高

(千円)

1,688,760

1,484,432

従業員数

(名)

8

11

12

14

14

〔ほか、平均臨時雇用者数〕

1

―〕

―〕

―〕

―〕

 

(注)1.当社は連結財務諸表を作成しておりませんので、連結会計年度に係る主要な経営指標等の推移については記載しておりません。

2.mRNA低分子創薬プラットフォーム事業を立ち上げ、さらに事業収益を拡大させるため、当社プラットフォーム事業の強化を目的とした研究開発費の増加、及び事業拡大に伴う人件費等の販売費及び一般管理費の増加により、第3期から第7期は経常損失及び当期純損失を計上しました。

3.持分法を適用した場合の投資利益については、関連会社がないため記載しておりません。

4.当社は、A種優先株式について、2017年5月31日付で480,768株、2017年8月31日付で109,889株、合計して590,657株を有償第三者割当により増加しております。また、B種優先株式について、2019年3月29日付で444,444株、2019年4月15日付で55,556株、合計して500,000株を有償第三者割当により増加しております。また、C種優先株式について、2021年12月24日付で560,000株を有償第三者割当により増加しております。

5.潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できないため、また、1株当たり当期純損失であるため記載しておりません。

6.自己資本利益率については、第3期から第7期は当期純損失であるため記載しておりません。

7.株価収益率は当社株式が非上場であるため記載しておりません。

8.1株当たり配当額及び配当性向については、配当を実施していないため記載しておりません。

9.第3期、第4期及び第5期についてはキャッシュ・フロー計算書を作成していないため、キャッシュ・フローに係る各項目については記載しておりません。

10.mRNA低分子創薬プラットフォーム事業による事業収益を拡大させるため、当社プラットフォーム事業の強化を目的とした研究開発費の増加、及び事業拡大に伴う人件費等の販売費及び一般管理費の増加により、第6期から第7期は営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスになりました。

11.当社プラットフォーム事業の強化のため、BLI装置を購入したため、第7期は投資活動によるキャッシュ・フローがマイナスになりました。

12.臨時従業員の総数が従業員の100分の10未満である事業年度については、平均臨時雇用者数の記載を省略しております。

13.主要な経営指標等の推移のうち、第3期から第5期については会社計算規則(平成18年法務省令第13号)の規定に基づき算出した各数値を記載しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定による監査を受けておりません。

14.第6期及び第7期の財務諸表については、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和38年大蔵省令第59号)に基づき作成しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、東陽監査法人により監査を受けております。

15.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を第7期の期首から適用しており、第7期に係る主要な経営指標等については、当該基準等を適用した後の指標等となっております。

16.2023年7月31日開催の臨時株主総会の決議により、定款の一部変更を行い、A種優先株式、B種優先株式及びC種優先株式に関する定款の定めを廃止し、同日付でA種優先株式590,657株、B種優先株式500,000株及びC種優先株式560,000株をすべて普通株式に変更しております。これにより発行済株式総数のうち普通株式が1,650,657株増加しております。また、2023年7月31日開催の取締役会決議により、2023年8月17日付で普通株式1株につき2株の株式分割を行っておりますが、第6期の期首に当該A種優先株式、B種優先株式及びC種優先株式から普通株式への変更並びに株式分割が行われたと仮定して1株当たり純資産額及び1株当たり当期純損失を算定しております。

17.2023年7月31日開催の臨時株主総会の決議により、定款の一部変更を行い、A種優先株式、B種優先株式及びC種優先株式に関する定款の定めを廃止し、同日付でA種優先株式590,657株、B種優先株式500,000株及びC種優先株式560,000株をすべて普通株式に変更しております。これにより発行済株式総数のうち普通株式が1,650,657株増加しております。また、2023年7月31日開催の取締役会決議により、2023年8月17日付で普通株式1株につき2株の株式分割を行っております。

    そこで、東京証券取引所自主規制法人(現 日本取引所自主規制法人)の引受担当者宛通知「『新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)』の作成上の留意点について」(平成24年8月21日付東証上審第133号)に基づき、第3期の期首にA種優先株式、B種優先株式及びC種優先株式から普通株式への変更並びに株式分割が行われたと仮定して算定した場合の1株当たり指標の推移を参考までに掲げると以下のとおりとなります。なお、第3期、第4期及び第5期の数値については、東陽監査法人の監査を受けておりません。

 

回次

第3期

第4期

第5期

第6期

第7期

決算年月

2018年12月

2019年12月

2020年12月

2021年12月

2022年12月

1株当たり純資産額

(円)

56.90

185.83

117.84

306.10

280.40

1株当たり当期純損失(△)

(円)

△52.70

△66.16

△68.00

△51.92

△25.70

潜在株式調整後
1株当たり当期純利益

(円)

1株当たり配当額

(円)

 

 

 

2 【沿革】

 当社の創業者である中村慎吾は、2000年代初頭に米国エール大学で行った最新のRNA※1生物学研究に発想を得て、武田薬品工業株式会社(以下「武田薬品」という)在職中の2004年、「メッセンジャーRNA(mRNA)※2を標的とする低分子創薬」の実現を目指すプロジェクトを立ち上げました。会社の方針転換によるプロジェクトの中断を受けて2011年に武田薬品を退職するにあたり、在職中の研究成果を武田薬品より譲り受けた後、改めて最新の科学に基づきRNA構造を研究する統計力学※3理論及び熱力学※4理論並びにその理論を解析に応用する計算ソフトウェアなど、当該創薬を実現するための基礎技術を構築しました。中村はこれと並行して、医薬品ビジネス及び医薬品製造、さらにはベンチャービジネスへの投資や経営の実務経験を積む中、「mRNAを標的とする低分子創薬」を広く製薬会社へ提供することが製薬業界に共通する課題への解決策になると確信し、2016年11月に株式会社Veritas In Silicoを設立しました。

 当社設立以降の変遷は、以下のとおりであります。

年月

概要

2016年11月

東京都渋谷区に株式会社Veritas In Silicoを設立(資本金110万円)

2017年5月

三菱瓦斯化学株式会社及びベンチャーキャピタルの出資のもと(シリーズA資金調達)、当社のRNA構造解析技術を活かし、小規模なバイオテク企業でも取り組み可能なmRNAを標的とする核酸医薬品※5の創薬研究を主事業として開始

2017年7月

共同研究先である新潟薬科大学内(新潟県新潟市秋葉区)に研究拠点を開設

2017年10月

本店所在地を東京都品川区に移転

2018年4月

主事業を核酸医薬品からmRNAを標的とする低分子医薬品※6の創薬プラットフォーム事業に転換

2018年4月

mRNA標的低分子創薬研究のための研究拠点をかわさき新産業創造センター内(神奈川県川崎市幸区)に開設

2019年3月

mRNAを標的とする低分子医薬品の創薬プラットフォーム事業に注力する方針を決定(シリーズB資金調達)

2020年10月

RNAを標的とした低分子創薬のビジネスモデルに関する特許取得(日本)

2021年7月

東レ株式会社とmRNAを創薬標的とする低分子医薬品の創出を目的とした共同創薬研究契約を締結

2021年11月

塩野義製薬株式会社とmRNAを創薬標的とする低分子医薬品の創出を目的とした共同創薬研究契約を締結

2021年12月

新規技術の開発・導入等によるmRNAを標的とする低分子医薬品の創薬プラットフォーム事業の拡大方針を決定(シリーズC資金調達)

2022年12月

ラクオリア創薬株式会社とmRNAを創薬標的とする低分子医薬品の創出を目的とした共同創薬研究契約を締結

2023年5月

Oncodesign ServicesとmRNAを創薬標的とした低分子医薬品開発を目指す製薬会社のニーズに応えるため、事業協力に関する基本合意書(MOU)を締結

2023年6月

武田薬品工業株式会社とmRNAを創薬標的とする低分子医薬品の創出を目的とした共同創薬研究契約を締結

 

