第二部 【企業情報】

 

第1 【企業の概況】

 

1 【主要な経営指標等の推移】

 

 

回次

第2期

第3期

第4期

第5期

第6期

第7期

決算年月

2018年3月

2019年3月

 2019年9月

 2020年9月

 2021年9月

 2022年9月

売上高

(千円)

116,359

202,439

101,670

381,054

656,660

733,049

経常利益又は
経常損失(△)

(千円)

50,630

54,176

35,690

71,099

84,416

55,381

当期純利益
又は当期純損失(△)

(千円)

34,209

36,349

35,725

53,246

60,645

39,846

持分法を適用した
場合の投資利益

(千円)

資本金

(千円)

10,000

10,000

10,000

10,000

34,999

534,999

発行済株式総数

(株)

2,300

2,300

2,300

11,500,000

11,730,414

14,077,828

純資産額

(千円)

44,239

80,589

44,863

98,110

208,755

1,169,686

総資産額

(千円)

79,833

171,205

107,917

280,494

413,912

1,319,566

1株当たり純資産額

(円)

19,234.64

35,038.87

19,506.00

8.53

17.80

83.09

1株当たり配当額
(1株当たり中間配当額)

(円)

(-)

(-)

(-)

(-)

(-)

(-)

1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)

(円)

 17,728.95

15,804.23

15,532.87

4.63

5.26

3.31

潜在株式調整後
1株当たり当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

55.4

47.1

41.6

35.0

50.4

88.6

自己資本利益率

(%)

129.2

58.2

57.0

74.5

39.5

5.8

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

営業活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

57,708

182,209

投資活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

14,461

54,495

財務活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

37,555

987,723

現金及び現金同等物
の期末残高

(千円)

214,759

965,777

従業員数
〔外、平均臨時雇用者数〕

(名)

2

8

11

18

31

40

7

6

5

5

3

3

 

 

(注) 1.当社は連結財務諸表を作成しておりませんので、連結会計年度に係る主要な経営指標等の推移は記載しておりません。

     2.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準29号 2020年3月31日)等を第7期の期首から適用しており、第7期に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を適用した後の指標等となっております。

     3.持分法を適用した場合の投資利益については、関連会社が存在しないため記載しておりません。

     4.1株当たり配当額及び配当性向については、配当を実施していないため、記載しておりません。

   5. 第2期、第3期、第4期及び第5期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額については、新株予約権の残高がないため、記載しておりません。

     6.第6期及び第7期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できないため、記載しておりません。

7.当社株式は非上場であるため株価収益率を記載しておりません。

8.前事業年度(第6期)及び当事業年度(第7期)の財務諸表については、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、有限責任大有監査法人により監査を受けております。なお、第2期、第3期、第4期及び第5期の財務諸表については、会社計算規則(平成18年法務省令13号)の規定に基づき算出した各数値を記載しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定による監査を受けておりません。

9.2019年5月24日開催の第3期定時株主総会決議により、第4期より決算日を3月31日から9月30日に変更しております。

10. 第4期において経常損失及び当期純損失を計上している主な要因は、決算期変更により6ヵ月の変則決算となったことによるものであります。

11. 第7期は、事業拡大に向けた採用・育成の加速や、人員増加に伴うオフィス拡張等により費用が増加し、経常損失及び当期純損失となり、第7期の営業活動によるキャッシュ・フローもマイナスとなっております。また、第7期の投資活動によるキャッシュ・フローは、人員増加に伴うオフィス拡張等による支出が増加したことによりキャッシュ・フローがマイナスになっております。第7期の財務活動によるキャッシュ・フローは、新株発行によりキャッシュ・フローが大幅にプラスとなっております。

12.第2期、第3期、第4期及び第5期についてはキャッシュ・フロー計算書を作成しておりませんので、キャッシュ・フローに係る各項目については記載しておりません。

13. 2020年1月29日付で普通株式1株につき5,000株の株式分割を行っておりますが、第5期の期首に当該株式分割が行われたと仮定し、1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益を算定しております。

14.2020年1月29日付で普通株式1株につき5,000株の株式分割を行っております。

そこで、東京証券取引所自主規制法人の引受担当者宛通知「『新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)』の作成上の留意点について」(平成24年8月21日付東証上審第133号)に基づき、第2期の期首に当該株式分割が行われたと仮定して算定した場合の1株当たり指標の推移を参考までに掲げると、以下のとおりとなります。なお、第2期、第3期、第4期及び第5期の数値(1株当たり配当額についてはすべての数値)については、有限責任大有監査法人の監査を受けておりません。

