第二部 【企業情報】

 

第1 【企業の概況】

 

1 【主要な経営指標等の推移】

 

 

回次

第1期

第2期

第3期

第4期

決算年月

2019年3月

2019年10月

2020年10月

2021年10月

売上高

(千円)

50,666

87,855

381,785

507,617

経常利益又は経常損失(△)

(千円)

23,475

13,117

26,580

78,687

当期純利益又は当期純損失(△)

(千円)

15,236

10,256

27,110

79,217

持分法を適用した
場合の投資利益

(千円)

資本金

(千円)

900

900

100,000

100,000

発行済株式総数

(株)

10,000

10,000

1,602,600

1,602,600

純資産額

(千円)

16,136

26,392

206,986

127,768

総資産額

(千円)

34,036

54,988

304,849

252,446

1株当たり純資産額

(円)

1,613.62

2,639.23

98.32

60.69

1株当たり配当額

(1株当たり中間配当額)

(円)

(-)

(-)

(-)

(-)

1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)

(円)

1,523.62

1,025.61

12.97

37.62

潜在株式調整後
1株当たり当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

47.4

48.0

67.9

50.6

自己資本利益率

(%)

94.4

47.5

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

営業活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

19,741

83,204

投資活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

21,561

780

財務活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

206,538

3,324

現金及び現金同等物
の期末残高

(千円)

225,966

138,657

従業員数
〔外、平均臨時
雇用者数〕

(名)

4

39

54

42

64

97

79

 

 

(注) 1.当社は、連結財務諸表を作成しておりませんので、連結会計年度に係る主要な経営指標等の推移については 記載しておりません。

2.第1期は、2018年7月10日から2019年3月31日までの変則決算となっております。

3.2019年6月30日開催の第1期定時株主総会決議により、決算期を3月31日から10月31日に変更しました。従って、第2期は2019年4月1日から2019年10月31日までの7ヶ月間の変則決算となっております。

4.売上高には、消費税等は含まれておりません。

5.持分法を適用した場合の投資利益については、関連会社が存在しないため記載しておりません。

6.1株当たり配当額及び配当性向については配当を実施しておりませんので、記載しておりません。

7.潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であるため、期中平均株価が把握できませんので、また、1株当たり当期純損失であるため記載しておりません。

8.第3期及び第4期の自己資本利益率については、当期純損失であるため記載しておりません。

9.当社株式は非上場であるため株価収益率を記載しておりません。

10.第1期及び第2期については、キャッシュ・フロー計算書を作成しておりませんので、キャッシュ・フローに係る各項目については記載しておりません。

11.従業員数は就業人員であり、平均臨時雇用者数(パートタイマー)は平均人員を( )内にて外数で記載しております。

12.主要な経営指標等のうち、第1期から第2期については会社計算規則(平成18年法務省令第13号)の規定に基づき算出した各数値を記載しており、金融商品取引法第193条2第1項の規定に準じた監査証明を受けておりません。

13.前事業年度(第3期)及び当事業年度(第4期)の財務諸表については、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、EY新日本有限責任監査法人により監査を受けております。

14.2020年2月1日付で普通株式1株につき普通株式100株の割合で株式分割、2022年4月19日付で普通株式1株につき普通株式2株の割合で株式分割を行っております。そこで、第3期の期首に当該株式分割が行われたと仮定して、1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失を算定しております。

15.2020年2月1日付で普通株式1株につき普通株式100株の割合で株式分割、2022年4月19日付で普通株式1株につき普通株式2株の割合で株式分割を行っております。そこで、東京証券取引所自主規制法人の引受担当者宛通知「『新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)』の作成上の留意点について」(平成24年8月21日付東証上審第133号)に基づき、第1期の期首に当該株式分割が行われたと仮定して算定した場合の1株当たり指標の推移を参考までに掲げると以下のとおりとなります。

 

回次

第1期

第2期

第3期

第4期

決算年月

2019年3月

2019年10月

2020年10月

2021年10月

1株当たり純資産額

(円)

8.06

13.19

98.32

60.69

1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)

