第二部【企業情報】

第1【企業の概況】

1【主要な経営指標等の推移】

 

回次

第14期

第15期

第16期

第17期

第18期

決算年月

2018年2月

2019年2月

2020年2月

2021年2月

2022年2月

営業収益

(千円)

48

435,339

1,946,520

経常利益又は経常損失(△)

(千円)

142,392

81,630

732,543

720,362

1,079,304

当期純利益又は当期純損失(△)

(千円)

143,135

81,760

733,493

722,932

1,076,859

持分法を適用した場合の投資利益

(千円)

資本金

(千円)

99,000

99,000

584,681

234,874

100,000

発行済株式総数

(株)

 

 

 

 

 

普通株式

105,400

105,400

105,400

105,400

33,102,080

A種優先株式

112,500

112,500

112,500

112,500

B種優先株式

50,000

50,000

50,000

50,000

C種優先株式

150,000

150,000

150,000

150,000

D-1種優先株式

64,813

64,813

D-2種優先株式

103,562

212,131

D-3種優先株式

74,958

純資産額

(千円)

429,034

510,794

748,663

1,126,892

2,453,001

総資産額

(千円)

454,469

597,918

850,632

1,213,273

2,739,781

1株当たり純資産額

(円)

3,104.51

2,328.80

9,287.94

403.67

74.10

1株当たり配当額

(円)

(うち1株当たり中間配当額)

(-)

(-)

(-)

(-)

(-)

1株当たり当期純利益又は

1株当たり当期純損失(△)

(円)

1,358.02

775.72

6,959.14

171.47

53.36

潜在株式調整後1株当たり

当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

94.4

85.4

88.0

92.9

89.5

自己資本利益率

(%)

31.1

17.4

116.5

77.1

60.2

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

営業活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

737,808

1,261,786

投資活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

499

16,958

財務活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

1,101,162

246,482

現金及び現金同等物の期末残高

(千円)

1,106,691

2,598,002

従業員数

(人)

4

3

5

6

8

(外、平均臨時雇用者数)

(2)

(3)

(2)

(2)

(1)

 (注)1.当社は連結財務諸表を作成しておりませんので、連結会計年度に係る主要な経営指標等の推移については記載しておりません。

2.営業収益には、消費税等は含まれておりません。

3.第15期の営業収益は、主に、当社が開発中の医薬品についてBiogen MA Inc.(以下「バイオジェン社」という。)との間で締結したオプション契約の一時金であります。また、第18期の営業収益は、バイオジェン社がTMS-007の導出に関するオプション権を行使したことに伴う収益であります。

4.第14期の資本金の減少は減資によるもの、第16期の資本金の増加は第三者割当増資及び株式を対価とする新株予約権付社債の取得によるもの、第17期及び第18期の資本金の減少は減資によるものであります。

5.持分法を適用した場合の投資利益については、関連会社が存在しないため記載しておりません。

6.第14期から第17期の1株当たり純資産額については、A種優先株式、B種優先株式、C種優先株式、D-1種優先株式、D-2種優先株式及びD-3種優先株式に優先して配分される残余財産額を純資産の部の合計額から控除して算定しており、計算結果はマイナスとなっております。

7.1株当たり配当額及び配当性向については、配当を実施していないため記載しておりません。

8.当社は、2021年9月21日付で普通株式1株につき40株の割合で株式分割を行っておりますが、第17期の期首に当該株式分割が行われたと仮定して1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失を算定しております。

9.第14期、第16期及び第17期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できないため、また1株当たり当期純損失であるため、記載しておりません。第15期及び第18期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できないため記載しておりません。

10.株価収益率については、当社株式は非上場であるため、記載しておりません。

11.第14期、第15期及び第16期については、キャッシュ・フロー計算書を作成していないため、キャッシュ・フローに係る各項目については、記載しておりません。

12.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数(パートタイマー、契約社員を含む。)は、年間の平均人員を( )内に外数で記載しております。

13.第17期の営業活動によるキャッシュ・フローは、TMS-007の前期第Ⅱ相臨床試験をはじめとする研究開発投資を積極的に行ったことで、税引前当期純損失を721,982千円計上したことなどにより737,808千円のマイナスとなっております。

14.2021年7月28日及び2021年8月11日開催の臨時取締役会の決議に従い、定款の定めに基づき2021年8月12日付でA種優先株式112,500株、B種優先株式50,000株、C種優先株式150,000株、D-1種優先株式64,813株、D-2種優先株式212,131株及びD-3種優先株式74,958株を自己株式として取得し、その対価として普通株式を664,402株交付しております。また、同決議に基づき、2021年8月12日付で自己株式として保有するA種優先株式、B種優先株式、C種優先株式、D-1種優先株式、D-2種優先株式及びD-3種優先株式をすべて消却しております。

15.第17期及び第18期の財務諸表については、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和38年大蔵省令第59号)に基づき作成しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、仰星監査法人により監査を受けております。なお、第14期、第15期及び第16期については、「会社計算規則」(平成18年法務省令第13号)の規定に基づき算出した各数値を記載しておりますが、当該各数値については金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく仰星監査法人の監査を受けておりません。

16.当社は、2021年9月21日付で普通株式1株につき40株の割合で株式分割を行っております。そこで、東京証券取引所自主規制法人(現 日本取引所自主規制法人)の引受担当者宛通知「『新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)』の作成上の留意点について」(平成24年8月21日付東証上審第133号)に基づき、第14期の期首に当該株式分割が行われたと仮定して算定した場合の1株当たり指標の推移を参考までに掲げると、以下のとおりとなります。なお、第14期、第15期及び第16期の数値(1株当たり配当額についてはすべての数値)については、仰星監査法人の監査を受けておりません。

回次

第14期

第15期

第16期

第17期

第18期

決算年月

2018年2月

2019年2月

2020年2月

2021年2月

2022年2月

1株当たり純資産額

(円)