 

 

3 【事業の内容】

当社は、どんな疾患の患者様も治療法がないと諦めたり、最適な治療が受けられないと嘆いたりすることのない、そんな希望に満ちたあたたかい社会の実現に貢献するため、メッセンジャーRNA(mRNA)を標的とする低分子医薬品(以下「mRNA標的低分子医薬品」という)の創出に取り組んでいます。mRNAを標的とする低分子創薬(以下「mRNA標的低分子創薬」という)は、従来のタンパク質を標的とする創薬技術では狙えなかった様々な疾患にも対応可能な新しい創薬アプローチであり、アンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療薬や治療法がなく未だ満たされない医療ニーズ)の充足につながることが期待されます。当社は、mRNA標的低分子創薬でより多くの医薬品を患者様にお届けするため、自社で少数のパイプライン※7を保有する「パイプライン型」のビジネスではなく、当社独自の創薬プラットフォーム「ibVIS」(以下「ibVISプラットフォーム」という)を活用し、複数の製薬会社と共同で創薬研究を実施する「プラットフォーム型」のビジネスを展開しています。

なお、当社のセグメントは創薬プラットフォーム事業のみの単一セグメントであります。

 

 

(1) 事業の背景

疾患の発症のメカニズムは多種多様ですが、主に疾患の原因となるタンパク質(以下「疾患関連タンパク質」という)の異常な働きによって引き起こされ、現在の医薬品市場は、直接疾患関連タンパク質に結合し、その機能を制御することで異常な働きを止める医薬品(低分子医薬品、抗体医薬品※8など)が主流です(図1)。しかし、これらの医薬品が創薬標的として狙うことのできる疾患関連タンパク質の数はもともと限られているため、長年にわたる医薬品の研究開発※9の結果、新薬開発が求められている医療ニーズの高い疾患に対して新たに医薬品を創出することが難しくなっています。このように、創薬標的となる疾患関連タンパク質が限られてきている現状、すなわち「創薬標的の枯渇」が、製薬業界共通の課題となっています。

mRNAは、DNA※10から特定のタンパク質に関する遺伝情報を書き写した設計図です。疾患関連タンパク質の設計図であるmRNAの機能を制御することができれば、疾患関連タンパク質の機能を直接医薬品で制御する場合と同様に、その疾患関連タンパク質が原因となる疾患を治療することが可能になり、「創薬標的の枯渇」の解決策につながることが期待されます(図1)。

mRNAを標的とする医薬品は、核酸医薬品(DNAやRNAといった遺伝情報を司る物質「核酸」そのものを利用した医薬品のこと)によって実現されています。しかし、核酸医薬品は経口投与が困難であるだけでなく製造コストが高く、市場の拡大には限界があると考えられます。当社は、低分子医薬品のように経口投与が可能で患者様の負担が少なく、開発・製造技術が確立している安価な医薬品でmRNA標的創薬を実現することが、製薬業界の真のニーズであり、mRNA標的低分子医薬品は今後の成長市場になる可能性があると考えております。それにもかかわらず、mRNA標的低分子医薬品はこれまでほとんど創出されておりませんでした。低分子創薬では、創薬標的全体の構造を精密に解析し、創薬標的上に低分子医薬品が結合して薬効を示すことが期待できる構造を最初に特定すること(このプロセスを、以下「ターゲット探索」という)が重要です。しかしながら、mRNAは1つの決まった構造をとらず、創薬研究を始める際に精密な構造の解析を行うことが困難であるため、mRNAを創薬標的にして低分子創薬を実施することは難しいという業界の常識がありました。このような状況において、当社の創業者である中村が2000年代前半より技術開発してきたインシリコ※11RNA構造解析技術により、mRNAを創薬標的としたターゲット探索が可能になり(詳細は「(2) 当社の事業領域 ② ibVISプラットフォーム c mRNA標的低分子創薬を可能にするインシリコRNA構造解析技術」を参照)、ターゲット探索の結果を活用した実用的な低分子化合物のスクリーニング※12法(様々な化合物の中からある一定の基準を満たす化合物を選択するためのプロセス)と合わせて、当社の創薬プラットフォームの基礎となっています。

 

 

図1. 現在の主な医薬品市場(タンパク質標的医薬品)と当社が取り組む今後の成長市場(mRNA標的低分子医薬品)

 


 

(注) mRNA標的低分子医薬品の研究開発は世界的に見てもほとんどが研究段階であり、

     本創薬で上市された低分子医薬品はありません(2023年11月末現在)。

 

現在の医薬品市場の中心の一つであるタンパク質標的低分子医薬品とその創薬標的であるタンパク質の関係は、ちょうど「鍵」と「鍵穴」の関係に例えられ、低分子創薬とは、創薬標的上に「鍵穴」を探索し、様々な工程(「鍵候補」を見つけるスクリーニングなど)を経て「鍵穴」にピタリとはまる「鍵」を創出する一連のプロセスであると言えます(図2)。

当社は、独自のインシリコRNA構造解析により、多くのmRNA上には局所的に低分子医薬品(「鍵」)が結合できる構造(「鍵穴」)があること(当社では、mRNA上に局所的に存在する構造を「部分構造」、そのうち標的として定める構造を「ターゲット構造」と呼んでおり、「鍵穴」は「ターゲット構造」に該当します)、しかも多くの場合、複数の「鍵穴」が存在することを見いだしました。また、これらの「鍵穴」に対して「鍵候補」を見つけるための独自改良したスクリーニング法の確立等により、タンパク質標的低分子創薬と同様に、新しい創薬アプローチであるmRNA標的低分子創薬の実施が可能になっています(図2)。

 

図2. 低分子創薬のターゲット探索(鍵穴の探索)とスクリーニング(鍵候補を見つけるプロセス)

 


(注1) 様々な化合物の中から一定の基準を満たす化合物を選択するためのプロセス(鍵穴に対して鍵候補を見つけるプロセス)

(注2) スクリーニングで一定の基準を満たした化合物(鍵候補)

 

 

mRNA標的低分子創薬は、当社のインシリコRNA構造解析の技術を用いることにより、新薬開発のニーズが高いにもかかわらず、タンパク質を標的とした従来創薬ではこれまで医薬品の研究開発が不可能もしくは困難であった様々な疾患に適用できる潜在性を秘めており、疾患関連タンパク質において大きな割合を占めるブルーオーシャン(競争相手のいない又は競争相手の少ない未開拓な市場)を開拓できる創薬アプローチであると考えております(図3)。患者様、製薬業界、そして経済的観点から社会に望まれている低分子医薬品の創出に取り組むことができることから、mRNA標的低分子創薬は次世代創薬の本命の一つとして期待されています(詳細は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4) 経営環境」を参照)。

 

図3. mRNA標的低分子創薬によりブルーオーシャンの開拓を目指す

 


出典:The Human Protein Atlas, DrugBank, KS analysis, 2018 をもとに当社にて作成

 

 

 

(2) 当社の事業領域

当社は、インシリコRNA構造解析技術をはじめとしたデジタル技術(informatics)と創薬技術(biology)を統合したibVISプラットフォームを活用したmRNA標的低分子創薬を主事業としており、製薬会社との共同創薬研究を通じて、mRNA標的低分子医薬品の創出に取り組んでいます(図4)。

また、将来の事業の多角化のため、インシリコRNA構造解析技術を応用した各種RNA関連創薬の取り組みも開始しています(図4)。

 

図4. Veritas In Silicoの事業領域

 


 

 