(円)

7.61

5.12

△12.97

△37.62

潜在株式調整後
1株当たり当期純利益

(円)

1株当たり配当額

 (1株当たり中間配当額)

(円)

(―)

(―)

(―)

(―)

 

 

 

2 【沿革】

当社は、創業者であり代表取締役社長兼COOである森遼太と取締役副社長である永田基樹が、2017年6月にテクノロジーを社会で実用化することで世の中の自動化を推進していくという理念の下、AI・IoT・ロボティクス・自然言語処理・ハードウェア等の各種テクノロジーを統合的に活用したソリューション提供・開発・保守・運用及び販売、ならびに受託とそれらに付帯するコンサルティング業務を目的に当社の前身である株式会社automateを設立し、事業を起こしたことに始まります。なお、森遼太と永田基樹は、株式会社automateを設立する以前に当社の代表取締役会長兼CEOである小代義行が当時代表を務めていた株式会社ユニークで学生時代に勤務しており、その経験が株式会社automateの起業につながっております。また、株式会社ユニークは当社が2020年3月に事業譲受をした株式会社ユニプロの親会社であり、当該事業譲受の後、小代義行は当社に参画しました。

 

設立以降の当社に係る経緯は、以下のとおりであります。

年月

概要

2017年6月

東京都世田谷区にAI・IoT・ロボティクス・自然言語処理・ハードウェア等の各種テクノロジーを統合的に活用したソリューション提供を事業目的とした株式会社automate(資本金500千円)を設立

2018年7月

東京都世田谷区に、様々な技術を社会で実用化することを目的として、AIを中心として、それに限らずIoT・ロボティクス・自然言語処理・ハードウェア等の各種テクノロジーを統合的に活用したソリューション提供を事業目的とした株式会社pluszero(資本金900千円)を株式会社automateからの新設分割として設立

2018年8月

東京都世田谷区にAIの中でも自然言語処理に特化したソリューション提供・開発・保守・運用及び販売、並びに受託と付帯するコンサルティング業務を事業目的とした株式会社formalogic(資本金170千円)を株式会社pluszeroからの新設分割として設立

2018年9月

AIソリューション提供開始

2019年2月

株式会社アビストとの同社におけるAIソリューション事業立ち上げに関する業務提携を開始

2019年6月

業務拡張のため、本社を東京都世田谷区北沢二丁目8番10号 仙田ビル4Fに移転

2019年10月

株式会社formalogicを清算

2019年12月

株式会社アビストとの資本提携を実施

2020年3月

株式会社automateを株式会社pluszeroに合併して解散

2020年3月

株式会社ユニプロのITソリューション事業を事業譲受により取得

2021年6月

ISO/IEC 27001:2013(ISMS)の認証を取得

2021年9月

「情報処理システム及び仮想人材(特許番号:第6951004号)」(注1)の特許取得

2022年4月

丸紅情報システムズ株式会社とネットワークオペレーションセンターの自動化に向けた業務提携を開始

 

(注) 1.「情報処理システム及び仮想人材(特許番号:第6951004号)」は、当社が開発中の「ユーザーから見て人間が対応しているように感じる対話システム」である「仮想人材派遣」及び「仮想人材派遣」を支える中核技術を指しております。

 

3 【事業の内容】

 当社は「人の可能性を広げる」というビジョンを実現すべく、「知の創発により、新しい選択肢を生み出す」をミッション、「ユニークなプロフェッショナルであれ」をバリューとして掲げております。日本の現状として、少子高齢化を好機として捉えAIやロボットの導入率を世界最高水準に引き上げ、日本の生産性を世界一にして人々の可処分時間や可処分所得を増やすことを目指しております。当社社名の由来は、かつてインドで「0」という概念が生まれたことが後の数学を大きく発達させたように、全く新しい概念やアイデアを創出することによって世の中に革新的変化をもたらすことを目指して、「pluszero」と名付けました。

 当社は、AIを中心としてIT・ハードウェア等の各種テクノロジーを統合的に活用したソリューションを提供する「ソリューション提供事業」を展開しております。また、関連会社は有しておらず、単一の会社で、単一の事業を展開しております。