 

回次

第2期

第3期

第4期

第5期

第6期

第7期

決算年月

2018年3月

2019年3月

2019年9月

2020年9月

2021年9月

2022年9月

1株当たり純資産額

(円)

3.85

7.01

3.90

8.53

17.80

83.09

1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)

(円)

3.55

3.16

△3.11

4.63

5.26

△3.31

潜在株式調整後1株当たり当期純利益

(円)

1株当たり配当額

(円)

 

 

 

2 【沿革】

 

2016年4月

人工知能技術を用いたソリューション開発、人工知能の活用に関するコンサルティングを目的として東京都文京区に株式会社Laboro.AI(資本金1,000千円)を設立

 

『カスタムAI』サービス(注1)開始

 

『ソリューションデザイン』(注1)の手法体系整備開始

2017年5月

東京都中央区に本社を移転

2017年9月

『マッチングソリューション』(注2)リリース

2018年1月

『文章分類・タグ付けソリューション』(注2)リリース

2018年4月

沖電気工業株式会社と感情推定技術の共同研究

2019年2月

パーソルテクノロジースタッフ株式会社へ『マッチングソリューション』を用いたカスタムAIを提供

2019年8月

株式会社日本総合研究所へ『文章分類・タグ付けソリューション』を用いたカスタムAIを提供

2019年12月

株式会社大林組へ深層強化学習を用いたカスタムAIの提供により振動制御システムを開発

 

『強化学習による振動制御ソリューション』(注2)リリース

 

『不良・異常検出ソリューション』(注2)リリース

2020年4月

オリジナル日本語版BERT(注3)モデル『Laboro.AI日本語版BERTモデル(LaboroBERT)』公開

2020年11月

非破壊検査株式会社へ『不良・異常検出ソリューション』を用いたカスタムAIを提供

 

日本語音声コーパス(注4)『LaboroTVSpeech』公開

2020年12月

オリジナル日本語版BERT(注3)モデル『Laboro DistilBERT』公開

2021年1月

Rustベースの深層強化学習フレームワーク『Border』(注2)を開発開始

2021年3月

カスタムAI提供により開発されたウェブサービス「勝ち飯®AI」β版を味の素株式会社がリリース

2021年4月

公益性の高いテーマに対してカスタムAIを無償提供するプロボノ活動開始

2021年7月

株式会社SCREENアドバンストシステムソリューションズと幅広いAI関連プロジェクトを共同実施する内容の資本業務提携

2021年8月

プロボノ活動(社会貢献活動として無償でプロジェクトを行う取組)として山口県 指定無形文化財「鷺流狂言」の伝承・普及へカスタムAIを提供

2021年12月

『強化学習による組合せ最適化ソリューション』(注2)リリース

2022年6月

株式会社博報堂と幅広いAI関連プロジェクトを共同実施する内容の資本業務提携

2022年7月

カスタムAI搭載カメラソリューション『L-Vision』(注2)リリース

 

THK株式会社と資本提携

2022年9月

三井化学株式会社(出資主体はMCIイノベーション投資事業有限責任組合)、株式会社ゼンリン(出資主体はZFP第1号投資事業有限責任組合)、日本ガイシ株式会社、株式会社SCREENホールディングスとの資本提携

2023年3月

『ビジネス潜在ニーズ探索ソリューション』(注2)リリース

 

(注1)「3 事業の内容 (1)事業の概況」にて内容を解説しております

(注2)「3 事業の内容 (4) 展開するサービスと販売形態 B)」にて内容を解説しております

 

(注3) BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers): Googleの研究グループが開発しオープンソースとして公開した自然言語処理モデルで、様々な自然言語処理タスクにて標準的なモデルの一つとして利活用される技術

(注4) 日本語の音声とその発話内容を書き起こしたテキストを対応付けて纏めたデータセットで、音声認識や音声生成モデルの学習に利用可能なもの

 

 

3 【事業の内容】

(1) 事業の概況

 当社は、「すべての産業の新たな姿をつくる。」「テクノロジーとビジネスを、つなぐ。」をミッションに掲げ、各産業の代表的な企業との協働を通し、顧客企業のみならず、産業、延いては社会全体の本質的な構造転換に貢献することを目指しています。そのために、顧客企業固有の成長戦略や事業課題に合わせたオーダーメイドのAI開発とAI導入・事業変革のコンサルティングを行う「カスタムAI」サービスを、主に顧客企業の成長や構造転換に直結する新規製品・サービス創出やビジネスモデル変革等のビジネスの新しい施策展開に関連するAIテーマ(当社では「バリューアップ型AIテーマ」と定義)を対象に提供しております。