① mRNA標的低分子創薬
a mRNA標的低分子医薬品の作用メカニズム

私たちの体は、各部位の機能に応じて、その機能を発揮するために必要なタンパク質で構成されています。各部位の細胞内では、細胞の核の中にあるDNAがもつ全ての遺伝情報から、各部位に必要なタンパク質の遺伝情報のみがmRNAに書き写されます(転写)。mRNAは核内から外に運び出された後、書き写されたタンパク質の遺伝情報を設計図として、リボソーム※13というタンパク質合成機構に遭遇することでタンパク質の合成が開始されます(翻訳)。タンパク質の翻訳の際、まずリボソームがmRNAの一方の端(5'末端)に取り付き、このリボソームがもう一方の端(3'末端)に向かって進行しながらmRNAの遺伝情報を読み取り、20種類のアミノ酸(タンパク質の構成要素)の中から遺伝情報に対応するアミノ酸をつなげていくことでタンパク質が生成されます(図5)。この時、mRNA上にある程度安定な構造があっても、通常ならリボソームが構造をほどいて翻訳していきますが(図5左)、より強固でほどけにくい構造がmRNA上にある場合には、リボソームによる翻訳反応の進行が妨げられます(図5右)。

当社のmRNA標的低分子創薬は、mRNA上にある程度安定で低分子医薬品が結合できそうな部分構造を見いだしてターゲットとし、そのターゲット構造に結合し安定化する低分子医薬品によって、mRNA上により強固でほどけにくい構造体を意図的に構築させることで、リボソームによるタンパク質の翻訳を阻害もしくは制御することを狙っています。これにより、疾患の原因となる疾患関連タンパク質の生成を抑えられれば、従来の低分子医薬品や抗体医薬品等で直接疾患原因タンパク質の機能を阻害もしくは制御する場合と同等の効果が得られると考えられます。

 

 

図5. mRNA標的低分子医薬品の作用メカニズム

 


(注) 通常、ある程度安定なmRNA構造があっても、リボソームは構造をほどいてタンパク質を合成する。ある程度安定なmRNA構造が低分子医薬品によってより安定で強固になると、リボソームは構造をほどけずタンパク質の合成がストップする。

 

b mRNA標的低分子創薬の特徴 ― 研究開発 ―

一般的に医薬品の研究開発は、創薬標的を決定した後、医薬品候補化合物※14を創出するまでの創薬研究(研究段階)後、非臨床試験、臨床試験、承認取得(開発段階)完了までに長い年月を要します(表1)。当社が製薬会社と実施しているmRNA標的低分子創薬では、タンパク質を標的とした従来の低分子創薬と創薬標的は異なりますが、最終目的物は同じ化学的特性をもつ低分子化合物であることから、表1に示す創薬研究以外の非臨床試験、臨床試験、承認審査、さらには承認後の製造・販売で必要となる技術及びインフラは従来の低分子創薬と共通しています。mRNA標的低分子創薬で臨床試験以降の開発に進んでいる例は世界的にみてもまだありませんが、化学的特性がタンパク質標的低分子創薬の医薬品候補化合物と同等であることに鑑みると、開発以降のリスクや成功確率は概ねタンパク質標的低分子創薬の医薬品候補化合物と同程度であると考えられます。また、低分子医薬品の場合には開発ガイドラインも確立されているため、開発段階以降の障壁は他の新規創薬技術と比較して小さいと考えられます。

以上のことから、mRNA標的低分子創薬で重要なのは、医薬品として十分な効果・安全性等を示す医薬品候補化合物を創出するまでの創薬研究であると言えます。

 

表1. 一般的な医薬品の研究開発プロセス

 

 

プロセス

期間

主な内容

研究(注1)

創薬研究

2~4年

創薬標的を決定した後、医薬品候補化合物創出までの創薬研究

開発(注2)

非臨床試験

3~5年

ヒトに用いる臨床試験を前提に、実験動物等を用いて有効性及び安全性等を国際的な基準のもとで最終確認する試験

臨床試験

3~7年

第I相

少数の健康な方を対象に安全性等を確認する試験

第II相

少数の患者様を対象に有効性及び安全性を探索的に確認する試験

第III相

多数の患者様を対象に有効性と安全性を検証的に確認する試験

承認審査

1~2年

各国の規制当局による審査

 

(注1) 研究は、医薬品として十分な効果・安全性等を示す医薬品候補化合物を創出するまでの段階

(注2) 開発は、創薬研究で取得した医薬品候補化合物の効果・安全性等を規制当局に証明していく段階

 

 

c mRNA標的低分子創薬の特徴 ― 薬物動態・安全性 ―

医薬品の創薬研究では、タンパク質標的低分子医薬品の場合には疾患関連タンパク質の機能を抑制する効果など、医薬品の主作用(薬効)だけではなく、医薬品が投与されてから血中へ吸収されるか、血中から目的とする組織・細胞へ移行するかといった点や、医薬品が体内で代謝や排泄される過程、さらには安全性を確保するための毒性の低減、といった様々な課題について検討し、最適化する必要があります(医薬品を投与してから「吸収」「分布」「代謝」「排泄」される過程を「薬物動態」という)。

mRNA標的低分子創薬の創薬研究においても同様に薬物動態や安全性等の検討・最適化が必要ですが、タンパク質標的低分子医薬品と比べてmRNA標的低分子創薬の研究過程に特有の検討課題は、細胞内で標的とするmRNAに作用して疾患関連タンパク質を減少させられるかという「細胞内での効果」の工程のみであり、それ以外はタンパク質標的低分子創薬と共通しています(図6)。つまり、創薬研究段階におけるmRNA標的低分子創薬の新規創薬技術として特有のリスクは、概ね「細胞内での効果」が得られるか、という点になります。もちろん他の工程にもリスクはありますが、そのリスクはタンパク質標的低分子創薬と同様であると考えられ、この点については、長年の創薬研究を通じて各製薬会社には技術やノウハウが豊富に蓄積されています。逆に言うと、「細胞内での効果」は十分にあっても、mRNA標的低分子創薬特有ではない薬物動態や安全性により、創薬研究が中断するリスクがあるため、かかるリスクに対応した上でmRNA標的低分子創薬により患者様に医薬品を届ける観点からは、長年の創薬研究を通じて蓄積された各製薬会社の技術やノウハウが重要であると考えられます。当社ではこのリスクを鑑み、mRNA標的低分子創薬により患者様に医薬品を届けるためには、より多くの製薬会社と共同創薬研究を実施することが重要であると考え、「プラットフォーム型」のビジネスに注力しています(詳細は「(3) ビジネスモデルの特徴」を参照)。

 

当社と製薬会社とのibVISプラットフォームを活用した共同創薬研究において、当社が担当するのは表1の創薬研究の中でも標的とする「細胞内での効果」に関するもの(「ターゲットの探索」「スクリーニング」「ヒット化合物検証」「リード化合物最適化」で構成される。詳細は「② ibVISプラットフォーム b ワンストップで医薬品候補化合物まで取得」を参照)であり、それ以外の薬物動態や安全性研究、動物を用いた化合物の効果を検証するための実験、非臨床試験以降の開発段階については、タンパク質標的低分子創薬での経験や知見が豊富な提携先の製薬会社にて実施されます(製薬会社との役割分担の詳細は、「② ibVISプラットフォーム b ワンストップで医薬品候補化合物まで取得」を参照)。

 

図6.低分子医薬品の創薬研究で検討が必要な課題

 


 

 

 