△77.61

△58.22

△232.20

△403.67

74.10

1株当たり当期純利益又は

1株当たり当期純損失(△)

(円)

△33.95

19.39

△173.98

△171.47

53.36

潜在株式調整後1株当たり

当期純利益

(円)

1株当たり配当額

(うち1株当たり中間配当額)

(円)

(-)

(-)

 (-)

(-)

(-)

 

2【沿革】

当社は、2005年に、東京農工大学発酵学研究室(蓮見惠司教授)の医薬シーズ*を実用化することを目的に設立されました。

同研究室は、遠藤章博士(コレステロール低下薬スタチンの発見者、2008年ラスカー臨床医学研究賞、2017年ガードナー国際賞、1997年3月まで教授として在籍、現在 東京農工大特別栄誉教授)の研究の流れを汲むもので、微生物由来の生理活性物質の探索研究を中心とし、その作用解析、薬効評価などを行っています。血液凝固線溶

*に作用する生理活性物質の探索の過程で、多数の新規化合物を発見しており、当社パイプライン*TMS-007及びTMS-008を含むSMTP化合物群はこの過程で見出されました。

 当社の本書提出日までの変遷の概要は以下のとおりであります。

 

年月

概要

1996年10月

SMTP化合物に関する最初の論文がThe Journal of Antibioticsに掲載

2000年3月

TMS-007に関する最初の論文がThe Journal of Antibioticsに掲載

2005年2月

東京農工大学発酵学研究室(蓮見惠司教授)の医薬シーズを実用化することを目的として、東京都渋谷区に当社を設立(資本金10百万円)

2005年6月

本店所在地を東京都港区に移転

2007年8月

メルシャン株式会社(現日本マイクロバイオファーマ株式会社)とTMS-007の原薬製造に関する契約を締結し原薬製造を開始

2008年8月

本店所在地を東京都府中市幸町三丁目に移転

2011年6月

本店所在地を東京都稲城市に移転

2011年10月

独立行政法人科学技術振興機構(JST)「研究成果最適展開支援事業 フィージビリティスタディ 可能性発掘タイプ(シーズ顕在化)」に採択

2014年8月

TMS-007の日本における第Ⅰ相臨床試験*開始

2015年9月

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「中堅・中小企業への橋渡し研究開発促進事業」に採択

2015年10月

TMS-007の日本における第Ⅰ相臨床試験終了

2017年5月

本店所在地を東京都府中市宮町一丁目に移転

2017年11月

TMS-007の日本における前期第Ⅱ相臨床試験*開始

2018年6月

TMS-007をバイオジェン社に導出するオプション契約を締結

2019年8月

日本マイクロバイオファーマ株式会社とTMS-008の原薬製造法の共同開発に関する契約を締結し原薬製造を開始

2020年11月

TMS-007前期第Ⅱ相臨床試験の組入完了(90症例)

2021年2月

TMS-008のGLP*非臨床試験*を開始

2021年5月

バイオジェン社がTMS-007に関するオプション権を行使、TMS-007を同社に導出

2021年8月

TMS-007の日本における前期第Ⅱ相臨床試験終了

2022年2月

本店所在地を東京都府中市府中町一丁目に移転

 

3【事業の内容】

当社は、医薬品の研究・開発・製造・販売を事業目的とする「医薬品開発事業」の単一セグメントであるため、セグメント別の情報は記載を省略しております。

 

(1)技術の特徴

当社は、アカデミア等の研究機関等の研究開発成果を基盤とした医薬品候補物質の研究開発を行い、グローバルの医薬品市場に展開することを主要な事業内容とした、創薬型バイオベンチャー企業です。

当社の現在のパイプラインは、ヒトが体内に有する酵素の一つである可溶性エポキシドハイドロラーゼ(sEH)*を標的とした医薬品候補物質により構成されています。sEHを阻害することで「抗炎症作用」が得られることが分かっており、当社では様々な炎症性疾患を対象としてsEH阻害剤の開発を進めています。

当社のリードパイプラインであるTMS-007は、sEH阻害による「抗炎症作用」に加えて、プラスミノーゲン*に作用することによる「血栓溶解作用」も有しており、急性期脳梗塞を対象とした臨床開発が進められています。また、後続パイプラインのTMS-008は、様々な炎症性疾患を適応*として開発が進められており、現在、非臨床試験を実施中です。

 

 

① 可溶性エポキシドハイドロラーゼ(sEH)について

sEHは二つの作用を有すると考えられています。一つは、可溶性エポキシドハイドロラーゼという名称の由来となった、エポキシド構造*の化合物を加水分解*する作用です(EH活性)。具体的には、sEHは、生理活性脂質*エポキシエイコサトリエン酸(EETs:Epoxyeicosatrienoic Acid)*を、加水分解作用によりジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHETs:Dihydroxyeicosatrienoic Acid)*に変換する役割を担っています。EETsは炎症を抑制する効果があることが知られています。このため、sEHを阻害することで、EETsからDHETsへの変換を防ぎ、EETsが減少せずに体内に留まります。これがsEH阻害剤の抗炎症作用のメカニズムの一つであると考えられています。

sEHのもう一つの作用は、脱リン酸化作用*です(Phos活性)。sEHの脱リン酸化作用の詳細についてはまだほとんど解明されていませんが、当社は東京農工大学等との共同研究を通じて解明に取り組んでおり、sEH阻害による抗炎症作用の中核を担う作用であることが分かってきています。

 

 

(可溶性エポキシドハイドロラーゼ(sEH)の作用機序*

 

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② SMTP化合物群について

当社のパイプラインTMS-007、TMS-008及びTMS-009は、SMTPと名付けられた化合物のファミリーに属しています。SMTPは、黒カビの一種であるスタキボトリス・ミクロスポラ(Stachybotrys Microspora)が産生する化合物(Staplabin)と、約60種類のその誘導体からなる化合物群です。SMTPの主な作用機序は、sEHの阻害作用に基づく抗炎症作用ですが、一部の化合物はプラスミノーゲンに作用することで血栓を溶解する効果も有しています。

