第二部【企業情報】

第1【企業の概況】

1【主要な経営指標等の推移】

回次

第1期

第2期

第3期

決算年月

2019年6月

2020年6月

2021年6月

売上高

(千円)

119,273

515,515

1,089,424

経常利益又は経常損失(△)

(千円)

12,159

81,945

27,825

当期純利益又は当期純損失(△)

(千円)

8,235

86,428

27,719

持分法を適用した場合の投資利益

(千円)

資本金

(千円)

50,000

100,000

100,000

発行済株式総数

(株)

 

 

 

普通株式

10,000

10,333

10,333

A種優先株式

3,000

3,000

3,000

B種優先株式

4,398

純資産額

(千円)

293,764

385,291

3,051,881

総資産額

(千円)

318,873

469,109

3,188,388

1株当たり純資産額

(円)

623.51

11.79

15.62

1株当たり配当額

(円)

(うち1株当たり中間配当額)

(-)

(-)

(-)

1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)

(円)

808.19

9.27

2.39

潜在株式調整後

1株当たり当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

92.13

82.13

95.72

自己資本利益率

(%)

1.61

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

営業活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

72,933

150,315

投資活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

21,542

14,451

財務活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

177,955

2,628,373

現金及び現金同等物の期末残高

(千円)

251,418

3,015,655

従業員数

(人)

12

41

52

(外、平均臨時雇用者数)

(3)

(13)

(19)

 (注)1.当社は連結財務諸表を作成しておりませんので、連結会計年度に係る主要な経営指標等の推移については記載しておりません。

2.第1期の売上高に消費税等は含まれておりますが、第2期及び第3期の売上高に消費税等は含まれておりません。

3.第3期の売上高については、大型案件の継続及び新規獲得、並びにAIソリューションの本格導入等により顧客数及びプロジェクト数が増加した結果、大幅に増加しております。

4.持分法を適用した場合の投資利益については、関連会社が存在しないため記載しておりません。

5.1株当たり配当額及び配当性向については、配当を実施していないため、記載しておりません。

6.1株当たり純資産額については、優先株主に対する残余財産の分配額を控除して算定しております。

 

7.潜在株式調整後1株当たり当期純利益について、潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できないため、また、第1期及び第2期は1株当たり当期純損失であるため、記載しておりません。

8.第1期及び第2期の自己資本利益率については、当期純損失が計上されているため、記載しておりません。

9.株価収益率は当社株式が非上場であるため記載しておりません。

10.第3期の財務活動によるキャッシュ・フローについては、有償第三者割当増資による株式の発行による収入2,628,373千円により大幅に増加しております。

11.前事業年度(第2期)及び当事業年度(第3期)の財務諸表については、「財務諸表等の用語、様式及び作成

方法に関する規則」(昭和38年大蔵省令第59号)に基づき作成しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、有限責任監査法人トーマツの監査を受けております。なお、第1期の財務諸表については、「会社計算規則」(平成18年法務省令第13号)の規定に基づき算出した各数値を記載しており、有限責任監査法人トーマツによる監査を受けておりません。

12.当社は2018年7月23日設立のため、第1期は2018年7月23日から2019年6月30日までの11ヶ月と9日間となります。

13.従業員数は就業人員数であり、従業員数の( )外書きは、臨時従業員(インターン、アルバイト、人材会社からの派遣社員を含む。)の年間の平均雇用人数であります。

14.当社は、2021年8月19日開催の取締役会決議により、2021年9月29日付で普通株式1株につき700株の割合で株式分割を行っております。第2期の期首に当該株式分割が行われたものと仮定し、1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)を算定しております。

15.当社は、2021年8月19日開催の取締役会決議により、2021年9月27日付ですべてのA種優先株式及びB種優先株式を自己株式として取得し、対価として当該A種優先株式及びB種優先株式1株につき、それぞれ普通株式1株を交付しております。また、当社が取得したA種優先株式及びB種優先株式のすべてについて、2021年8月19日開催の取締役会決議により2021年9月27日付で消却しております。これにより、発行済株式数は普通株式12,411,700株となっております。なお、当社は2021年9月29日開催の定時株主総会において、種類株式を発行する旨の定款の定めを廃止しております。

16.当社は、2021年9月29日付で普通株式1株につき700株の割合で株式分割を行っております。

そこで、東京証券取引所自主規制法人(現 日本取引所自主規制法人)の引受担当者宛通知「『新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)』の作成上の留意点について」(平成24年8月21日付東証上審第133号)に基づき、第1期の期首に当該株式分割が行われたと仮定して算出した場合の1株当たり指標の推移を参考までに掲げると、以下のとおりとなります。