(1)ソリューション提供事業の内容

①ソリューション提供事業の分類と特徴

 当社の「ソリューション提供事業」は、提供形態に基づいて、下表のように区分をすることができます。

大分類

契約形態

ビジネス概要

プロジェクト型

請負契約
準委任契約

顧客の経営問題の解決や課題の達成のための相談と具体的なサービス・システムの設計・開発・保守運用までをワンストップで提供

・顧客の要求仕様を満たすサービス・システムをプロジェクト単位に契約して契約の期間内に納品

・顧客の経営問題に対して中長期的に向き合いながらエンジニアやコンサルタントの稼働やノウハウを安定的に提供

・「サービス型」に付随して発生する開発の実施及び関連事業・サービスの立上支援

サービス型

ライセンス供与契約

「仮想人材派遣」関連技術に関する技術情報の提供や開発ライセンス・利用ライセンスの供与

 

 「ソリューション提供事業」は、2022年10月期第3四半期時点では「プロジェクト型」が98%を占めており、「プロジェクト型」で獲得した利益に基づいて、当社が独自に定義した技術であり、特定ジャンルに限定することによって、機械が人間のように意味を理解できるようになることを目指す技術であるArtificial Elastic Intelligence(AEI)に関する研究への継続投資行っております。

 「ソリューション提供事業」の強みとしては、下図のようにプロジェクトマネージャー(PM)を中心にして、文系・理系の知見を融合した「文理融合型」のメンバーが従事しており、様々なパターンのAIのプロジェクトに対応できるようになっていることであります。なお、「文理融合型」のメンバーの多くは大学生・大学院生を中心としたインターン生となっております。インターン生を活用する理由といたしましては、日々研究を行っているインターン生が日進月歩で技術革新が進むAI分野において、最新の知見を有しているためであります。


 

 

(注) 1.文理融合型人材の習熟分野の組み合わせは当社従業員の一例であり、上図は習熟分野ごとの在籍比率を示すものではありません。具体的には、文理融合型人材が当社の従業員の6割を占めることを示すものではありません。

2.文理融合型の定義は、以下に記載の項目のいずれかを満たす従業員となっております。

    ・大学或いは大学院における専攻分野は理系領域であるが、学外で文系領域を学習し、文理双方の分野において当社が定める一定以上の基準で習熟している従業員

    ・大学或いは大学院における専攻分野は文系領域であるが、学外で理系領域を学習し、文理双方の分野において当社が定める一定以上の基準で習熟している従業員

    ・大学或いは大学院における専攻分野が文理双方の領域に跨り、文理双方の分野において当社が定める一定以上の基準で習熟している従業員

3.(注) 2における理系領域は計算機科学、機械学習、数学等の領域を指しております。

4.(注) 2における文系領域は言語学、哲学、心理学等の領域を指しております。

 

 また、当社在籍人材の特徴として、AIやITなどの技術系に対応できる人材の割合は90%を超え、大学院生士以上の人材の割合も全従業員の40%を超えております。学習力・技術力を持つメンバーが数多く在籍することで、当社が所属する業界の技術的イノベーションへの対応と当社ソリューションへの適用が可能となり、競争力の源泉となっております。なお、当社に在籍する人員の割合は以下のとおりであります。


(注) 2022年3月時点の集計となります。

 

②プロジェクト型の特徴

a. プロジェクト型の概要

「ソリューション提供事業」の「プロジェクト型」では、主に以下の8つの領域についてのソリューションを提供しております。


 

当社のプロジェクト型の強みは、下図のように経営に関する「課題発見・新規事業計画」から「保守・その他」までのソリューションをワンストップで提供することでございます。これにより、各工程を分離させることなく、一気通貫でのサービスを高い品質をもって提供しております。


 

b. プロジェクト型の事例

(株式会社新興出版社啓林館との事例)

 新規事業立上支援の事例として、株式会社新興出版社啓林館と共に、教科書傍用問題集における学習をサポートするアプリとして「AIチューターゼロ」を開発しました。


 