② ibVISプラットフォーム
a 多種多様な疾患に適応可能

当社は、これまで国内外の多くの製薬会社に、当社のibVISプラットフォームの創薬技術及びデジタル技術を紹介してきました。これらの製薬会社より、ibVISプラットフォームでmRNA標的低分子創薬を実施したいと開示をうけた創薬対象遺伝子(Gene of Interest;GOI)の数は既に100を超え、そこから推定される疾患領域は、がん領域、中枢神経、各種希少疾患の順に多く、その他は循環器疾患、免疫疾患、感染症など多種多様です(図7)。これは、製薬会社という創薬の専門家から見て、ibVISプラットフォームが様々な疾患に適応可能であると考えられていることを示唆していると当社では考えております。中でも市場の大きいがん領域の割合が突出しており、医薬品が血液脳関門(神経細胞に影響のある物質をブロックする保護システム。Blood Brain Barrier;BBB)を通過する必要のある中枢神経疾患の割合ががん領域に続いております。これらは、製造コストが低く巨大な市場にも供給可能であり、BBBを通過できる低分子医薬品の強みを活かせる疾患領域であると考えられます。

 

 図7. 創薬対象遺伝子(GOI)からわかるmRNA標的低分子創薬の適用疾患領域

 

(注) 2023年11月末現在において製薬会社から開示されたGOIに基づき当社にて作成

 

b ワンストップで医薬品候補化合物まで取得

当社のibVISプラットフォームは、mRNA上に存在する低分子医薬品の「鍵穴」の候補となる部分構造を網羅的に解析し、その中から標的に適した「鍵穴」すなわちターゲット構造を定める「ターゲット探索」から、数万から数十万の低分子化合物の中からターゲット構造に対して結合が認められる化合物を実験的に選択する「スクリーニング」、スクリーニングで取得したヒット化合物※15とターゲット構造の結合の強度や結合の特徴を詳細に検証する「ヒット化合物検証」、ヒット化合物検証により取得したリード化合物※16を医薬品レベルにまで効果を高める「リード化合物最適化」により、最終的に非臨床試験以降に進める医薬品候補化合物を取得するまで、mRNA標的低分子創薬に必要な全ての創薬技術とデジタル技術を備えていると当社は考えております(図8、表2)。さらに、それらの創薬技術とデジタル技術が単に個々の技術としてではなく、一つの創薬システムとして統合されており、各製薬会社はibVISプラットフォームを活用することで、mRNA標的低分子創薬で直面する多くの課題をワンストップで解決することが可能になると当社は考えております。特に当社の「ターゲット探索」は、独自のデジタル技術を活用したインシリコRNA構造解析により、製薬会社が任意に選択したmRNAから高速かつ正確に複数のターゲット構造を探索することが可能であり、当社の競争優位性の一つとなっています。

 

 

図8. 創薬技術とデジタル技術を備えたワンストップ創薬プラットフォーム

 


 

(注)製薬会社は、当社が技術供与したスクリーニング法を使ったスクリーニングの実施及び細胞実験を主に担当します。
 加えて製薬会社側では、化合物の合成展開※17、薬物動態及び安全性研究、化合物の効果を検証する動物実験などが実施されます。

 

表2. ibVISプラットフォームの創薬技術とデジタル技術

 

創薬研究プロセス

内容

ターゲット探索

・NCBIデータベースよりmRNA配列データ取得

創薬対象とするmRNAを定め、NCBI※18(National Center for Biotechnology Information;国立バイオテクノロジー情報センター)の遺伝子データベースよりmRNA配列データを取得します。

・コンピュータによるmRNA構造解析

独自のRNA構造解析ソフトウェア「MobyDick」により、創薬対象に定めたmRNA上の部分構造を網羅的に解析します。

・コンピュータによるターゲット構造の評価

「MobyDick」に含まれる熱力学のエネルギー計算により、存在確率及び安定性の高い部分構造の中からターゲット構造候補を探索します。

・NMRによるターゲット構造の確認

ターゲット構造候補の妥当性を主としてNMR※19 (Nuclear Magnetic Resonance;核磁気共鳴)により実験的に確認し、ターゲット構造と定めます。

・実験的スクリーニング系の確立

次のプロセスのスクリーニングで、各種低分子化合物とターゲット構造の結合を検出するため、蛍光性のある物質を目印として付けたターゲット構造を合成し、そのターゲット構造がmRNA構造解析どおりの構造を実際に取っているか、スクリーニングで正常に動作するか等を実験的に確認します。

 [製薬会社との役割分担]

当社協力のもと製薬会社が創薬対象とするmRNAを定めた後の工程は、全て当社で担当します。

スクリーニング

・化合物ライブラリーの設計・準備

製薬会社が保有する莫大な数の化合物を収める化合物ライブラリーからスクリーニングにかける化合物を選定します(フォーカストライブラリー)。

・スクリーニング

FRET※20(Fluorescence Energy Transfer;蛍光共鳴エネルギー移動法)による一般的なスクリーニング法を定量的解析ができるように改良した、当社独自のqFRET※21(Quantitative Fluorescence Energy Transfer;定量的蛍光共鳴エネルギー移動法)により、数万から数十万の低分子化合物の中から、陽性を示す(ターゲット構造への結合が検出された)化合物(ヒット化合物)を取得します。

・統計解析

高精度かつ定量的なスクリーニング及びスクリーニングの結果得られるデータの統計解析を可能とするために、複数の自社製作ソフトウェアを利用します。

 [製薬会社との役割分担]

当社協力のもと製薬会社が化合物ライブラリーの設計と準備をします。スクリーニングは製薬会社もしくは当社、あるいは両者で実施します。

ヒット化合物検証

 

・細胞実験による効果の測定

スクリーニングで取得したヒット化合物の妥当性を検証するため、細胞レベルでの効果の確認を行います。

・BLI/ITCによる結合の強度測定/NMRによる結合の特徴測定

細胞実験にくわえて、BLI※22(Bio-Layer Interferometry;バイオレイヤー干渉法)、ITC※23(Isothermal Titration Calorimetry;等温滴定熱測定)などの熱力学的測定法※24、NMRなどの分光学的手法※25により、ターゲット構造に対するヒット化合物の結合の強度や特徴を解析します。

・コンピュータによる副作用予測

自社製作ソフトウェアを使った副作用予測により、ヒット化合物を評価します。

・リード化合物取得

上記の結果をもとに、ヒット化合物から次段階の化合物(リード化合物)を獲得するための基礎となる化合物を複数選択します。これらを出発化合物として化合物の合成展開及び本プロセスの検証を繰り返し、低分子医薬品として好ましい特性を持つリード化合物を獲得します。

 [製薬会社との役割分担]

細胞実験による効果の測定は、製薬会社によって行われる事が多いものの、当社で実施する場合もあります。その他の解析については、基本的に全て当社が担当します。

リード化合物最適化

・RNA-低分子の三次元構造決定

ターゲット構造と化合物の複合体の三次元構造を、NMRやX線結晶構造解析※26により実測します。

・量子化学※27計算による化合物最適化(医薬品候補化合物の取得)

複合体の構造情報をもとにした量子化学計算を用いて医薬品を設計する手法等による化合物の最適化研究を行います。これにより、低分子医薬品としてリード化合物よりもさらに好ましい活性と物性を示す医薬品候補化合物の理論的創製が可能になります。

 [製薬会社との役割分担]

複合体の構造解析と量子化学計算による化合物の最適化研究は、当社が担当します。最適化研究に伴い必要となる化合物合成は、製薬会社が担当します。

 

 

c mRNA標的低分子創薬を可能にするインシリコRNA構造解析技術

mRNAは分子内で相互作用して立体構造をとる巨大分子であり、細胞内の環境下では1つの決まった立体構造をとらず、様々なパターンの構造をとってそれらが混在するという性質があります。よって、一般的に一定の構造をとるタンパク質を標的とする既存創薬と同様の理論では、mRNA標的低分子創薬を実現することはできませんでした。

 