 


図1:「カスタムAI」の概要

 

 当社が展開する「カスタムAI」サービスの提供内容、及び、その提供を支える当社独自の手法体系である「ソリューションデザイン」の内容は以下の通りであります。

 

1. カスタムAI

顧客企業固有の成長戦略や事業課題に合わせ、最先端の機械学習技術を応用したAIソリューションを開発し、その導入を通した事業変革のコンサルティングを行うことで顧客企業とAIイノベーションを共創するサービスです。AI技術に対して深い知見を持ちソリューション設計とコンサルティングを行う当社独自のAIコンサルタントである「ソリューションデザイナ」と機械学習エンジニアが、顧客企業のメンバーと共にプロジェクトチームを組み、事業変革の企画構想、AIソリューションの要件定義から開発・PoC(Proof of Concept: 実現したいサービスやプロダクトの簡易版を用い実効性を検証する取組)、導入・実装、継続的な再学習・チューニングまでを一気通貫で行います。

 

2. ソリューションデザイン

当社では、カスタムAIサービスの提供において、AI技術に対する深い理解・知見と顧客企業の成長戦略や事業課題への深い理解・洞察を両立し繋ぎ合わせ、適切なAIソリューションの設計とその導入を通した企業変革のデザインを行うことが最も重要と考え、このような営みやそれを遂行する能力を「ソリューションデザイン」と呼ぶ概念で定義しております。

そして、これまで幅広い業界の代表的な企業と通算200を超えるプロジェクトで行なってきた「ソリューションデザイン」の事例を常に組織内で共有し、手法体系として整理・拡張を行なっております。

当社独自のAIコンサルタントである「ソリューションデザイナ」は、ソリューションデザインの体現を通して、AIイノベーションを再現性を持ち創出する能力を備える、新しいタイプのプロフェッショナル(専門家人材)を目指す人材集団です。

 

 

 


 

図2:「カスタムAI」提供の流れ

 

  カスタムAIを提供する具体的な形態として「バリュー・マイニング事業」と「バリュー・ディストリビューション事業」の二つの事業を展開しております。(図3)
 「バリュー・マイニング事業」は、AIの新たな応用価値(バリュー)を掘り起こす(マイニング)意味合いを持ち、当社にて先例のないAIテーマに対し一からソリューションを構築していく形でAI開発・コンサルティングを行います。
 「バリュー・ディストリビューション事業」は、AIの応用価値(バリュー)を広く流通させる(ディストリビューション)意味合いを持ち、先行取組にて蓄積されたノウハウや技術プラットフォーム(「(4) 展開するサービスと販売形態」に詳細)などの資産を応用し、効率的・効果的・スピーディな価値創出を目指す形でAI開発・コンサルティングを行います。

 


 

図3:カスタムAIの2つの提供形態

 

 

 

 

当社がこれまで取り組んできた「カスタムAI」プロジェクトの例は、図4および図5の通りです。

 

 

 


図4:プロジェクト事例(BtoB業界)

 

 

 


図5:プロジェクト事例(BtoC業界)

 

 

 

(2) 外部環境・社会背景について
 現在、AI技術は幅広い産業で実用に向けた実証実験が実施され、様々なAIソリューションが市場に登場しております。但し、「DX白書2023」(注1)によると、特に国内においてはその多くがアナログ・物理データのデジタル化(デジタイゼーション)や業務の効率化による生産性の向上(デジタライゼーション)を目的に導入されていると考えられ、新規製品・サービスの創出や顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革(デジタルトランスフォーメーション)の成果は先行する米国に比べ限定的です。このことから当社は、新規製品・サービスの創出やビジネスモデルの根本的な変革を目的としたビジネスの新しい施策展開に関連するAIソリューションの開発と導入支援サービス(当社では「バリューアップ型AIテーマ」と定義)に大きな市場機会があると考えております。
 当社は、AI技術を今後20~30年以上かけて進む“第四次産業革命”の一つの要素と捉えております。“第四次産業革命”とは、18世紀の最初の産業革命以降4番目の主要な産業の転換期を指し、世界経済フォーラムによればその特徴はデジタルな世界、物理的な世界、人間が繋がり融合することで産業や社会構造の変革が起こることとされています(注2)。当然それはAI技術という一つの要素だけで起こるものではなく、様々な要素が関係しながら各企業や産業、そして社会のアーキテクチャ(全体構造)が転換することによりはじめて実現します。したがって、AI技術活用の本格的な進展は、単に多くのAIソリューションが市場に出回るだけでは進まず、各企業がビジネスそれ自体の在り方に加え、ハードウェア、ソフトウェア、データなどの企業活動を支える技術要素も含めた会社のアーキテクチャ(全体構造)を転換していけるかにかかっていると考えております。