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(a) SMTPによるsEH阻害作用

SMTP化合物の多くは、sEHのEH活性とPhos活性の両方を阻害する作用を持っており、この作用により、強い抗炎症作用を生み出していると考えられています。

これまでに、TMS-007やTMS-008をはじめとしたSMTP化合物を様々な炎症性疾患のモデル動物*に投与する実験を行っていますが、多くの実験において抗炎症効果が確認されています。

例えば、ob/obモデルマウスと呼ばれる、肥満/メタボリック症候群を模したモデルでは、TMS-007とTMS-008の投与はコレステロールや中性脂肪といったマーカーを下げるだけではなく、肝臓の炎症を下げる効果が確認されました。また、潰瘍性大腸炎のモデルマウスでは、TMS-008の投与は症状を改善したのみならず、5-ASA(5-アミノアセチル酸、潰瘍性大腸炎の第一選択薬として広く使用されている)との比較においても優れた結果を示しました。

 

(ob/obモデルマウスにおけるSMTP化合物の肝炎抑制)

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AST/ALT:どちらも肝臓に多く含まれる酵素。肝臓が障害を受けると血液中の値が上がることから、肝炎等の肝障害の程度を示す指標として用いられる。

Control:ob/obモデルマウス。ob/obモデルマウスは肥満モデルマウスの一種で、遺伝子変異により著しい肥満状態となる。メタボリック症候群のモデルとして多く用いられる。

TMS-007:Controlと同じ状態のマウスにTMS-007を投与したマウス。

TMS-008:Controlと同じ状態のマウスにTMS-008を投与したマウス。

 

(潰瘍性大腸炎モデルマウスにおけるTMS-008の薬理効果)

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DAIスコア:潰瘍性大腸炎の重症度の指標。数値が大きいほど重症。

組織スコア:組織学的所見の指標。本試験では5段階の指標を用いており、数値が大きいほど重症。

Normal:通常状態のマウス

Control:人為的に潰瘍性大腸炎症状を起こしたマウス

TMS-008:Controlと同じ状態のマウスにTMS-008を投与したマウス

5-ASA:Controlと同じ状態のマウスに5-ASAを投与したマウス

 

(b) SMTPによる血栓溶解作用

生体における血栓溶解のメカニズムは精密に制御されていますが、主要なメカニズムは、血中に多く含まれているタンパク質プラスミノーゲンが、血栓の主要構成タンパク質であるフィブリン*と結合することにより組織型プラスミノーゲン・アクティベータ(t-PA)*を誘導し、t-PAがプラスミノーゲンの一部を切断することでプラスミン*に変化させ、このプラスミンがフィブリンを分解するというものです。

t-PAは、急性期脳梗塞の治療薬として米国FDA*に唯一承認されている化合物でもあります。遺伝子組換えにより作られたt-PAを体外から投与することにより、プラスミンを多く生成し、その結果血栓溶解を促進する効果をもたらします。一方で、t-PAを大量投与することにより、生体内の凝固線溶系のバランスが崩れ、血栓が存在しない場所でも出血を助長する副作用を惹起します(Pendlebury et al. Ann. Neurol. 1991)。

これに対して、SMTP化合物が血栓溶解を促進する作用は、SMTPがプラスミノーゲンに結合してその立体構造を変化させ、プラスミノーゲンとフィブリンが結合しやすくすることで血栓溶解プロセスを迅速に発生させるという仕組みです。SMTP化合物を投与しても、血栓溶解に関わる種々のタンパク質等のバランスを崩すことがないことから、出血助長の副作用を惹き起こすリスクが低いと考えられています。

 

(SMTP化合物による血栓溶解作用機序)

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(2)開発パイプライン

当社における現在のパイプラインは、臨床開発段階(前期第Ⅱ相臨床試験終了)にあるTMS-007と、前臨床段階にあるTMS-008の2化合物からなっています。また、TMS-008のバックアップ化合物としてTMS-009があります。このうち、TMS-008については、急性腎障害及びがん悪液質を対象として複数の臨床試験をそれぞれ実施する計画となっており、適応の種類としては、急性期脳梗塞、急性腎障害及びがん悪液質を適応症とする3本のパイプラインがあります。TMS-007、TMS-008及びTMS-009は全てSMTP化合物ファミリーに属しますが、今後はsEHをターゲットとしうるSMTP以外の化合物の研究開発も進めていきます。

 

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1.BiogenのInvestor Day資料(2021年9月21日)、Q4 and Full Year2021:Financial Results and Business Update

2.Biogenからの無償使用許諾に基づき開発中のTMS-008及びTMS-009は、当社の開発権利が特定の適応症に限定されており

  TMS-009はTMS-008のバックアップ化合物となる可能性があります

 

① TMS-007(急性期脳梗塞)

脳梗塞は、世界で年間約763万人が発症し約329万人の死亡原因となっている、非常に重大な疾患です(World Stroke Organization:Global Stroke Fact Sheet 2022)。急性期脳梗塞は、血栓により脳血管が閉塞して脳への血液供給が滞ることで生じます。片麻痺、記憶障害、言語障害、読解力・理解力の低下、その他の合併症を引き起こし、脳の永久的な損傷に繋がる可能性があります。また、介護が必要になる原因としても上位であり、医療経済に対し極めて大きな影響をもたらしています。それにも関わらず、先進国で共通に承認されている医薬品は一品目のみであり、しかも脳梗塞患者全体の10%未満にしか投与されておらず、非常に大きなアンメット・メディカル・ニーズ*が存在しています(Intern Med 54: 171-177, Prehospital Delay and Stroke-related Symptoms)。TMS-007は、血栓溶解作用と抗炎症作用を併せ持つ全く新しい作用機序により急性期脳梗塞治療に革命的な変化をもたらすことが期待されると当社は考えています。