当社の中村は、約20年にわたる創薬研究の経験に基づき、1つの決まった状態をとらない事象を取り扱う統計力学理論及び熱力学理論がmRNAの性質を解析する上で有用な方法であることを見出しました。具体的には、統計力学理論によりmRNA上に局所的に存在する部分構造の存在確率を計算し、熱力学理論により各部分構造のエネルギー状態の計算から安定性・不安定性を評価します。このように、既存創薬の研究領域(化学~生物学)に統計力学理論及び熱力学理論を適切に応用することにより、mRNA上の各部分構造を存在確率や安定性・不安定などの各指標にもとづき定量的に評価する方法論を確立し、その結果、mRNA上にはいつも同じ構造を取ろうとする安定な部分構造が存在することを明らかにしました(図9)。

 

図9. mRNA標的低分子創薬実現への突破口

 


 

当社は、これらの方法論を実装した当社独自のRNA構造解析ソフトウェア「MobyDick」により、任意のmRNAから高速で網羅的に部分構造を発見し、低分子医薬品の標的に適したターゲット構造(一般的に、存在確率が高く安定であり、低分子化合物の結合が期待される部分構造)を定量的な評価にもとづき特定できるという強みを持っています。このターゲット探索の強みを活かして、製薬会社の幅広い創薬ニーズに応えるmRNA標的低分子創薬を可能にしています。

 

d 高い達成率を誇るターゲット探索とスクリーニング

当社のibVISプラットフォームは、ターゲット探索とスクリーニングにおいて高い達成率を誇っています。製薬会社との共同創薬プロジェクトでは、これまでに製薬会社が選定したがん、中枢神経疾患、感染症等に関連するmRNAに対してターゲット探索を実施し、ターゲット探索で得られたターゲット構造に対して数万から数十万の化合物ライブラリーを使用した高速・高感度スクリーニング(qFRET)を実施しました。その結果、ターゲット探索の達成率は約97%(39個中38個のmRNAでターゲット構造を複数同定)、スクリーニングの達成率は約98%(48個のターゲット構造に対してスクリーニングを実施し、47スクリーニングで当社が定義するヒット化合物を複数取得)であり(図10)、結果的に創薬対象とするmRNAの選定から約95%の成功率でヒット化合物を取得しています(2023年11月末現在)。

 

 

図10. 高い達成率を誇るibVISプラットフォームのターゲット探索とスクリーニング

 


(注1) ターゲット探索の図中のターゲット構造はイメージであり、実際の創薬研究で用いているターゲット構造ではありません。

(注2) ターゲット探索とスクリーニングの達成率は2023年11月末現在のものです。

 

e ヒット化合物検証(細胞実験)

ヒット化合物を得た後は、化合物の「細胞内での効果」を確認するため、細胞実験にてヒット化合物が対象となる疾患関連タンパク質の発現量に与える影響を確かめます。これまでの製薬会社との共同研究では、様々なヒット化合物が細胞実験により対象となる疾患関連タンパク質を減少させている、すなわち「細胞内での効果」を示す結果が得られています(図11)。この効果を示す化合物の濃度はまだ医薬品としては十分ではありませんが、この後の医薬品候補化合物の取得を目指した合成展開を開始するのに十分なスタート地点であると当社は考えております。また、こうしたヒット化合物の特性は、ibVISプラットフォームの創薬技術に含まれるBLI/ITCによる結合の強度測定やNMRによる結合の特徴測定によっても確認されます。

 

図11.スクリーニングにより取得したヒット化合物の細胞内での効果検証(細胞実験結果)

 


 

左図:疾患関連タンパク質(c-Myc)のmRNA上に発見したターゲット構造に対してスクリーニングで取得した化合物(VSC0075)を細胞に

添加することで、細胞内のc-Mycタンパク質量が下がっている(一般的なタンパク質の代表であるHSP90 betaにはほとんど影響がない)。

右図:製薬会社のうち6社について、スクリーニングで取得した化合物(Compound A-H)の細胞実験結果をそれぞれ一例ずつ示している。

 

 

 

③ その他のmRNA関連創薬の取組み

当社のインシリコRNA構造解析は、mRNA標的低分子創薬のターゲット探索だけではなく、mRNAの構造を詳細に解析できるという一般性から様々な創薬への応用が可能であると考えております。当社は、事業の安定性を担保する観点から、主事業のmRNA標的低分子創薬に続く将来事業を準備しています。

具体的には、これまで理論的な配列設計が困難とされてきた核酸医薬品の一種であるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)※28の配列設計にインシリコRNA構造解析を応用しております。当社のインシリコRNA構造解析により、短期間で医薬品候補化合物を取得でき(当社では最短8カ月で取得)、その結果研究開発費を抑えることが可能になると考えております。当社はこれまでに、ASOの創薬研究で医薬品候補化合物を獲得し、物質特許を取得した実績もあるため(詳細は「(4) プロジェクトの進捗状況 ③ その他プロジェクト(自社研究)」を参照)、将来的に社内でもパイプラインを保有する方針に転換(ビジネスモデル転換)する際には、低分子化合物と同様にASOを有力な自社パイプライン候補とすることを想定しています(詳細は「(3) ビジネスモデルの特徴 ④ ビジネスモデルの転換」を参照)。

このように、主事業及びASOの創薬研究を通じてmRNAについて深く理解し、インシリコRNA構造解析技術を向上させたことで、新型コロナウイルス感性症のmRNAワクチンに代表されるmRNA医薬品の体内での不安定性や凝集などの各種課題を解決する配列設計や、mRNA以外のRNA(以下「ncRNA」という)を標的とした創薬にもインシリコRNA構造解析技術の適用が可能になりました。これらmRNA医薬品とncRNA標的医薬品のプロジェクトも、初期的ではあるものの進行中であり(プロジェクトの進捗は「(4) プロジェクトの進捗状況 ③ その他プロジェクト(自社研究)」を参照)、製薬会社等から共同研究や事業協力の申し出があれば将来的に当社事業として組み込むことを想定しています。

 

 

 

(3) ビジネスモデルの特徴

① ビジネスモデルの概要

当社は、より多くのmRNA標的低分子医薬品を迅速に社会に届けるため、製薬会社の幅広いニーズに応える汎用性の高いibVISプラットフォームを武器として、複数の製薬会社と多数の共同創薬プロジェクトを同時に進行させる「プラットフォーム型」のビジネスを展開しています(図12)。製薬会社との契約では、契約一時金、研究支援金にとどまらず、マイルストーン、ロイヤリティ等の対価を規定することにより、契約締結直後から長期的かつ継続した事業収益の確保を目指します。当社のようなバイオテク企業にとって、複数の共同創薬プロジェクトを同時進行するプラットフォーム型ビジネスは、安定した事業収益を確保する観点や、製薬会社との提携によってmRNA標的低分子医薬品の潜在的な市場のシェアを確保して数多くの医薬品を患者様にお届けする観点から、合理的なビジネスモデルであると考えております。

当社は現時点において、このプラットフォーム型ビジネスのもと、主な事業収益の源泉となる製薬会社との共同創薬プロジェクトを効率的に進めるため、アカデミアとの共同研究をはじめ、各種機関・企業と業務提携を結んでいます(図13)。

 

図12. 創薬系バイオテク企業のビジネスモデル

 


 

図13. Veritas In Silicoの事業系統図


(注) 製薬会社から当社への対価の詳細は下記「②契約形式」をご参照ください。

 

 

 

② 契約形式

当社は、製薬会社と医薬品候補化合物を取得するまでの創薬研究を共同で実施する共同創薬研究契約を締結することを基本としています(図14)。共同創薬研究契約では、製薬会社から創薬対象とするmRNA(標的遺伝子)の情報を受領後、その標的遺伝子ごとにプロジェクトを設定し、各プロジェクトの進捗状況に応じて一連の継続的な事業収益が得られるように規定しています(図14、表3)。