 


図6:第四次産業革命の構図(当社の見立て)

 

 同時に、当社はAI技術を、ソフトウェア全般の在り方を大きく変える技術であるとも捉えております。一部の専門家の間では、従来のIT技術を人間が全ての処理ロジックを定義する「演繹的なプログラミング」により開発される“Software1.0”とした場合、AIの中核を成す機械学習技術はデータから処理ロジックを学習する「帰納的なプログラミング」により開発される“Software2.0”であると言われています(注3)。このプログラミング方法の根本的な違いが、例えば画像認識や生成、機械翻訳、文章の生成や自然な会話などIT技術では実現が難しかったことを可能にしました。ソフトウェアの性質が根本から異なるのであれば、従来のソフトウェア開発や運用を支える技術基盤とは異なる新たな技術基盤の整備がAIソフトウェアには不可欠であると当社は考えております。

 

 

 


図7:Software1.0からSoftware2.0への転換のイメージ

 

 

 当社は以上を踏まえ、企業がAI技術を使ってイノベーションを生み、社会や産業の構造が変わっていくことを支援したいと考えています。そのためには、AI技術を深く理解した上で企業のアーキテクチャ(全体構造)を変えるプロフェッショナル人材(専門家人材)と、AIソフトウェアの開発と運用を支える新たな技術基盤の整備の二つが鍵になると考えております。

 対して、前述の通り「DX白書2023」(注1)によれば国内では未だデータのデジタル化や業務効率化を目的とした取組内容が多く、新規製品・サービス創出やビジネスモデル変革など本来の意味での「デジタルトランスフォーメーション」(デジタルで構造転換を図ること)の進展は先行する米国に比較し大きく遅れております。そして、現在のAIソリューション市場はそれらの取組状況に呼応する形で企業の部分的な業務の効率化を目的とするSaaS型ソリューション(注4)提供やソリューション受託開発を行う企業が多く、新規製品・サービス創出やビジネスモデル変革を通した企業の構造転換を支援するサービスは限定的であると考えております。他方で、先行する米国ではデータのデジタル化や業務効率化と近い水準で構造転換に関する取組内容が進んでいることから、国内においても同様の取組内容が今後進展する潜在可能性は大きいと考えております。このことから当社は、データのデジタル化や業務効率化等のソリューションとは一線を画す「トランスフォーマティブな(企業の構造転換に踏み込む)」指向を持ち、顧客企業固有の成長戦略や事業課題に合わせ、新規製品・サービスの創出やビジネスモデルの変革を目的としたビジネスの新しい施策展開に関連するオーダーメイドのAI開発とAI導入・事業変革のコンサルティングを行うサービスに対する需給ギャップが今後拡大すると考え、このようなサービスに関連する市場を今後大きな市場機会が生まれる「バリューアップ型AIテーマ」市場と定義し捉えております。

 

(注1) 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」(2023年3月)

(注2) 総務省「第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究」(平成29年)

(注3) 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター(CRDS)「研究開発の俯瞰報告書 システム・情報科学技術分野(2021年)」(2021年3月)

(注4) Software as a Service:サービス提供事業者のサーバーで稼働しているソフトウェアを、インターネットなどのネットワークを経由してユーザーが利用するサービス

 

 

 

 (3) 当社の特徴と優位性
 当社の特徴は、顧客企業の成長と構造転換に直結する新規製品・サービス創出やビジネスモデル変革等のビジネスの新しい施策展開に関連するAIテーマ(「バリューアップ型AIテーマ」)に注力をおいてオーダーメイドのAI開発とAI導入・事業変革のコンサルティング(「カスタムAI」)を提供するというサービスコンセプトの下、AIソリューションの開発とその導入によるビジネスの変革を支援する専門人材(「ソリューションデザイナ」と機械学習エンジニア)が先例のないテーマへのチャレンジを行い(「バリュー・マイニング事業」)、それらの取組にて構築されたノウハウや技術を蓄積し応用展開する(「バリュー・ディストリビューション事業」)という二つの提供形態を用意し連動させ、顧客企業と重要なテーマに共に取り組む強固な関係を築いていることです。
 優秀な専門人材が揃い世の中にも先例のないテーマに挑みいち早く成功事例を創出し、そうした成功事例を2つの提供形態(事業)を連動させることで拡大再生産し、結果幅広いテーマのプロジェクトが拡充されることで強固な顧客基盤が形成される。さらに、強固な顧客関係があることでより知的にチャレンジングかつ産業インパクトの大きいテーマに取り組むことが可能となり、そのような魅力的な取組機会がさらに優秀な専門人材を惹きつけ育成を加速する。このようにそれぞれの特徴が連携し相互強化するサイクルが回ることが、当社の優位性を構築しております。(図8)