当社は、2017年11月から2021年8月にかけてTMS-007の前期第Ⅱ相臨床試験を行いました。また、2018年6月にはバイオジェン社とオプション契約を締結し、2021年5月にバイオジェン社がオプション権を行使したことにより、今後のTMS-007の開発及び各国での承認取得はバイオジェン社が行うことになります。

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(a) 急性期脳梗塞(AIS)市場について

脳梗塞を含む脳卒中は、世界の死亡原因第2位であり、成人の障害を惹き起こす主要な原因の一つとされています(Katan et al. Semin Neurol 2018;38:208–211)。全世界の脳卒中発症数は年間約1,222万人とされていますが、うち約763万人(約63%)が脳梗塞患者です。また、脳卒中による世界の死亡数は年間約655万人とされており、うち約329万人(約50%)が脳梗塞によるものです(World Stroke Organization:Global Stroke Fact Sheet 2022)。

米国では、脳卒中発症患者のうち約87%が脳梗塞患者とされており、2018年に約55.3万人が脳梗塞を発症したとの推計があります(Tsao et al. Heart Disease and Stroke Statistics 2022 e391、Datamonitor Healthcare “Stroke Epidemiology”, Published on 07 January 2019)。脳卒中は、米国の死亡原因として第5位であり、成人に障害をもたらす最大の要因であると考えられています(Centers for Disease Control and Prevention, “National Vital Statistics Reports volume 70”)。日本では、2018年に約23万人が脳梗塞を発症したとの推計があります(Datamonitor Healthcare ”Stroke Epidemiology”, Published on 07 January 2019)。

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1.Datamonitor Healthcare.”Stroke Epidemiology”,Ref Code:DMKC0201444.Published on 07 January2019

2.欧州5ヵ国はドイツ、フランス、イタリア、スペイン、英国を指します

 

世界の急性期脳梗塞の患者数は増加することが予想されています。また、2021年における急性期脳梗塞の治療薬の売上高は21億ドル程度であり、市場は年々拡大することが予想されています(出典:Informa;Activase®とActilyse®の推計売上高を合計。統計資料や出版物の正確性には限界があるため、実際の市場規模は、推定値と異なる可能性があります。)。t-PAは脳梗塞患者全体の10%未満にしか使用されていないとされていること(Intern Med 54: 171-177, Prehospital Delay and Stroke-related Symptoms)から、t-PAの対象患者よりも多くの患者にTMS-007の投与が可能となった場合、市場規模はさらに拡大することが予想されます。

米国における脳卒中による生涯コストは一人当たり約14万ドルとする報告があり(Katan et al. Semin Neurol 2018;38:208–211)、年間約55.3万人が脳梗塞を発症することを考えると、毎年膨大な将来負担が発生していることとなります。

 

(b) TMS-007の優位性について

急性期脳梗塞の治療戦略としては、1)発症後できるだけ早く血流を再開すること、2)浮腫*や炎症を抑えること、の2つがあります。血流再開の目的では、医薬品としては既に各国で承認されているt-PAが代表的なものとなります。浮腫・炎症を抑える目的では、現在のところ先進各国で共通して承認された医薬品は存在しておらず、作用機序が異なる複数の医薬品が開発中ですが、後期臨床試験に入っている品目はごく少数となっています。

当社のTMS-007は、プラスミノーゲンを介した血栓溶解による血流再開と、sEH阻害を機序とした抗炎症の両方のメカニズムを併せ持っており、単剤で「血流再開」と「抗炎症」の両方の治療戦略に対応することが可能となっています。このように「血流再開」と「抗炎症」の効果を併せ持った化合物はほとんど知られておらず、他の薬剤及び薬剤候補物質に対する優位性があると考えられます。

 

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(論文 M. Zaleska et al. (2009) Neuropharmacologyより改変)

 

また、t-PAは血栓溶解作用による血流再開を作用機序としていますが、頭蓋内出血を助長する副作用があることが知られており、主にこの副作用のリスクを軽減するために、原則として発症後4.5時間以内に投与することが義務付けられています(豊田一則 臨床神経 49: 801―803, 2009)。

これに対して、TMS-007は臨床試験において副作用として米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)*4以上の悪化を伴う症候性頭蓋内出血は発現しておらず、また動物実験では逆に頭蓋内出血を抑えるとの結果が得られています(Ito et al. Brain Res 2014)。このため、TMS-007の投与可能時間は発症後4.5時間の枠を超えることが期待されています。実際、当社のTMS-007前期第Ⅱ相臨床試験では発症後12時間以内の被験者に対して投与を行っており、また、当社からTMS-007の開発を引き継いだバイオジェン社は、発症後24時間以内の時間帯における投与可能性について言及しています(Biogen Investor R&D Day, Sep 21, 2021)。

TMS-007は、その有効性と安全性により、t-PAよりも多くの患者に使用される可能性があります。t-PAを使用可能な時間帯に病院に到着した患者のうち、実際にt-PAを投与された患者は26%という報告があります(出典:Messe(2016), “Why are acute ischemic stroke patients not receiving IV t-PA”)。TMS-007は、t-PAと比較すると、その高い安全性により、発症後投与可能時間の中で最大75%の患者に使用される可能性があり、潜在的な市場規模はt-PA対比で大きくなる可能性があります(単純計算で約2.9倍)。また、t-PAは原則として発症後4.5時間以内に投与される必要がありますが、TMS-007の発症後投与可能時間が12時間又は24時間まで延長された場合、投与可能患者はt-PAの約1.6倍又は約1.9倍となる可能性があります。以上を総合すると、発症後12時間又は24時間経過した患者に対するTMS-007の使用可能性が発症後2時間以内の患者に対する使用可能性と変わらないと仮定すれば、TMS-007はt-PAと比較して潜在的な市場規模は4.6倍~5.5倍となる可能性があります。また、上記のような有効性と安全性が認められれば、t-PAよりも高い薬価が設定される可能性もあります。(上記情報には、現在入手可能な情報に基づく当社の判断による、将来に関する記述が含まれております。そのため、上記の情報は様々なリスクや不確実性に左右され、実際の開発状況はこれらの見通しと大きく異なる可能性があることをご承知おきください。)