(古野電気株式会社との事例)

 画像処理の事例として、古野電気株式会社と無人船の自動航行に向けたプロジェクトを行いました。


 

③サービス型の特徴

a. 第4世代AI及びAEIの概要

 当社は、第4世代AIとして、既に実現している人工知能(AI)と極めて実現が難しいとされている汎用人工知能(AGI)の間の概念として、独自に「柔軟な人工知能」、英訳として「Artificial Elastic Intelligence(AEI)」を定義し、開発に取り組んでおります。

 

(第4世代AIの概要)

 国立研究開発法人科学技術振興機構(CRDS)「第4世代AIの研究開発 -深層学習と知識・記号推論の融合-」によると、第4世代AIは、現在の主流である「ディープラーニングを含む統計的機械学習」を用いた第3世代AIが持つ以下の3つの限界を克服することを目的とし、その手段として「推論と検索」を用いた第1世代AI及び「ルールベースのシステム」を用いた第2世代AIと第3世代AIを融合させることで、実現を目指す次世代AIとなっております。

 ①学習に大量の教師データや計算機資源が必要であること

 ②学習範囲外の状況に弱く、実世界状況への臨機応変な対応ができないこと

 ③パターン処理は強いが、意味理解・説明等の高次処理はできていないこと

 

 なお、第1世代AI~第4世代AIの特色をまとめると以下のとおりになります。

通称

年代

代表技術

概要

主な問題点

第1世代AI

1950's~

推論と探索

探索技術を用いて限定的な課題に対し高度な推論を実現するAI。記号推論の原型もこの頃に生まれた。

解決可能な課題が限定的であり、現実世界における実用性が低い。

第2世代AI

1980's~

ルールベースのシステム

人手で辞書・ルールを構築・活用するルールベースのAI。

推論に対する高い解釈性を実現することが可能である。

精度の向上に膨大な工数が必要。

第3世代AI

2000's~

ディープラーニング

大量のデータからルールやモデルを構築して活用する機械学習に基づくAI。

高い推論精度を発揮する。

高い精度の実現には大量のデータが必要。

意味理解等ができていない。

推論に対する解釈性が低い。

第4世代AI

20XX

ディープラーニングと

知識・記号推論の融合

ディープラーニングと知識・記号推論を融合させることで、意味理解に基づく高い推論精度と推論に対する高い解釈性を両立させることを目指すAI。

コンセプトが打ち出されたのが直近で、現時点で決定版となるソリューションがない。

 

 

(AEIの概要)

 AEIとはArtifitial Elastic Intelligenceの略で、柔軟なAIを意味する当社による造語となります。ナレッジグラフによる第2世代AIやディープラーニング技術による第3世代AIがはらむ課題を解決する新しいAIの枠組みとして第4世代AIという概念が昨今提唱され始めておりますが、その第4世代AIの具体的な実装として、当社が独自に開発するAI技術を総称したものであります。ディープラーニング技術までのAIとは異なるアプローチを取ることから、区別のためにAEIと呼称しております。

 

(AEIの取り組み)

 当社は、AEIがある特定のジャンル内においては機械が人間のように意味を理解できるようになることを目指しております。これは、任意のジャンルにおいて自意識や全認知能力を持ち、極めて実現が難しいとされているAGIとは異なるアプローチであり、ジャンルを特定のものに限定することで実現難易度を下げるという狙いがあります。当社はAEIを開発することで、「特定のジャンルに限定することによって、人間のように意味を理解した上でタスクを実行することが可能なAI」の実現を目指しております。これまで当社はAEIの開発に集中しておりましたが、現在は並行して、業務提携先とAEIを活用したサービスの立ち上げを進めております。

 

略称

名称(英語)

名称(日本語)