 

 

 

 


図8:当社特徴と優位性構築のサイクル

 

 ① <人材> 専門人材の集積
 当社は、戦略コンサルティングファームや総合コンサルティングファームにてビジネスコンサルティングの専門経験を積んだ人材、SIer(システムインテグレータ)にてITシステムの開発や運用の専門経験を積んだ人材、データサイエンティストとして高度なデータ解析の専門経験を積んだ人材、事業会社において新規事業の企画・開発の経験を積んだ人材などから、テクノロジーとビジネスに関連する複数の領域において専門経験を積んだ人材を厳選して採用し、OJT(プロジェクトへの従事を通したトレーニング・育成)/Off-JT(プロジェクトへの従事とは別に行われるノウハウや知見の共有や教育)双方を通してソリューションデザインの体系を習得体現する「ソリューションデザイナ」を育成し組織化しております。当人材が顧客企業のプロジェクト担当チームと合同プロジェクトチームを組成し、プロジェクトを率いる役割を担うことによりAI技術を活用した事業構想や企業変革の推進を行っております。
 また、当社にはAI・機械学習技術の幅広い領域に対応できる専門性を持つ機械学習エンジニアが、幅広い業界から集まっております。そして、当社がメインターゲットとするバリューアップ型AIテーマの中にはAI技術の中でも最先端の手法の実用化に挑むケースが多いことから、例えば、深層強化学習や確率モデリング、最適化、生成AIなどのまだ産業応用事例が多くない先端AI技術の実用化に関する専門的知見を持つ人材の育成が進んでいることが、当社の機械学習エンジニアチームの特徴となっております。

 

 ② <拡大再生産の仕組み> VM・VD事業の連動によるカスタムとスケールの両立
 当社は、先行する取組実施を通して構築したAIソリューションの開発及びその導入による企業変革のノウハウ・技術を、ソリューション(参照可能なプログラムソースコードやドキュメント)と技術プラットフォーム(ハードウェア一体型基盤、AI開発フレームワーク)として蓄積しております。
 当社は、こうした蓄積ノウハウ・技術を、SaaSやパッケージソフトとして提供するのではなく、カスタムAIソリューション開発の効率・効果・スピードを向上させるために応用することで、カスタム(顧客固有のソリューション提供)での価値提供を維持しながらスケール(当社の事業規模拡大)の実現を図っております。
 ノウハウ・技術の蓄積と応用は複数のプロジェクトや自社R&D等の取組を跨いで重層的に行われ、それぞれの深化と拡大を同時並行で進めております。(図9)

 


図9:ノウハウ・技術の蓄積と応用のイメージ

 

 このような流れを通して実際にカスタムとスケールを両立している代表的な事例は次の通りです。
 
 図10は、当社が注力する技術領域の一つである深層強化学習に関連するプロジェクトを面展開してきた流れを示しております。2019年に開始したAI振動制御システムの開発が源流となり、その開発ノウハウを纏めた『強化学習による振動制御ソリューション』のリリース、スケジュール最適化問題への取組の拡張、そのノウハウを纏めた『強化学習による組合せ最適化ソリューション』のリリースと複数の応用プロジェクトの開始へと進み、4年以上の期間をかけ継続的にノウハウ・技術蓄積とプロジェクトの拡大が進んで参りました。そのすべての取組が現在も継続しており、今後更なる蓄積の進化と取組の拡大を見込んでおります。

 


 

図10:深層強化学習関連プロジェクトの面展開の流れ

 