 

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(c) TMS-007の前期第Ⅱ相臨床試験の結果について

当社は、2017年11月から2021年8月にかけて、TMS-007の前期第Ⅱ相臨床試験を実施しました。当該試験は、単回投与・無作為化*・プラセボ*対照*・用量漸増*・二重盲検試験*として日本国内で実施されたもので、TMS-007投与群52例、プラセボ群38例の被験者が組み入れられました。また、TMS-007投与群のうち、1mg/kg投与群が6例、3mg/kg投与群が18例、6mg/kg投与群が28例でした。

主要な組入基準は、既存の血栓溶解薬又は血管内治療*の対象とならない、発症後12時間以内の急性期脳梗塞患者であり、TMS-007群では発症から投与までの平均経過時間(中央値)は9.5時間、プラセボ群では9.3時間でした。当試験の主要評価項目は安全性で、「米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)4以上の悪化を伴う症候性頭蓋内出血*の発症率」で評価されました。TMS-007群では該当する症例は報告されず(0例/52例)、プラセボ群では該当症例の発症率は2.6%でした(1例/38例)。また、軽症を含む全ての頭蓋内出血(Total ICH)の発生率はTMS-007群:11.5%(6/52例)、プラセボ群:13.2%(5/38例)でした。

さらに、TMS-007群は、副次評価項目の一つである発症後90日での生活自立度において大きな改善を示しました。生活自立度を評価する指標であるモディファイド・ランキン・スケール(mRS)*において、TMS-007群は40.4%の被験者が0又は1のスコアとなり、日常生活に支障のない範囲となったのに対し、プラセボ群では18.4%でした。この結果は、被験者総数90例という比較的小規模な治験であったにもかかわらず、統計的な有意差をもたらすこととなりました(P値*<0.05、単純オッズ比*3.00、調整オッズ比3.34)。なお、90日後mRS0-1への転帰率はExcellent Outcomeとも呼ばれ、急性期脳梗塞の有効性主要評価項目(ゴールド・スタンダード)とされています。

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また、視認可能な血管閉塞を有する一部の被験者において、CT血管造影法(CTA)*又は磁気共鳴血管撮影(MRA)*により評価された血管の再開通率は、TMS-007投与群で58.3%(14/24例)、プラセボ群で26.7%(4/15例)となり、統計的有意差までは至らなかったものの、TMS-007による生活自立度の改善を支持する結果となりました(95%信頼区間*0.99-18.07、オッズ比4.23)。

 

(TMS-007前期第Ⅱ相臨床試験の概要)

 

 

TMS-007群

プラセボ群

デザイン

無作為化・プラセボ対照・用量漸増・二重盲検

主要組入基準

18歳以上、88歳以下の急性期脳梗塞患者

血栓溶解療法及び血管内療法を適用できない

発症後12時間以内に投与開始可能

用法用量

単回投与

被験者数

52名

38名

発症後平均経過時間

9.5時間

9.3時間

症候性頭蓋内出血

0%

2.6%

有効性(mRS0 -1転帰率)1

40.4%

18.4%

血管再開通率

58.3%

26.7%

1 統計的な有意差が示されました。(P値<0.05、単純オッズ比3.00、調整オッズ比3.34)

 

 

 

(d) TMS-007の今後の開発について

当社は、2018年6月に米国バイオジェン社とオプション契約を締結しました。バイオジェン社は、TMS-007前期第Ⅱ相臨床試験の結果を受けて、2021年5月にオプション権を行使しましたが、これにより、以降の開発はバイオジェン社の責任と費用により行われることになります。バイオジェン社は、2021年7月22日の「Q2 2021 Earnings Call Webcast」において、TMS-007(バイオジェン社による開発コードBIIB131)の開発をできるだけ迅速に進める旨を表明していますが、具体的な開発スケジュールは未定です。

当社とバイオジェン社のオプション契約により、当社は、2018年6月の契約締結時に400万ドル、2021年5月のオプション行使時に1,800万ドルを既に受領しています。今後の開発状況及び販売状況に応じて、最大3億3,500万ドルのマイルストーン*一時金(開発マイルストーン最大1億6,500万ドル(下記※印参照)、販売マイルストーン最大1億7,000万ドル)と、製品売上高に応じて一桁%台後半~10%台前半の段階的料率によるロイヤリティ(使用許諾料)を受領する可能性があります。

(※バイオジェン社による米国での第Ⅲ相臨床試験の5例目投与完了時に当社が受領する権利が発生する6,000万ドルを含む。)

なお、オプション権の行使により、当社が有するSMTP化合物に関する特許権(出願中のものも含む)及びデータの所有権等は全てバイオジェン社に移転されました。

 

(オプション契約の概要)

種類

時期

金額

契約金

2018年6月

400万ドル

オプション行使料

2021年5月

1,800万ドル

マイルストーン

(開発・販売状況に応じて)

最大3億3,500万ドル

開発マイルストーン:最大1億6,500万ドル

販売マイルストーン:最大1億7,000万ドル

ロイヤリティ

(関連特許権の消滅する時と販売開始後6年のいずれか遅い方まで)

一桁%台後半~10%台前半

 

② TMS-008

TMS-007に続くパイプラインのTMS-008は、血栓溶解作用がほとんどなく、sEH阻害による抗炎症作用を有するSMTP化合物です。現在、前臨床試験と治験薬製造に向けての準備を進めており、2024年2月期の臨床試験入りを目指しています。

TMS-008は、その抗炎症作用により、大きなアンメット・メディカル・ニーズを有する急性期の炎症性疾患を標的として開発が進められており、当社では、急性腎障害及びがん悪液質を適応として開発を行う予定です。また、他の疾患への適応についても研究を進めており、得られた結果によっては、TMS-008の適応疾患としてパイプラインに掲げる適応を追加する可能性があります。