当社と製薬会社の共同創薬研究契約に基づくパートナーシップ(以下、当社と共同創薬研究契約等に基づき、共同で創薬研究を実施する製薬会社を「パートナー」という)は、当社技術を用いて当社とパートナーが共同で医薬品候補化合物を創出する創薬研究段階と、医薬品候補化合物の創製における当社貢献部分をパートナーに譲渡し、パートナーが医薬品候補化合物の開発・販売を行うことで、当社に事業収益が発生する開発・販売段階で構成されます(図14)。各段階において当社が計上する主な事業収益は以下の通りです。

 

図14. Veritas In Silicoの収益構造

 


 

(注1) 現時点(2023年11月末現在)、当社と製薬会社との協業から製薬会社による開発・販売段階にまで進んだ実績はありません。

(注2) 上市までの期間については、実際の研究開発状況により大きく異なる可能性があります。

(注3) ibVISプラットフォームを使用した当社と製薬会社の協業は、創薬研究期間中に限られます。

(注4) 開発・製造・販売ライセンスに関する取り決めについては、共同創薬研究契約に盛り込まれる場合もあります。

 

表3. 主な事業収益の内容

 

事業収益名

内容

契約一時金

契約締結時に一時金として受け取る事業収益

研究支援金

研究実施等に対する対価として創薬標的ごとに受け取る事業収益

マイルストーン

研究・開発・売上の進捗に応じて、事前に設定したイベントを達成した際に受け取る事業収益

ロイヤリティ

医薬品販売開始後に年間の売上高に応じて受け取る事業収益

 

 

a 創薬研究

当社の共同創薬研究契約では、通常締結時にibVISプラットフォームの使用に対する技術アクセスフィー等として「契約一時金」をパートナーより受領します。研究開始後、研究実施に対する費用支援・対価等として標的遺伝子ごとに設定された「研究支援金」を研究期間中毎年受領します。また、創薬研究中に追加的な研究が必要となる場合には、追加の「研究支援金」を標的遺伝子ごとに受領します。さらに、パートナーと事前にいくつかの研究達成目標、すなわちマイルストーンを設定し、当該マイルストーンを達成した場合には、パートナーより「研究マイルストーン」を受領します。

 

 

b 開発・販売

当社の共同創薬研究契約では、基本的に、創薬研究における成果の当社貢献度に基づき、当社が開発・販売において受領する「開発マイルストーン」、「ロイヤリティ」、「売上マイルストーン」等の経済条件についても以下のとおり規定しています。

創薬研究で医薬品候補化合物を取得し、パートナーにより非臨床試験に進む判断がされた場合には、当社はこの段階で、最初の「開発マイルストーン」を受領します。その後、医薬品候補化合物の開発はパートナーに委ねられますが、パートナーによる開発が進み、臨床試験に移行した場合には、臨床試験の段階ごとに追加的に「開発マイルストーン」を受領します。さらに、最終的に医薬品として上市された場合には、売上金額に一定の料率を乗じて得られる金額を「ロイヤリティ」として受領します。加えて、上市された医薬品の年間の売上高が所定の売上額に達した場合には、「売上マイルストーン」を受領します。

なお、2023年11月末現在において、当社とパートナーとの共同創薬研究は全て創薬研究段階であり、パートナーが単独で実施する開発・製造・販売にまで進んだ実績はありません。

 

③ 知的財産戦略(特許及びソフトウェア著作権)

当社は、ibVISプラットフォームの「ターゲット探索」と「スクリーニング」の特許による権利化と、各種自社製作ソフトウェアで構成されるデジタル技術の秘匿化により、プラットフォーム全体の独占性を二重に担保しています(図15)。

特許「RNAの機能を制御する化合物のスクリーニング方法」により権利化した技術は、デジタル技術の「MobyDick2D」と創薬技術の「qFRET」です。主に、これらの技術を利用するibVISプラットフォームの「ターゲット探索」と「スクリーニング」では、権利化した特許によって他社の利用を排除でき、当社の優位技術として製薬会社に活用いただいています。

創薬研究の各プロセスは、当社が独自開発し継続的にアップデートしている大量のデータ解析や実験のサポートをする自社ソフトウェアを使用することにより、はじめて実施可能となります。また、各プロセスに導入しているこれらデジタル技術により、並列処理による効率化と精度の高い創薬の実現にくわえ、製薬会社のニーズに応じた技術移転を容易とすることで、スケーラブルな創薬が可能になっています。

 

図15. ibVISプラットフォームに係る知的財産権及び自社製作ソフトウェアによる独占性の担保

 


(注) 特許6781890号 RNAの機能を制御する化合物のスクリーニング方法

 

 

 

④ ビジネスモデルの転換

当社は、mRNA標的低分子創薬の潜在的な市場のシェアをある程度確保した後に、プラットフォーム型ビジネスにくわえ、自社でパイプラインの開発も進めるハイブリッド型ビジネスへの転換を計画しています。プラットフォーム型ビジネスによりパートナー数を増やし、パートナーから中長期的に充分な収益が見込めるようになった段階(当社では2026年頃と想定)で、自社パイプラインの開発を開始することを目指しますが、当面は、開発の早い段階で製薬会社にライセンスアウトする方針です。

自社パイプラインの候補としては、「(4) プロジェクトの進捗状況 ② mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(自社研究) ③ その他プロジェクト(自社研究)」のmRNA標的低分子医薬品及び核酸医薬品のプロジェクトのほか、当社では核酸医薬品の医薬品候補化合物を取得するまでに要する期間が最短8か月と短いことから、新規の核酸医薬品のプロジェクトも自社パイプラインとして有力な候補になると考えています。

 

 

 

(4) プロジェクトの進捗状況

① mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(共同創薬研究)

mRNA標的低分子創薬のプラットフォーム型ビジネスを展開する当社は、多額の開発費を投入して少数の自社パイプラインを育てる代わりに、共同創薬研究のパートナー数を増やすとともに、各パートナーとのプロジェクトを進捗させることで、相乗的な事業拡大を図っています。当社はこれまでに、プラットフォーム型ビジネスの特徴を活かしたパートナーとの共同研究を通じてibVISプラットフォームの技術力向上を達成し、より高収益の共同創薬研究契約の締結が可能になりました(図16)。現在、共同創薬研究のパートナー4社(東レ株式会社、塩野義製薬株式会社、ラクオリア創薬株式会社、武田薬品工業株式会社)とのプロジェクトが進捗しています。

 

 図16. プラットフォーム型ビジネスを活用した技術力向上と事業拡大

 

(注) Oncodesign ServicesとはMOUのもと新規顧客獲得で協力関係にありますが、具体的な事業提携はしておりません(2023年11月末現在)。今後は、Oncodesign Servicesの医薬品開発業務受託機関(CRO)としての実力や実績を活かし、新規顧客獲得の協力にとどまらず、既存及び新規共同創薬研究のパートナーの創薬ニーズへの対応や、当社の将来の自社パイプラインの準備等で本格的に事業提携することを想定しています。

 

共同創薬研究中のパートナー4社とのプロジェクトが進捗しており、4社とのプロジェクト中で最も進んでいるプロジェクトは、現在「ヒット化合物検証」を実施中の段階です(図17)。

 

図17. 共同創薬研究中の製薬会社のプロジェクト進捗状況

(注1) 製薬会社との共同創薬プロジェクトは契約上守秘義務があるため、プロジェクトで対象としている疾患及び

    経済条件については、一部記載を「非開示」としています。

(注2) 東レとの共同創薬研究では、医薬品候補化合物の権利は東レと当社で共有します。

 

当社は、共同研究及び共同創薬研究の契約にもとづき、これまでに合計5.5億円の事業収益を獲得しています(2023年9月末現在)。今後は、共同創薬研究中のパートナー4社との契約にもとづき、短期的(創薬研究期間中)には17.8億円(このうち5.5億円は取得済)の研究支援金又は研究マイルストーン、中期的(開発期間中)には80.5億円の開発マイルストーンを事業収益として獲得する可能性があります(図18)。さらに、医薬品が上市した場合には、長期的(販売期間中)に、1桁台前半パーセント(%)のロイヤリティ及び販売額に応じたマイルストーン収入(最大1,050億円)が見込まれます(図18)。ただし、東レの場合には、医薬品候補化合物の権利は東レと当社で共有することになっており、当社は化合物の持分に応じた収益を受領することになります。