 図11は、ChatGPTの登場を契機に現在高い注目を集めている生成AIの代表的技術であるLLM(大規模言語モデル)を用いた取組に関連するノウハウ・技術蓄積と応用展開の実績を示しております。当社は、2022年後半より、現在の生成AIブームに先駆けて多様な自然言語処理技術に加えてGPT-3(ChatGPT以前にOpenAIがリリースしたLLM)等のLLMを用いたソリューションの開発を進めておりました。そこに、2022年末のChatGPTのリリースに端を発する生成AIへの急速な注目拡大が重なり、数ヶ月間の間に技術蓄積と応用プロジェクトの展開が一気に加速しております。顧客ニーズも急増しており、今後更なる取組拡大を見込んでおります。

 


図11:LLM(生成AI)(注1)を用いた取組に関連するノウハウ・技術蓄積と応用展開の実績

 

(注1) Large Language Model(大規模言語モデル)- ChatGPT等の言語生成AI

(注2) Materials Informatics(材料インフォマティクス)
 
 ソリューションと技術プラットフォームの詳細内容については、「(4) 展開するサービスと販売形態 – B)蓄積応用するノウハウ・技術」をご参照ください。
 

 ③ <顧客基盤> 重要テーマを任される顧客との強固な関係
 当社は、新規製品・サービス創出やビジネスモデル変革等、顧客企業に大きな成長をもたらし、かつアカデミア(学術研究)発の最先端のAI技術の自前実装が求められる難易度の高い取組みを「バリューアップ型AIテーマ」と定義し注力しております(図12)。このようなテーマは顧客企業の中長期的成長を左右する重要テーマであることから、一般的な受託開発やコンサルティングサービスに増して、強固な関係による顧客基盤が形成され、より長期安定的かつ持続的に拡大可能な収益を産みやすいビジネスモデルを構築しております。

 


図12:当社が注力する「バリューアップ型AIテーマ」の定義と競合環境

 

 例えば当社は、半導体、産業機械、材料、化学、ライフサイエンスなどの研究開発を通じて革新的な製品・サービスの創出を目指す分野(当社では「研究開発型産業」と定義)において、AIを用いたR2Bプロセス(Research to Business – 研究開発から事業化までのプロセス)の変革に取り組んでおります。こうした産業領域では、研究開発から事業化までの期間を五〜数十年程度のスパンで捉え大規模な研究開発投資を継続的に行うため、そのR2Bプロセスの根幹の変革に取り組むプロジェクトは長期化・大規模化する性質を持っています。また、研究開発型企業は未だ自前主義の文化が強く、特にその競争力の中核を担うR2Bプロセスにおいて他社と協働するケースは非常に稀である中で、当社は既に複数の顧客企業との取組実績を有し、そのような取組実績を通してさらに当該領域におけるソリューションデザインの能力及びノウハウ・技術の蓄積を深めております。これが、当社の競合企業への高い参入障壁を築き、当社に安定した取引をもたらしております。
 また当社は、主に消費材、流通・小売、交通・都市インフラ、メディア、金融、エンターテイメントなど消費者・生活者に直接製品・サービスを提供したり社会インフラを担う分野(当社では「社会基盤・生活者産業」と定義)において、AIを用いた新たなデジタルサービスの開発や顧客との1to1コミュニケーション(一人ひとりの顧客に合わせたコミュニケーション)の活性化、交通運行や都市管理の最適化など社会インフラの変革に取り組んでおります。こうした新規サービスの創出やビジネスモデル変革への取り組みは企業にとって新たな収益創出に直結するため、創出される収益規模に応じてプロジェクトが長期化・大規模化する性質を持っています。
 以上のような取組における強みが評価され、研究開発型産業では分野を代表する企業である株式会社SCREENホールディングス、株式会社SCREENアドバンストシステムソリューションズ、三井化学株式会社(注1)、日本ガイシ株式会社、THK株式会社と、社会基盤・生活者産業では分野を代表する企業である株式会社博報堂、株式会社ゼンリン(注2)との資本提携に至っております。
(注1)出資主体はMCIイノベーション投資事業有限責任組合
(注2)出資主体はZFP第1号投資事業有限責任組合
 

 (4) 展開するサービスと販売形態
 当社では、顧客企業固有の成長戦略や事業課題に合わせたオーダーメイドのAI開発とAI導入・事業変革のコンサルティングを行う「カスタムAI」サービスを、「バリュー・マイニング事業」と「バリュー・ディストリビューション事業」の二つの提供形態にて展開しております。
 「バリュー・マイニング事業」では、当社にて先例のないAIテーマに対し一からソリューションを構築していく形態、「バリュー・ディストリビューション事業」では、先行取組にて蓄積されたノウハウや技術プラットフォームなどの資産を応用し、効率的・効果的・スピーディな価値創出を目指す形態で、AI開発・コンサルティングを提供します。
 しかし、実際のサービス提供において両提供形態は完全に分離されるものではなく、プロジェクトによりノウハウ・技術の新たな構築と応用の両要素を異なるバランスで含むため、経営管理上は事業セグメントの分離は行わず「カスタムAIソリューション事業」単一での事業体制をとっております。