バイオジェン社がオプション権を行使したことにより、TMS-008を含む全てのSMTP化合物に関する製造開発権はバイオジェン社に移転されましたが、TMS-008を含む複数の化合物を一定の疾患を適応として開発する権利はバイオジェン社から無償での使用許諾を受けています。また、当社がTMS-008の適応疾患としてパイプラインに掲げている適応は、全てこの無償使用許諾の範囲内となっております。

 

 

(a) 急性腎障害適応について

急性腎障害(AKI)は、数時間~数日の間に腎機能が急激に低下する疾患であり、多種多様な病因がありますが、他疾患との合併症によるものが多いと言われています。国内の調査では、AKIの原因は敗血症(35%)、心原性ショック(21%)、大手術後(13%)との報告があります(日本内科学会雑誌 第103巻 第5号 平成26年)。また、COVID-19の感染によってもAKIが発症することが報告されています(Nature Reviews Nephrology volume 16, pages747–764 (2020))。

AKIの疫学*は十分に分かっていませんが、海外での報告では、透析が必要ない症例と透析が必要な症例で、人口10万人あたり、それぞれ約200~500件/年及び約20~30件/年との報告があります。国内では、急性血液浄化治療*が必要であったAKI患者は、人口10万人あたり13.3人/年との報告があります(日本内科学会雑誌 第103巻 第5号 平成26年5月10日)。また、市場調査報告では、主要7ヶ国(日米+欧州5ヶ国)での年間患者数は2030年に約1,100万人に到達するとの推計があります(Delveinsight, “Acute Kidney Injury - Market Insights, Epidemiology, and Market Forecast—2030”。欧州5ヶ国はドイツ、フランス、イタリア、スペイン及び英国を指す。)。AKIは入院患者の発症率が非常に高く、8%~16%にも上るとの報告があります(Adv Chronic Kidney Dis. 2017;24(4):194-204)。

入院中のAKI患者の死亡率は20%~25%にも上るとの報告があり(Nephron. 2017 ; 137(4): 297301)、また、回復しても慢性腎疾患(CKD)に移行する患者も多いとされています。医療経済に与える影響も大きく、米国においてはAKIによる医療コストは年間54億~240億ドルに上るとの報告があります(Silver et al. Nephron. 2017)。このように重大な疾患であるにもかかわらず、AKIを対象として承認された治療薬は存在せず、大きなアンメット・メディカル・ニーズとなっています。当社では、TMS-008をAKI適応として開発することを計画しています。

 

(AKI発症のしくみ)

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(b)がん悪液質について

がん悪液質は、「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています(Fearon K, et al. Lancet Oncol. 2011; 12(5): 489-495)。進行がん患者の80%が悪液質の症状を呈し、がん患者の死因の20%が悪液質によるものとの報告もあります(静脈経腸栄養 Vol.23 No.4 2008)。がん悪液質の患者数は、欧州で約100万人及び米国で約43万人(Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2019; 10: 22–34)、日本では約17万人(Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2016; 7: 507–509)と推計されており、これらの各国合計で約160万人の患者数となります。

がん悪液質の治療薬としては、2021年1月に、世界に先駆けて日本において、グレリン様作用薬*のエドルミズ錠(一般名:アナモレリン)が承認され、2021年4月に販売開始となりました。がん悪液質の市場規模は、2020年において全世界で22億5,600万ドルとする推計があります(Mordor Intelligence:Global Cancer Cachexia Market 2021-2026)。

がん悪液質の病因ははっきり分かっていませんが、全身性炎症が病因の一つであると考えられています。このため、がん悪液質患者の炎症を緩和するような医薬品が強く求められています。

 

(がん悪液質とは)

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(c) TMS-008の前臨床試験の結果について

当社は、昭和大学及び自治医科大学それぞれとの共同研究に基づき、急性腎不全モデルマウスを用いた前臨床試験を行いました。このうち、昭和大学との共同研究においては、腎機能の指標であるScr(血清クレアチニン)及びBUN(血中尿素窒素)の改善が確認され、自治医科大学との共同研究でも改善傾向が示されました。また、当社によるがん悪液質モデルマウスを用いた前臨床試験の結果によれば、TMS-008はヒラメ筋と脛骨筋の筋肉量の減少に対して有効性が確認されました(それぞれP値<0.05、<0.01)。

現在、第Ⅰ相臨床試験の申請に向けて、GLP安全性試験及びCMC(Chemistry, Manufacturing and Control;医薬品に関する原薬、製剤の「化学、製造、品質管理」)関連の開発を実施しています。

 

③ TMS-009

当社は、TMS-008のバックアップ化合物として、TMS-009の開発を準備しています。TMS-009は、TMS-008と類似した性質を持っていますが、動物試験によってはTMS-008よりも高い薬理効果を示しており、純粋にバックアップ化合物としてだけではなく、適応疾患によってはTMS-009をメインに開発を行うことも視野に入れています。

バイオジェン社がオプション権を行使したことにより、TMS-009を含む全てのSMTP化合物に関する製造開発権はバイオジェン社に移転されましたが、TMS-009を含む複数の化合物を一定の疾患を適応として開発する権利はバイオジェン社から無償での使用許諾を受けています。

 

④ 新規パイプライン

当社は、主として東京農工大学等との共同研究を通じて、sEHを標的物質とするSMTP以外の医薬品候補物質についても、研究開発に着手しています。また、SMTP化合物の開発を通じて得られた知見を活用して、中長期的にはsEH以外の標的に作用する天然由来化合物に関する研究活動や、sEHのターゲットである脂質メディエーターに関する研究活動も行っていくことを計画しています。