俗称

実現性

説明

AI

Artificial Intelligence

人工知能

弱い

AI

既に

実現

人間の知性の一部分のみを代替し、特定のタスクだけを機械的に処理するAI

AEI

Artificial Elastic Intelligence

柔軟(な)人工知能

実現

可能

特定ジャンルに限定することによって、人間のように意味を理解した上でタスクを実行することが可能なAI

AGI

Artificial General Intelligence

汎用人工知能

強い

AI

極めて

難しい

人間のような自意識を備え、全認知能力を必要とする作業も可能なAI

 

 

b. AEIと既存技術の比較

 AEIに関しては、BERT(注1)・GPT3(注2)に代表されるディープラーニング技術及び、知識をグラフ形式でまとめたナレッジグラフという二つの技術が、主な比較対象となります。

 

(ディープラーニング技術)

 データに基づいてデータの背後にある構造や法則性を推定・推論する技術を機械学習と呼びます。ディープラーニング技術はそのような機械学習の具体的な手法の一種になります。

 一般的に、ディープラーニング技術では必要なデータ量が膨大となる反面、ディープラーニング技術より以前から存在していた機械学習の手法と比較すると高い推論精度を発揮することが多いということが知られております。

 従来はディープラーニング技術の要求するデータ量を確保することが現実的に難しかったため、その応用範囲は極めて限定的でしたが、情報化社会の発達に伴い大量のデータを用意することが比較的容易になってきました。そのため、昨今ではディープラーニング技術の研究開発が大きく前進し、その成果を利活用したサービスが普及し始めております。

 ディープラーニング技術を搭載したサービスはしばしば人間レベルの精度の推論が可能になることから、AI(人工知能)とみなされるようになりました。ディープラーニング技術を用いて実装されたAIは第3世代AIと呼ばれております。

 

(ディープラーニング技術の精度向上可能性)

 ディープラーニング技術は、仮にデータや計算機資源が無尽蔵にあれば、多くの実用先で精度を100%に近づけることができるということが知られております。その代表的な根拠としては、①べき乗則と②普遍性定理の2つがあります。

 ①べき乗則

 ディープラーニング技術においては、推論精度がデータ量や計算機性能に伴って向上していくことが報告されております。この際、精度はデータ量や計算機性能に対し比例関係よりは緩やかなペースで向上するとされており、これをべき乗則と呼びます。そのため、データや計算機資源を増やしていくことで、徐々に効率は落ちながらも確実に推論精度を高めていけることが示唆されます。

 ②普遍性定理

 ディープラーニング技術は、データと計算機が十分にあれば、実用上多くの課題に対して、無限に高い精度で推論できる力(表現能力と呼びます)を持つことが数学的に証明されており、これを普遍性定理と呼びます。

 これら二つの根拠を併せることで、データと計算機さえ十分に用意することができれば、ディープラーニング技術は多くの課題に対して十分な精度で推論できる可能性を持つ技術であるということが示唆されます。実際に例えばBERTやGPT3と呼ばれるディープラーニング技術を用いた推論器は、非常に多くのデータや計算機資源を投入することで、機械翻訳や文書要約といった複数の課題で非常に高い精度を実現しております。

 

(自然言語処理領域におけるディープラーニング技術の推論精度の限界)

 逆に、データを十分に集めることが現実的ではないようなケースでは、精度向上には限界があるとも言えます。特に自然言語処理と呼ばれる、言葉を扱うような応用領域では、本質的に推論に必要なデータを十分確保することが難しい場合が多いと考えられます。

 例えば、『私はリビングにいます。私はリモコンを手に取りました。私は寝室に移動しました。』という文章があった際に、リモコンがどこにあるか推論することを考えます。人間であればリモコンは寝室にあるということは明らかに分かりますが、『手に取って移動すると手に取ったものも同様に移動する』というデータがないと、計算機には正しい推論が行えません。しかしながら、そういったデータが現在あるいは近い将来に十分収集できるかというと、それは非現実的であると当社は考えております。

 このように、人間にとっては当然と思われるようなことであっても、計算機にとっては解くことが難しい事項が数多く存在するというのが自然言語処理領域の現状となっております。

 

(ディープラーニング技術による推論の解釈性の問題)