なお、第1期の数値(1株当たり配当額についてはすべての数値)については、有限責任監査法人トーマツの監査を受けておりません。

回次

第1期

第2期

第3期

決算年月

2019年6月

2020年6月

2021年6月

1株当たり純資産額

(円)

△0.89

11.79

15.62

1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)

(円)

△1.15

△9.27

2.39

潜在株式調整後1株当たり当期純利益

(円)

1株当たり配当額

(円)

(うち1株当たり中間配当額)

(-)

(-)

(-)

 

2【沿革】

 当社は、現代表取締役社長である加藤聡志が、過去の職歴であるマッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパン(大企業のトップマネジメントと全社戦略を策定・推進)及びバクスター株式会社(デジタル化やシステム開発を推進)で培った知見をもとに、データサイエンス(*1)やAI(*2)、機械学習(*3)を活用して定量的な改善効果を創出するビジネスに着目し2013年12月に設立した一般社団法人日本データサイエンス研究所が前身となっております。その後、更なる事業拡大のため、一般社団法人日本データサイエンス研究所から事業の一部譲渡を受ける形で、2018年7月23日に株式会社日本データサイエンス研究所(資本金2,000千円)を東京都文京区に設立いたしました。

 設立以降の当社に係る経緯は、以下のとおりであります。

年月

概要

2018年7月

データサイエンスやAIを活用したITシステムの開発・運用、事業投資・運営を目的として、
株式会社日本データサイエンス研究所(現 当社)を設立

2019年2月

駿台予備学校を運営する学校法人駿河台学園及びエスエイティーティー株式会社と業務提携

2019年3月

再配達を減少させるための配送実験を行い、スマートメータ(*4)から得られる電力データをもとにAIが配送ルートを示すシステム構築を目指す「不在配送ゼロ化AIプロジェクト」を公開

2019年4月

中部電力株式会社と株式会社インターネットイニシアティブによる合弁会社である合同会社ネコリコ及び東京大学越塚研究室と共同で、スマートホームソリューションの高度化に資する、

電力データ活用のための実証実験・共同研究において技術提携をすることを合意。

「home insight」として研究開発を開始

2019年10月

東京大学大学院工学系研究科 松尾豊教授がアカデミックパートナー(現 顧問)に就任し、東京大学との技術面での連携を強化

 

「home insight」の技術を活用し、佐川急便株式会社及び東京大学大学院 越塚登研究室・田中謙司研究室と「AIと電力データを用いた不在配送問題の解消」に関して3者共同研究開発を実施することに合意

2020年1月

「home insight」の技術を活用し、合同会社ネコリコと東京大学大学院情報学環 越塚登研究室と共同で、AIと電力データを用いたフレイル(*5)の検知に関する実証実験について公表

2020年3月

製薬企業・医療機器メーカー向けのコミュニケーションツール「frontconnect」(「sales insight」)を、株式会社アンテカニスから譲受け提供開始

2020年6月

需要予測・在庫最適化・発注自動化ソリューション「demand insight」の提供開始

マーケティング最適化ソリューション「response insight」の提供開始

データ基盤構築サービス「Wodom!」の提供開始

2020年7月

「home insight」の技術を活用し、佐川急便株式会社、東京大学大学院 越塚登研究室・田中謙司研究室、横須賀市及びグリッドデータバンク・ラボ 有限責任事業組合との5者共同で、「AI活用による不在配送問題の解消」に関する共同研究及び世界初の実証実験の実施について合意

2020年10月

ダイキン工業株式会社及び中部電力株式会社等を引受先とする第三者割当増資を実施し、提携関係を強化

2020年11月

商号を株式会社JDSCに変更

一般社団法人 日本経済団体連合会に入会

2021年3月

顧客の機密情報及び顧客が保有する個人情報が含まれるデータ管理等、情報セキュリティ体制や情報管理体制を強化する目的でプライバシーマーク(*6)を取得

 

学校法人駿河台学園と共同開発した教育業界初の「難関国公私立大入試・個別試験対策ICT教材」がリリース開始。「learning insight」として研究開発を加速

2021年5月

東京大学大学院の工学系研究科の准教授である田中謙司氏が社外取締役に就任し、東京大学の知の社会還元と実装を行う体制を強化

2021年7月

製品の不具合を監視し、運転データを活用して不具合を未然に検出することを目指す新たなAIソリューション「maintenance insight」の研究開発を大手メーカーと開始

2021年10月

「DX×PE」(*7)をコンセプトに掲げ、第一線で活躍する投資プロフェッショナルとDXプロフェッショナルから構成されるプライベート・エクイティ・ファンドD Capital 1号投資事業有限責任組合への出資及び事業連携を実施