アカデミアにより発見された化合物を独力で臨床開発実施まで持ち上げ、ヒトPOC*の取得を達成した日本のバイオベンチャー企業は非常に少ないと考えられます。また、グローバルに事業展開する日本企業以外の製薬会社との提携を実現している日本のバイオベンチャー企業もごく少数です。当社は、この実績と経験を踏まえて、日本を中心としたアカデミアの創薬シーズを導入・開発しグローバルの医薬品市場につなげていくことが当社が果たすべき重要な役割であると考えており、また、当社として多様なポートフォリオを構築する大きなチャンスであると考えております。

当社では、既にアカデミア等の研究機関等の研究成果を導入しパイプラインに加えることも検討しており、既に複数の研究成果に対する評価を実施中です。

 

(3)事業モデル

当社の基本的な事業モデルは、医薬品開発における研究段階から早期臨床段階までを当社が行い、後期臨床段階からは国内外の製薬会社と提携して開発製造販売権を付与し、提携先製薬会社から開発一時金(マイルストーン)及びロイヤリティ収入等を得るものです。また、疾患分野によっては、当社が後期臨床段階及び承認取得、さらには販売まで手掛けることも視野に入れています。

 

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当社は、東京農工大学等から導入した化合物の一つであるTMS-007につき、急性期脳梗塞を適応として前臨床試験・第Ⅰ相臨床試験・前期第Ⅱ相臨床試験を完了しました。また、前期第Ⅱ相臨床試験実施中の2018年6月に米国の大手製薬会社であるバイオジェン社とオプション契約を締結し、2021年5月にはバイオジェン社がオプション権を行使しました。当該提携により当社は、(1)契約締結時(2018年6月)に400万ドル、及び(2)オプション権行使時(2021年5月)に1,800万ドルを受領済です。また、(3)今後の開発及び商業化の状況に応じて最大3億3,500万ドルのマイルストーン、及び(4)製品発売後の売上に応じてロイヤリティを受領(1桁%台後半~10%台前半の段階的料率)する可能性があります。

なお、当社がSMTP化合物に関してバイオジェン社と締結しているオプション契約は、使用許諾契約(ライセンス契約)とは異なり特許権(出願中のものを含む)及びデータの譲渡の契約形態となっていますが、対価を一時金及びロイヤリティとする点で、経済条件の面では使用許諾契約と類似した契約形態となっています。

 

(4)成長戦略

当社は、日本の大学で創出されたシーズについて、研究段階・前臨床段階・臨床試験段階と開発を進め、ヒトPOC取得まで至ることができました。またその過程でグローバルに展開する海外製薬会社との提携を実現した実績を有しています。当社の経営陣は、これらの実績・経験を有するメンバーがコアとなっています。

当社では、このような実績・経験を活かして、①SMTP化合物、特に急性期脳梗塞患者を対象とした治験で良好な成績を収めたTMS-007を基盤として上場企業としての基礎固めを行い、②日本を中心としたアカデミアの創薬シーズを積極的に導入してパイプラインを拡充していくことで今後の成長を実現していくこと、を成長戦略として描いています。

 

 

<用語解説>

用語

意味・内容

シーズ

医薬品の候補物質。

凝固線溶系

凝固系とは、出血を止めるために生体が血液を凝固させる一連の分子の作用系であり、線溶系は血栓を溶かして分解する作用系のこという。凝固系と線溶系を併せて凝固線溶系と呼ぶ。

パイプライン

医薬品として開発を計画する物質。

臨床試験

医薬品や医療機器等についてヒトに対する有効性及び安全性を評価するための科学的試験であり、新たな医薬品の製造販売承認を得るために必要とされる。

少数の健常人である被験者を対象に安全性や薬物動態(体内に投与されてから体外に排出されるまでのプロセス)などを調べる第Ⅰ相試験、少数の患者(被験者)を対象に安全性・有効性を確認する第Ⅱ相試験、多数の被験者を対象に第Ⅱ相試験までで得られた安全性・有効性に関する仮説を検証する第Ⅲ相試験、の3段階で行われる。

前期第Ⅱ相臨床試験

第Ⅱ相臨床試験を二つに分ける場合があり、この場合、前半部分を前期第Ⅱ相臨床試験と呼ぶ。前期第Ⅱ相臨床試験では、安全性・有効性・薬物動態などを瀬踏み的に検討することが一般的である。

GLP

Good Laboratory Practiceの略で、日本語では「優良試験所規範(基準)」と訳される。試験施設(場所)の設備・機器、組織・職員、検査・手順・結果等が、安全かつ適切であることを確保するための基準。日本では厚生労働省の省令により詳細が定められている。

非臨床試験

医薬品の研究開発において、臨床試験に先立ち、動物を用いて薬効薬理作用、生体内での動態、有害な作用などを調べる試験。前臨床試験ということもある。

可溶性エポキシドハイドロラーゼ(sEH)

ヒトが生来持っている酵素の一つ。特定のエポキシド脂質を加水分解(hydrolyze)する作用を持つ。

プラスミノーゲン

プラスミンの前駆体タンパク質。不活性の状態で血中を循環しているが、t-PAにより切断されると活性体のプラスミンとなる。

適応

医薬品が効果をもたらすとされている疾患のこと。適応症ともいう。

エポキシド構造

2つの炭素と1つの酸素による三角形の環状構造。

加水分解

化合物が水と反応することによって起こる分解反応。

生理活性脂質

生理活性(生理作用)を持つ脂質のこと。生理活性を持つ分子としては蛋白質や核酸が広く知られているが、脂質にも生理活性を持つものがあり、このように呼ばれている。

エポキシエイコサトリエン酸(EETs:Epoxyeicosatrienoic Acid)

生理活性を持つ脂質分子の一種であり、アラキドン酸の分解を端緒とする分解経路であるアラキドン酸経路に連なる。抗炎症作用等の様々な作用を持つことが報告されている。

ジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHETs:Dihydroxyeicosatrienoic Acid)

生理活性を持つ脂質分子の一種であり、可溶性エポキシドハイドロラーゼがEETsを加水分解することにより生成される。一般的には生理活性をほとんど持たないと考えられている。