なお、研究・開発・売上のマイルストーンについては、いずれも既存のプロジェクトが全て成功した場合の最大値を示しています。創薬の成功確率は相対的に高くはなく、現実的に全てのプロジェクトが成功するわけではなく、一部又は全部のプロジェクトが成功に至らない場合や、成功に至った場合であっても当初想定した売上が達成できない場合等には研究・開発・売上のマイルストーンが減少する可能性がある点に十分ご留意ください。

 

図18. 既存の共同創薬研究契約から得られる事業収益のポテンシャル

 


 

(注) 取得済総額は、共同研究により取得した収益を含みます。マイルストーンは、いずれも既存のプロジェクトが全て成功した場合の最大値を示しています。創薬の成功確率は相対的に高くはなく、現実的に全てのプロジェクトが成功するわけではない点に十分留意が必要です。

 

② mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(自社研究)

mRNA標的低分子創薬は様々な疾患への応用展開が可能なことから、共同創薬研究開始後、パートナーあたりのプロジェクト数が積み上がる場合がある一方、パートナー側の社内優先順位等の関係で、一部のプロジェクトが中止される場合もあります。当社は、パートナーとの契約締結の際に開発・製造・販売ライセンスに関する取り決めを盛り込む場合を除き、中止されたプロジェクトの成果の当社への譲渡について契約書に規定することにより、自社プロジェクトへ転用することを可能にしています。実際に、中止されたプロジェクトのうち有望なプロジェクトについては自社プロジェクトに転用しており、事業開発や創薬プラットフォームの技術開発のために活用しています。

当社のmRNA標的低分子創薬のプロジェクトは、医療ニーズの高いがん領域が中心であり、将来的に当社のビジネスモデルをハイブリッド型に移行する際には、これらのプロジェクトが自社パイプラインの有力な候補になると考えております(図19)。現時点においては、一部のプロジェクトについて、事業開発や創薬プラットフォームの技術開発を目的とした社内研究を実施するにとどめており、具体的に自社パイプライン候補として進捗しているプロジェクトはありません(2023年11月末現在)。

 

 

図19. mRNA標的低分子創薬の自社プロジェクト進捗状況

 


(注1) 現時点(2023年11月末現在)、進捗しているプロジェクトはありません。

(注2) これらのプロジェクトは、製薬会社との共同創薬プロジェクトを当社の自社プロジェクトとして譲り受けたものです。

    自社プロジェクトとして再開する際には、事業の自由度を確保するために改めてスクリーニングから実施する必要があります。

 

③ その他プロジェクト(自社研究)

当社は、希少疾患を中心に、将来のハイブリッド型ビジネスを見据えた核酸医薬品 (核酸医薬品の一種であるASO) のプロジェクトを保有しています。また、mRNA医薬品及びncRNA標的医薬品のプロジェクトは、現在基礎研究(ターゲット探索)を実施中です(図20)。

核酸医薬品のプロジェクトは、急性腎不全や脱毛症を対象疾患とした遺伝子p53に対するASO、及び東京慈恵会医科大学の岡野ジェイムス洋尚教授との共同研究により創出された、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患を対象疾患としたASOであり、両プロジェクトともに医薬品候補化合物を取得して物質特許を出願し、p53のASOについては日本で特許が権利化されました。

mRNA医薬品(mRNA補充療法)では、タンパク質補充療法の実例があるファブリー病とハンター症候群に着目し、これら疾患の治療で補充すべきタンパク質の設計図となるmRNAをもとに、血中で安定し、自己凝集しないmRNA医薬の配列設計を開始しています。

ncRNA標的医薬品のプロジェクトとしては、ncRNAの中でも機能が解明され、多発性骨髄腫への関与がわかっているncRNAに対して、核酸医薬品を創出するプロジェクトを開始しています。

 

図20. 核酸医薬品、mRNA医薬品及びncRNA標的医薬品の自社プロジェクト進捗状況

 


(注) 特許6934695号 核酸医薬とその使用

 

 

<用語解説>

 

用語

解説

※1

RNA

核酸(塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドが多数重合した生体高分子。DNA※10も核酸の一種)のうち、糖の部分がリボースからなる物質であり、リボ核酸とも呼ばれる。生体内において、遺伝情報の伝達など多くの生命現象にかかわっている。遺伝情報を伝達するメッセンジャーRNA(mRNA)※2、タンパク質の原料であるアミノ酸を運ぶ機能を担う転移RNA(tRNA)、リボソーム※13を構成するリボソームRNAなどに分類される。

※2

メッセンジャーRNA(mRNA)

遺伝情報であるDNA配列を写しとって、タンパク質合成のために情報を伝達するRNA。mRNAは、細胞内でタンパク質が合成される際の設計図であり、各タンパク質に対応してそれぞれ個別のmRNAが存在する。

※3

統計力学

統計物理学ともいう。物質を構成する多数の粒子の運動に力学法則及び電磁法則と確率論とを適用し、物質の巨視的な性質を統計平均的な法則によって論じる物理学の分野。当社は、RNAの構造解析にこれら統計力学の理論を適用できることを見出し、創薬に応用している。

※4

 

熱力学

熱力学とは、巨視的な立場から物質の熱的性質を研究する物理学の一分野であり、系全体のマクロな性質を扱う理論である。複雑な系である生物学には当てはまらないとされることが多い。当社は、RNAの構造解析にこれら熱力学の理論を適用できることを見出し、創薬に応用している。

※5

核酸医薬品

DNAやRNAといった遺伝情報を司る物質「核酸」そのものを利用した医薬品であり、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)※28などがある。従来のタンパク質を標的とする低分子医薬品や抗体医薬品では狙えないmRNA等を創薬標的とすることができる。分子量は低分子医薬品と抗体医薬品の中間にあたり、中分子医薬品とも呼ばれる。商業製造法が確立途中であるため、製造コストは、高額と言われる抗体医薬品よりもさらに高額となる。また抗体医薬と同様に、主に注射により投与される。

※6

低分子医薬品

一般的に分子量が500以下の医薬品。飲み薬や貼付薬など様々な投与方法に展開することが可能である。また製造は化学合成によるため、品質の管理が容易であり、また商業製造法が確立されているため、抗体医薬や核酸医薬品等と比べて極めて安価である。そのため最も一般的に流通し、医薬品市場の約半分を占めている。

出典:内閣官房 健康・医療戦略室委託事業「令和二年度 医薬品・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連の産業化に向けた課題及び課題解決に必要な取組みに関する調査報告書」

※7

パイプライン

臨床試験・臨床試験など開発段階にある医薬品候補化合物(新薬候補)を当社ではパイプラインと呼び、非臨床前の創薬研究段階のプロジェクトと区別している。

※8

抗体医薬品

体内に「抗体」を投与することで治療効果を得ようとする医薬品の総称。創薬標的にピンポイントで作用させることができるため、高い治療効果と副作用の軽減が期待できる。一方、抗体医薬品は製造工程が複雑で品質の管理が難しいため、製造コストが高く、薬価が高額となる。また核酸医薬品と同様に、現在は注射によってのみ投与されている。

※9

研究開発

医薬品の研究開発とは、新しい医薬品を市場に投入するまでの一連のプロセスをいう。そのうち、研究(創薬研究、基礎研究)は、当社がibVISプラットフォームにより技術提供が可能な「ターゲット探索」「スクリーニング」「ヒット化合物検証」「リード化合物最適化」に至る医薬品候補化合物※14を取得するまでのプロセスであり、開発は、医薬品候補化合物取得後の非臨床試験、臨床試験に加え、承認申請及び規制当局の承認を含む非臨床試験以降の全てのプロセスである。