 なお、当社と顧客企業との間の契約形態はAI開発の特性上、成果物の性能・精度等を予め合意形成することが困難であることから、請負契約の形態を採用することは適しておらず、いわゆる成果完成型準委任契約を採用することが多くなっております。

 

 A)   提供形態
A-1.バリュー・マイニング事業
 当社が注力する「バリューアップ型AIテーマ」(顧客企業の成長と構造転換に直結する新規製品・サービス創出やビジネスモデル変革等のビジネスの新しい施策展開に関連するAIテーマ)は、「(2)外部環境・社会背景について」に記載の通りデータデジタル化や業務効率化テーマと比較して先行事例が少なく、業界初の成果創出を目指すケースが多くなります。そのようなケースで当社にて先例のないテーマを対象に、ソリューションデザイナ(当社独自のAIコンサルタント)と機械学習エンジニアで構成されるプロフェッショナルチームが一からソリューション構築に挑みながらAI開発・コンサルティングサービスを提供する形態を、AIの新たな応用価値(バリュー)を掘り起こす(マイニング)意味合いから「バリュー・マイニング事業」として展開しております。
 主にAIソリューションの設計・開発およびその導入を通した企業変革コンサルティングが販売単位となり、プロジェクトメンバーのアサインに応じた委託料を対価として受け取る収益モデルとなります。
 
 

A-2.バリュー・ディストリビューション事業
 当社の先行取組の実施を通して蓄積されたAIソリューション開発とその導入による企業変革に関するノウハウと技術プラットフォーム(「B)蓄積応用するノウハウ・技術」に詳細)を応用し、効率的・効果的・スピーディな価値創出を目指すAI開発・コンサルティングサービスを提供する形態を、AIの応用価値(バリュー)を広く流通させる(ディストリビューション)意味合いから「バリュー・ディストリビューション事業」として展開しております。
 蓄積されたノウハウと技術を応用することにより、高度で専門性の高いAI開発テーマに対しても、各エンジニアやソリューションデザイナの技術的知見獲得のスピードが早まり、習熟度の平準化が可能になります。そのため、従事可能なメンバーの裾野が広がり、サービス提供の範囲拡大とスピード加速が可能になります。
 バリュー・マイニング事業と同様に、主にAIソリューションの設計・開発およびその導入を通した企業変革コンサルティングが販売単位となり、プロジェクトメンバーのアサインに応じた委託料を対価として受け取る収益モデルとなります。
 
B) 蓄積応用するノウハウ・技術
 バリュー・ディストリビューション事業における応用展開を目的に、当社の先行する取組実施を通して構築したAIソリューションの開発及びその導入による企業変革のノウハウ・技術を、ソリューション開発ノウハウ(参照可能なプログラムソースコードやドキュメント)と技術プラットフォーム(ハードウェア一体型基盤、AI開発フレームワーク)として蓄積しております。

 


 

図13:代表的なソリューション群

 

 B-1. ソリューション開発ノウハウ(『〇〇ソリューション』の形で展開)
 主要なAIアルゴリズムやシステムアーキテクチャの設計、また技術検証や事業検証を行うために参照可能なプログラムソースコードや開発及びコンサルティングの方法論に関するドキュメントをまとめたものです。ラインナップとして、以下の特定用途向けソリューションを展開しております。

●  『強化学習による組合せ最適化ソリューション』:大量の組合せの中から最も良いものを選択するという「組合せ最適化問題」を、強化学習技術を使って解決。

●  『強化学習による振動制御ソリューション』:建設物や精密機器の製造機械などの大敵である揺れへの対策として、自ら最適なパターンを獲得する強化学習を用いたAIが振動を制御。