脱リン酸化作用

加水分解によって有機化合物からリン酸基の脱離を行う作用。

作用機序

薬剤がその薬理学的効果を発揮するため、標的となる分子などに何らかの効果を及ぼす仕組みやメカニズム。

アラキドン酸

不飽和脂肪酸の一種。代謝により様々な生理活性脂質に変換されるが、この一連の過程をアラキドン酸経路と呼ぶ。

 

 

用語

意味・内容

CYP 2C, 2J

CYPはシトクロムP450の略であり、医薬品等の生体異物の代謝に重要な役割を持つ酵素のファミリーである。CYP2C、CYP2Jは、CYPファミリーに属する酵素のサブファミリーである。

ドメイン

蛋白質の一部分で、独立した機能を持った領域のこと。

類縁体

ある化合物と性質や構造が類似している化合物のこと。

同定

化学物質が何であるかを決定すること。

内因性血栓溶解

元々生体内に備わっている機序に基づく血栓溶解のこと。

モデル動物

特定の疾患を人為的に発症させた動物。

フィブリン

繊維状のタンパク質で、血小板と共に傷口をふさぐ血栓を形成する主要な材料となる。

組織型プラスミノーゲン・アクティベータ(t-PA)

生体内に存在する酵素の一種。プラスミノーゲンを切断することで活性化しプラスミンにする。

プラスミン

フィブリンを分解する酵素。

FDA

アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)。

食品や医薬品の許可や取締り等の行政を行う、アメリカ合衆国の政府機関。

アンメット・メディカル・ニーズ

いまだ有効な治療方法が見つかっていない病気に対する新しい治療薬や治療法へのニーズ。

浮腫

細胞と細胞の間の水が増加し、排出されずに溜まった状態。

米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)

米国国立衛生研究所(NIH)が開発した、脳卒中の神経学的重症度の評価法。

無作為化(無作為化試験)

試験の対象を2つ以上のグループにランダムに分け、効果等を検証する試験実施方法。ランダム化試験とも呼ばれる。

プラセボ

色や重さ、味などは開発対象である医薬品候補の実薬に似せてあるが、有効成分の入っていない偽薬のこと。プラセボ群は、臨床試験等においてプラセボを投与された群。

プラセボ対照

(プラセボ対照試験)

被験者を対照群と治療群に分け、対照群にプラセボを割り付ける試験実施方法。

用量漸増(用量漸増試験)

投与量を段階的に増やす試験実施方法。最も適した投与量を調べるために行われる。

二重盲検(二重盲検試験)

被験薬を投与する被験者群と、プラセボなどの対照薬を投与する群に分け、どちらを投与しているのかを医師も被検者も知りえない状態で行われる試験実施方法。

血管内治療

細い管を血管に挿入し、疾患部位まで延ばして血管内で治療する手術方法。

症候性頭蓋内出血

頭蓋骨の内部に起きる出血のうち、神経症状の悪化を伴うもの。

モディファイド・ランキン・スケール(mRS)

脳卒中患者の生活自立度の尺度として一般的に用いられる指標。0~6までの7段階で表される。(0:全く症候がない、1:症候はあっても明らかな障害はない、2:軽度の障害、3:中等度の障害、4:中等度から重度の障害、5:重度の障害、6:死亡)

P値

仮説が誤りである確率を表す数値。小さいほど、仮説が正しいことを示す。例えば、P値<0.05の場合、仮説が誤りである確率は5%未満であることを示している。

オッズ比

ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度。一般に、1より大きい数値であれば、第一群の方が第二群よりも当該事象が起こりやすいことを表しており、1との差が大きければ大きいほど起こりやすさの差が大きい。

 

 

用語

意味・内容

CT血管造影法(CTA)

CTAはCT angiographyの略で、CTを利用した非侵襲的に血管イメージを得る画像検査法。

磁気共鳴血管撮影(MRA)

磁気共鳴画像撮影(MRI)装置を使って、血管だけを鮮明に画像化する撮影方法。

95%信頼区間

母集団の平均値が95%以上の確率で区間内に含まれると推定される範囲。

マイルストーン

医薬品を開発する際に段階的に設定される、開発状況の進捗の節目で得られる収益。

疫学

特定の集団における健康に関連する状況あるいは事象の、分布あるいは規定因子に関する研究。一般的には、ある疾患の患者数やその分布を指して用いられることがある。

急性血液浄化治療

血液の体外循環を行い、血液浄化器によって血液中に存在する病因物質を除去、もしくは不足している物質を補うことで、血液のバランスを整える治療のこと。

糸球体

腎臓にある、小さな穴が多数開いた微細な血管が丸まってできた小さな組織で、腎臓の主要な働きである血液中の老廃物や塩分を除去する機能を持つ。

グレリン様作用薬

グレリンは胃から産生されるペプチドホルモン。下垂体に働き成長ホルモンの分泌を促進し、また視床下部に働いて食欲を増進させる働きを持つ。グレリン様作用薬とは、グレリンと類似の作用機序を持つ医薬品のことをいう。

炎症性サイトカイン

サイトカインとは、主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達の役割を担っている。炎症性サイトカインは、その中でも炎症性反応を促進する働きを持つものをいう。

POC

Proof Of Conceptの略で、研究開発中である新薬候補物質の有用性・効果が、動物もしくはヒトに投与することによって認められることをいう。

 

4【関係会社の状況】

 該当事項はありません。

 

5【従業員の状況】

(1)提出会社の状況

 

 

 

 

2022年9月30日現在

従業員数(人)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(千円)

13

1

42.8

2.6

7,035

 (注)1.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数(パートタイマー、契約社員を含む。)は、最近1年間の平均人員を( )内に外数で記載しております。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.当社は、医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。

4.最近日までの1年間において従業員数が5名増加しております。主な理由は、研究員や管理部門の増強に伴

  い期中採用が増加したことによるものであります。

 

(2)労働組合の状況

当社において労働組合はありませんが、労使関係は円満に推移しております。