 精度向上以外の観点では、ディープラーニング技術は一般的に推論の根拠が人間に分かるように説明ができないということも、説明責任を果たす必要があるようなユースケースでは大きな問題となります。推論の根拠がよく可視化された解釈性の高いAIは、透明性や説明可能性の高いAIとも呼ばれております。

 XAI(注3)と呼ばれる分野として透明性や説明可能性の高いAIの研究が進められておりますが、精度面とのトレードオフがあることや、実用上要求される粒度での推論根拠を提示することがまだ難しいことがあり、中々実用には至れていません。

 

(ディープラーニング技術のその他の課題)

 他にも、個人情報やライセンス的に利用してはいけない情報等がデータに紛れ込むことで他者の権利を侵害してしまう可能性、特定の入力の際だけ異常な結果を返す(意図的な場合はバックドアと呼ばれます)可能性、データの偏りによって差別的な推論を行ってしまう可能性等、ディープラーニング技術にはビッグデータに依存して推論を構築する仕組みであるが故の問題が多く存在します。

(注) 1.BERTは自然言語処理領域を代表するディープラーニング技術による推論モデルの一つです。

2.GPT3もまたBERT同様に自然言語処理領域での推論モデルの一つとなります。

3.XAIは、eXplainable Artificial Intelligenceの略で、アルゴリズムによって自動化された処理の過程を、人間が理解し検証できるようにした人工知能のことです。具体的には構築された機械学習モデルを解析することで推論根拠の抽出を試みたり、人間による推論過程自体を機械学習によってモデル化したりといったアプローチがあります。

 

(ナレッジグラフ)

 ナレッジグラフは、文章を概念毎の要素に分解後、分解された概念それぞれを「対象(点)」として、それらの「対象」を関係性に応じて「辺(線)」で結びグラフ構造にした知識基盤を利活用し、推論を行うアプローチとなります。


 

 ナレッジグラフの利点として、ディープラーニング技術では困難な推論の高い解釈性を実現することが可能です。例えば図の例では、『pluszeroはどのような街にあるか』という質問に対して、『pluszeroは世田谷区北沢にある』『世田谷区北沢の街の名は下北沢である』従って『pluszeroは下北沢という街にある』と推論過程を可視化することができます。

 ナレッジグラフを利用した推論技術も人手で構築・管理されたテーマ内では人間のような推論が実現できることから、AI(人工知能)とみなされております。ナレッジグラフを用いて実装されたAIは第二世代AIと呼ばれております。

 

(ナレッジグラフの課題)

 ディープラーニング技術に代表されるビッグデータに基づく手法と比べ、ナレッジグラフでは一つ一つ手作業で知識基盤を構築していく必要があります。そのため、精度の向上に膨大な工数が必要となる傾向があり、実用に足る精度を出すために必要な人員コストが実用上大きな課題になります。ナレッジグラフに機械学習を融合することでこの問題の解決を目指す研究も行われておりますが、ナレッジグラフが本来持っている解釈性を維持したまま精度を高めるような仕組みを見出すには至っていません。

 

(ディープラーニング技術、ナレッジグラフ双方の課題)

 ディープラーニング技術、ナレッジグラフのいずれにおいても、一般的には推論ロジックは一度構築された時点で固定化し、状況や文脈に応じてより適切な推論に変更するといった柔軟性を実現することは難しいです。

 

(AEIのアプローチ)

 AEIは、ナレッジグラフを基礎に、次の3つの拡張を行ったものとなります。

①ナレッジグラフの概念(グラフ上の点)の意味を表現するデータベースを保持すること

②データベースに存在しない概念が現れた際には新しく意味を定義する仕組みを保持すること

③データベースに存在する概念に対しても意味を更新する仕組みを保持すること

 これらの拡張を一部ディープラーニング技術のようなデータ駆動(注1)の手法を取り入れながら行うことで、ナレッジグラフの課題であった、推論効率(注2)と動的更新性(注3)を高めることが可能であり、ディープラーニング技術とナレッジグラフの双方の限界である精度と解釈性のトレードオフを現実的に超越できる拡張性をAEIは備えていると考えております。