●  『ビジネス潜在ニーズ探索ソリューション』:自然言語処理を用いて、企業の研究開発成果の販売先や提供先、協業先を探索・発見。

●  『不良・異常検出ソリューション』:ディープラーニングの画像認識アルゴリズムが、画像から特定の不良品や異常箇所を検出し、検査・点検業務の効率を向上。

●  『安全管理ソリューション』:動画映像から特定の対象物や行動・シーンを認識し、検出内容に即した注意喚起や安全監視を実現。

●  『物体カウントソリューション』:学習データ作成の負荷を低減し、画像や映像から人や物体の個数を効率的にカウント。

●  『文章分類・タグ付けソリューション』:大量のドキュメントもAIが分類・タグ付けし、内容把握や文章評価が簡単に。 

●  『マッチングソリューション』:人と職、それぞれの情報の関係性をAIが学習。ニューラルネットワークが相思相愛の最適なマッチングを実現。

●  『類似画像検索ソリューション』:画像そのものをディープラーニングで解析。キーワード検索や色合いだけでは探し出すことができなかった類似画像を見つけ出す。
 

B-2. ハードウェア一体型基盤
 センサーを搭載したハードウェア(センシングデバイス)と取得したセンシングデータのAI処理基盤をセットとして整備したものです。現実世界の情報を取得し、デバイス内に登載したAI処理基盤によりリアルタイムにAIによる認識を可能にします。特定の業界・企業・用途に限定せず、幅広い用途に向け人の五感を代替するようなカスタムAIソリューション開発に応用できる点が特徴です。現時点では、カスタムAI搭載カメラソリューションとして『L-Vision(エルビジョン)』を提供しております。

● 『L-Vision』:AIカメラが人・物・空間を認識することを超え、ビジネス課題を成果へとつなぐ、最適なソリューションを提供します。

 
 B-3. AI開発フレームワーク
 カスタムAIソリューション開発の開発工程を短縮するために、繰り返し使う基礎機能やプログラムソースコードの基本テンプレートをあらかじめ一つにまとめ開発者を支援するツール・開発環境として整備したAI開発フレームワークの開発を進めております。現時点では、オープンソースの深層強化学習フレームワークとして『Border』を提供しており、既に当社が実施する複数のプロジェクトの実装基盤を担い、顧客企業へ提供されております。 

●  『Border』:Rust言語で開発された、強化学習の開発・運用フレームワークで、強化学習モデルの高速な実装・チューニング・運用をサポート。

 

 

 

 

 

[事業系統図]

 


 

 

 

用語集

用語

定義

機械学習技術

コンピュータがデータから学習し、予測や分類などのタスクを自動で改善するアルゴリズムの総称。教師あり学習、教師なし学習、半教師あり学習などの手法がある。

深層学習技術/ディープラーニング

機械学習の一種で、ニューラルネットワークを用いた多層構造により、データの特徴を自動で抽出し学習する技術。画像認識や自然言語処理など、様々な分野で高い性能を発揮する。

ニューラルネットワーク

人間の脳の神経細胞(ニューロン)を模倣した、複数の層から成るコンピュータアルゴリズム。入力層、隠れ層、出力層などから構成され、層間のニューロンが相互に結合されている。多層構造により、複雑なデータの特徴を学習することが可能。

強化学習

エージェントが環境と相互作用しながら、報酬を最大化するような行動を学習する機械学習の手法。試行錯誤を繰り返し行い、最適な行動ポリシーを見つけることを目指す。自動運転やゲームAIなどに応用される。

ベイズ最適化

確率的な最適化手法であり、ベイズ推定を用いて不確実性を考慮しながら関数の最適化を行う。主にハイパーパラメータの最適化や機械学習モデルの選択などに利用される。

センシングデバイス

環境や物体からの情報を検出し、電気信号に変換する装置。光、温度、圧力、音など様々な種類のセンサーがあり、それらを組み合わせたデバイスが開発されている。IoTやロボット技術、スマートシティなどの分野で広く活用される。

センシングデータ

センシングデバイスが検出した情報を電気信号に変換し、データ化したもの。これらのデータは、機械学習やAI技術によって解析・処理され、様々なアプリケーションに活用される。

 

フレームワーク

ソフトウェア開発において、アプリケーションの構築に必要な機能やコンポーネントが統合された開発環境。

 

 

4 【関係会社の状況】

該当事項はありません。

 

5 【従業員の状況】

(1) 提出会社の状況

 

 

 

 

 2023年5月31日現在

従業員数(名)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(千円)

51

2

36.3

1.6

9,699

 

(注)1.従業員数欄の(外書)は、臨時従業員(アルバイト・パートタイマー)の年間平均人員であります。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.当社は、カスタムAIソリューション事業の単一セグメントであるため、セグメント別情報を省略しております。

4.最近日までの1年間において従業員数が14名増加しております。主な理由は、業容の拡大に伴い期中採用が増加したことによるものであります。

 

(2) 労働組合の状況

労働組合は結成されておりませんが、労使関係は円満に推移しております。