※10

DNA

核酸(塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドが多数重合した生体高分子)のうち、糖の部分がデオキシリボースからなる物質であり、デオキシリボ核酸とも呼ばれる。地球上のほぼ全ての生物において遺伝情報の継承を担う生体高分子である。

※11

インシリコ

インシリコ(in silico)は、生物学でいうin vivo(生体内)やin vitro(試験管内)とのアナロジーであり、「コンピュータを用いて」を意味する。すなわち、コンピュータを使った計算により、ゲノムをはじめとした生体分子の構造などを数値化し、生理的な条件を踏まえて研究することを指す。

※12

スクリーニング

多数の化合物群(一般的に、数万種類以上の化合物からなるライブラリー)から、特定の条件を満たす化合物を選択するための実験方法のこと。

※13

リボソーム

数本のRNA分子と50種類ほどのタンパク質で構成される巨大なRNAとタンパク質の複合体。大小2つの部分に分かれており、それぞれ 50Sサブユニット、30Sサブユニットと呼ばれる。あらゆる生物の細胞内に存在し、mRNAに転写された遺伝情報を読み取ってタンパク質を合成(翻訳)する機構として機能する

 

 

 

用語

解説

※14

医薬品候補化合物

医薬品候補化合物は、リード化合物を化学合成によりさらに改善したものであり、当社の創薬研究ステップの最終成果物である。医薬品候補化合物は、動物等を用いた非臨床試験にて、その有効性と安全性を国際的な基準の下で確認した後、最終的に、ヒトを対象とした試験(臨床試験)に用いられる。臨床試験の結果を規制当局に申請後、審査を経て承認されると医薬品となる。

※15

ヒット化合物

創薬で用いられる用語。本書においては、ヒット化合物は、創薬の初期のスクリーニングで発見された活性化合物のことを示す。

※16

リード化合物

創薬で用いられる用語。本書においては、リード化合物は、ヒット化合物の次の段階の化合物であり、ヒット化合物を基礎に化学合成により手が加えられ、その活性が動物などで確認される等、ヒット化合物より良好な物性を示す化合物のこと。さらに、活性、溶解度などの物性、毒性、飲み薬にした場合に化合物が吸収されるかなど(薬物動態)の点を化学合成によりさらに改善する基礎になる化合物。ただし、その基準は各製薬会社でさまざまである。

※17

合成展開

低分子医薬品の創出を目的として、低分子化合物を多数合成していくことをいう。具体的には、スクリーニングで取得したヒット化合物等を基点に、目的(活性の向上、薬物動態、毒性の低減等)に合うように新たに構造が類似した低分子化合物を多数設計し、有機化学的に合成して用意する。この新たに用意された低分子化合物に対し各種の試験を行い、より目的にかなう低分子化合物を選択し、その化合物を基点として合成展開は続けられる。このサイクルは、低分子医薬として充分なプロファイルを持つ化合物が得られるまで続けられる。

※18

NCBI

NCBI(National Center for Biotechnology Information;国立バイオテクノロジー情報センター)。米国国立衛生研究所の下の国立医学図書館の一部門として設立された公的機関。最も信用のおける遺伝子情報等のデータが蓄積されているため、当社では、使用するmRNAの塩基配列情報を主としてNCBIデータベースより取得している。

※19

NMR

核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)。分光学的測定法の一つ。磁場を与えられた状態の原子核に外部から電磁波を照射し、特定の電磁波を吸収する現象(共鳴現象)を観測することで、物質の構造的情報などを取得する方法。当社では、RNAの二次構造情報の取得に加え、ヒット化合物等の低分子化合物がRNAに結合する様子や、RNAの三次元構造の解析にも使用している。

※20

FRET

FRET(Fluorescence Energy Transfer;蛍光共鳴エネルギー移動法)。物質間の距離の変化に応じて蛍光強度が変化する現象を利用した物質の形状変化をリアルタイムに測定する研究手法。生命科学研究において不可欠な技術となっている。

※21

qFRET

qFRET(Quantitative Fluorescence Energy Transfer;定量的蛍光共鳴エネルギー移動法)。当社独自の実験プロトコル、実験機器、データ解析手法を統合することにより、蛍光共鳴エネルギー移動法に定量性を持たせた研究手法。

※22

BLI

BLI(Bio-Layer Interferometry;バイオレイヤー干渉法)。熱力学的測定法の一つ。核磁気共鳴センサーチップ上に固定した生体分子と、溶液中の分子の相互作用を測定する装置。当社では、構造をとったRNAをセンサーチップ上に固定し、スクリーニングで取得したヒット化合物等の低分子化合物を流して、両者間の相互作用を測定することに使用している。高速に測定できるほか、ごく微量でも測定可能であることが特徴。

※23

ITC

ITC(Isothermal Titration Calorimetry;等温滴定型熱量測定)。熱力学的測定法の一つ。分子同士が結合する時に発生する微小な熱量変化を計測し、相互作用解析に用いる装置。当社では、RNAとスクリーニングで取得したヒット化合物等の低分子化合物との相互作用を測定することに使用している。一般的に、得られる相互作用の数値は他の手法よりも正確だといわれるが、測定に時間がかかり、多くの試料を要するというデメリットがある。

※24

熱力学的測定法

熱力学的測定法は、等温滴定型熱量測定 (Isothermal Titration Calorimetry;ITC)等により、結合分子を創薬標的に滴下した際に起こる化学反応もしくは結合反応を観測する測定法。物質同士が結合する際には熱の発生もしくは吸収が起こるため、熱量変化を観測することにより、物質同士の結合を定量的に解析することができる。

※25

分光学的手法

物理的観測量の強度を周波数、エネルギー、時間などの関数として示すスペクトル(測定結果の成分を、量の大小によって並べて、解析しやすくしたもの)を得ることで、対象物の定量あるいは物性を調べる研究手法である。日本語では「光」という漢字を使うが、必ずしも光を用いる測定法のみが分光学的手法ではない。

 

 

 

用語

解説

※26

X線結晶構造解析

タンパク質やRNAなどが三次元的に規則正しく並んだ結晶をつくり、その結晶にX線を照射することでそれらの三次元構造を解析する手法。X線結晶構造解析技術は、タンパク質やRNA単体はもちろんのこと、タンパク質-化合物複合体やRNA-化合物複合体の三次元構造情報を得るための手段の1つとして用いることができる。

※27

量子化学

理論化学(物理化学)の一分野。主として分子や原子、あるいはそれを構成する電子などの振る舞いを、シュレディンガー方程式といった根源的な理論にもとづく数値計算によって解くことにより、分子構造や物性あるいは反応性を理論的に探究する学問分野である。

※28

アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)

核酸医薬品のカテゴリーの一つ。一本鎖のDNAやRNAからなり、mRNAに結合して主にタンパク質の合成(翻訳)を制御する働きを持つ。ASOに安定性や機能などを追加することを目的として様々な化学的な修飾を導入することができる。

 

 

 

 

 

4 【関係会社の状況】

該当事項はありません。

 

5 【従業員の状況】

(1) 提出会社の状況

2023年11月30日現在

従業員数(名)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(千円)

15

44.2

4.2

6,824

 

(注)1.従業員数は、臨時従業員(パート職員)を除いた就業人員数であります。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.当社は創薬プラットフォーム事業の単一セグメントであるため、セグメント別の従業員数の記載はしておりません。

4.臨時従業員(パート職員)の総数が従業員数の100分の10未満であるため、平均臨時雇用者数の記載を省略しております。

 

(2) 労働組合の状況

労働組合は結成されておりませんが、労使関係は円満に推移しております。