(注) 1.データ駆動とはビッグデータに基づいて推論ロジックを構築する方式で、ディープラーニング技術のほかにもさまざまなものが存在し、一長一短な性質があるため適宜最適なものを選定する必要があります。

2.推論の効率が向上すれば、少ないデータから多くの推論が可能になるため、ナレッジグラフで必要な膨大な工数を抑えることができます。①具体から抽象を一般化する(ディープラーニング技術を活用)こと、②明示的で説明可能な状態で意味を表現すること、③情報を極力欠落させないこと、④同じ意味であれば同じ表現となること、⑤文脈を保持すること、の5条件を満たす仕組みを保持することで推論効率の向上を実現します。

3.動的更新とは、AIが特定のタスクを遂行する中で、AI自体の情報を随時更新していくことを指しており、(ディープラーニング技術、ナレッジグラフ双方の課題)で指摘したとおり、大部分のAIは動的更新されません。

 

 

c. AEIを用いて実現を目指すサービスの内容

 当社は、AEIのコンセプトの下、「仮想人材派遣」をサービスとして早期に実現させることを目指しております。
 「仮想人材派遣」は、「ユーザーから見て人間が対応しているように感じる対話システム」である「仮想人材」を、実世界で人材を派遣しているような形で、メール・電話・チャット・テレビ会議・ロボット等を通して提供するサービスです。「仮想人材」は、特定のジャンル(限定された業界・業務範囲)において知識を持つことで、意味を理解した上で回答することが可能になります。
 当社は、対話システムのサービスレベルを当社の独自基準である「理解度レベル」(注1)及び「コミュニケーションの自動化レベル」(注2)で評価しており、当社が実現を目指している「ユーザーから見て人間が対応しているように感じる対話システム」に必要な「理解度レベル4」及び「コミュニケーションの自動化レベル4」を3年から5年のスパンで実現したいと考えております。

(注) 1.「理解度レベル」

ある限定された物事に対する理解の深さの度合いを測るための当社の独自基準です。

レベル0

物事を知らない

レベル1

(断片的に)知っている

レベル2

(一とおり)読んだことはある

レベル3

(自分なりに)話すことができる

レベル4

(理解したうえで)第三者に伝えることができる

レベル5

(理解したうえで)第三者に教えることができる

 

2.「コミュニケーションの自動化レベル」

自動車における自動運転の基準に相当するコミュニケーションの自動化の度合いを測るための当社の独自基準です。

レベル0

すべて人が対応

レベル1

選択肢のみボットが表示

レベル2

限定タスクの定型表現のみボットが対応

レベル3

限定タスクの定型・非定型表現をボットが対応

レベル4

特定ジャンル内の全タスクをボットが対応

レベル5

全タスクをボットが対応

 

 

 なお、「コミュニケーションの自動化レベル」の各段階における人間の関与度合いと対応内容、仮想人材が持つ「理解度レベル」及びボットが対応可能な業務の一覧は以下のとおりになります。


 

d.「仮想人材派遣」を支える中核技術及びAEIに関する特許戦略

 「仮想人材派遣」には、当社独自の技術である「N4」、「PSFデータ」、「パーソナライズ要約」という3つの中核技術があり、「N4」を中心に以下の利用関係にあります。


 

 「N4」とは、Neo Non-loss normalized Networkの略であり、自然言語を機械が処理可能な形に変換した際の意味の表現形式であります。「N4」の特徴としては、自然言語から変換する際に、自然言語の文章において人間が認識する情報全体(文章の意味)を欠落させずに表現でき、かつ表現の多様性を吸収し、同じ意味であれば同じ形で表現することができる点にあります。「仮想人材派遣」、「パーソナライズ要約」を実現する際には基本的に文を「N4」形式に変換すること、意味のデータベースである「PSFデータ」を動的に更新する際に「N4」形式の文を活用することからも、各技術の実現のために有効性の高い技術となっております。

 「PSFデータ」とは、Parametric Semantic Frameの略であり、単語等の持つ意味をパラメータ形式で表現したデータベースである「共通辞書的なPSFデータ」と「知識・経験・個性など知性に関する情報を「N4」の形で表現し、集計、集約したデータベースである「仮想人材の知性的なPSFデータ」の2種類により構成されております。「PSF」データは、主に自然言語を「N4」形式に変換する際や、「仮想人材派遣」や「パーソナライズ要約」において「N4」形式の文を意味が類似する別の文に言い換える際に用いられます。

 「パーソナライズ要約」とは、「N4」及び「PSFデータ」を用いた、対話相手の利用可能語彙に応じた要約・言換技術であります。具体的には、ある文を「N4」形式に変換した後、「PSFデータ」及び相手の利用可能語彙の情報を基に、対話相手の利用可能語彙に変換する仕組みとなっております。

 AEIに関する知的財産戦略としては、3つの中核技術(N4、PSFデータ、パーソナライズ要約)を活かした仮想人材派遣についての特許を取得済であります。中核技術の個別特許については、今後、分割出願・申請により取得予定でございます。また、米国・EU・中国へ特許を国際展開する計画もあり、PCT出願済(注1)でございます。

(注) 1.PCT出願は、特許協力条約に基づく国際出願であり、日本国特許庁等の指定官庁に対して出願手続きを行うことにより、条約加盟国全てに同時に出願をしたのと同じ効果が得られるものでございます。

 

e. AEIライセンス契約の内容及び今後の収益獲得の方向性

 当社は、「仮想人材派遣」の実現に向けて複数の業界のパートナー企業と業務提携を行い、「仮想人材派遣」関連技術のPoCや技術を利用した新規事業の立上を試みております。さらに、2022年4月からはライセンス供与契約に基づき「仮想人材派遣」関連技術に関する情報の提供や開発ライセンス・利用ライセンスの供与を行い、売上計上を開始しております。

 業務提携における現在のターゲット業界と事業拡大の方向性の一例は以下のとおりでございます。

 


 また、業務提携における「仮想人材」の利用イメージとしては、丸紅情報システムズ株式会社の事例がございます。

 丸紅情報システムズ株式会社はITシステムの開発を手がける企業で、その子会社でITシステムの運用保守のサービスを展開しています。その中で、ITシステムの運用・保守業務を担う人間のサポート、具体的には業務のうち自動化できる部分は自動化し、そうでない場合は人間の作業効率を高めるような情報提供をするといったことを行う、「仮想人材」を提供するサービスを構築中です。ITの運用・保守業務は、失敗が一切許されなかったり、関係者のITリテラシーに応じた柔軟なコミュニケーションが求められたりすることが多いため、従来の解釈性の低いAIが適用しにくい領域でした。そのため、ITの運用・保守業務は、AEIの特長である解釈性の高さ、推論の説明可能性の高さが活きる分野であり、従来型のAIの活用では実現できなかった形のソリューションが実現可能であると考えております。ITの運用・保守業務を遂行できる人材は、恒常的に不足しており、「仮想人材」がそのような人材の支援を行うことで、一人当たりの対応できる業務量が増え、当該分野の人材不足の解消に貢献していくことを目指しております。

 

 AEIライセンス契約以外のビジネスモデルとしては、「仮想人材派遣」を支える中核技術のAPIとしての提供、AEI技術を組み込んだSaaSの展開、AEI技術を用いたサービスを広く各社が開発可能とするAEIのPaaS化、又はOEMとして提供していくことを計画しております。

 

④事業系統図

 当社の事業系統図は次のとおりであります。


 

4 【関係会社の状況】

該当事項はありません。

 

5 【従業員の状況】

(1) 提出会社の状況

 

 

 

 

 2022年8月31日現在

従業員数(名)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(千円)

64

57

30.9

2.07

6,236

 

(注) 1.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数(パートタイマー)は、最近1年間の平均人員を( )内にて外数で記載しております。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.当社の事業セグメントはソリューション提供事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

(2) 労働組合の状況

当社には、従業員の過半数代表ではありませんが、2021年に結成された任意の労働組合があります。当社と労働組合との関係は、円満に推移しております。