 

 

  用語集

 

用語

内容

*1

データサイエンス

統計、科学的手法、人工知能及びデータ分析などの複数の分野を駆使してデータから価値を引き出す行為であり、高度なデータ分析を実行するためのデータのクレンジング、集約、操作などをいい、分析用のデータの準備も含まれる。

*2

AI

Artificial Intelligenceの略称であり、人間にしかできなかったような高度に知的な作業や判断を、コンピュータを中心とする人工的なシステムにより行えるようにしたものをいう。

*3

機械学習

コンピュータが大量のデータを学習し、分類や予測などのタスクを遂行するアルゴリズムやモデルを自動的に構築する技術をいう。

*4

スマートメータ

電力をデジタルで計測して通信機能を併せ持つ電子式電力量計をいう。

*5

フレイル

健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態をいう。

*6

プライバシーマーク

個人情報の保護体制に対する第三者認証制度をいう。

*7

DX×PE

DXとは、Digital Transformationの略称であり、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することをいう。

PEとは、Private Equityの略称であり、未公開企業や不動産に対して投資を行い事業価値や企業価値の向上によるリターン創出を図る投資家や投資ファンドのことをいう。

DX×PEとは、DXの実行によってリターン創出を目指すPEのことをいう。

*8

SDGs

SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月の国連サミットで採択されたもので国連加盟193か国が2016年

から2030年の15年間で達成するために掲げた目標をいう

*9

アルゴリズム

ある特定の問題を解いたり、課題を解決したりするための計算手順や処理手順をいう。

*10

PoC

Proof of Conceptの略称であり、実証を目的とした、試作開発の前段階における検証やデモンストレーションをいう。

*11

Kaggle

企業や研究者がデータを投稿し、世界中の統計家やデータ分析家がその最適モデルを競い合うコンペティションをいう。

*12

SKU

Stock keeping Unitの略称であり、在庫管理における、単品単位をいう

*13

API

Application Programming Interface (アプリケーション・プログラミング・インタフェース) の略称であり、アプリケーションやソフトウェアの構築と統合 (インテグレーション) に使われるツール、定義、プロトコルをいう。

*14

CVR

Conversion Rateの略称であり、施策が顧客獲得にどの程度繋がったかの指標をいう。

 

3【事業の内容】

 当社は「UPGRADE JAPAN」をミッションとして掲げ、「AIでデータの真価を解き放ち産業の常識を塗り替える」というヴィジョンを実現すべく、データサイエンスや機械学習、AIといった最先端の技術を社会に実装することを目指しております。日本の現状として、企業が各社の利益追求のために個別の課題解決をDX (Digital Transformation)により実現するというアプローチが主流でありますが、個社では解決できない産業共通課題の解決やSDGs(*8)実現のためにデータ・AIを産業横断で活用するという流れがより一層加速すると当社では考えております。当社は、AIの技術力とビジネス力の双方を駆使して、個社課題の改善のみではなく産業全体の改革(IX=Industrial Transformation)や産業共通のSDGs達成に貢献し、UPGRADE JAPANを実現することを目指しております。

 

 当社は「AIソリューション事業」の単一セグメントであります。各産業を代表する大手企業をパートナーとする共同研究開発を通じて、産業共通課題を解決するAI関連のサービスやソリューションを多数創出し、それらを自社プロダクトとして他企業にも幅広く提供することで収益を計上しております。現在、需要予測関連ソリューション、マーケティング最適化ソリューション、データ基盤構築ソリューション等の7つのサービスを展開しております。当社の事業は一過性のAIアルゴリズム(*9)受託開発やシステム受託開発、コンサルティングビジネスとは異なり、産業全体の課題に対してAIによる改善効果を創出し、複数の顧客から継続的な収入を得るという特徴を有しております。

 

 当社は各産業の大手企業との提携を通じてそれらの企業が抱えている非公開のデータにアクセスが可能であるという点で、他の企業と比べて情報優位なポジションを有しております。また、データの量や種類が多いほどアルゴリズムの精度が向上するというAI領域の技術的な特徴を活かし、単一の顧客ではなく産業全体の複数社にサービスを提供することで、利益やキャッシュ・フロー等への定量的な改善効果を高めております。AIアルゴリズムの所有権は当社が有しており、AIソリューションの提供社数が増加するほど膨大なデータの学習によりアルゴリズムの精度が向上していくため、後発プレーヤーの参入に対しても非常に有効な参入障壁として機能することが期待されます。

 

 当社は個別企業の一過性の課題解決ではなく産業全体のSDGsの達成を志向しております。個別企業の課題解決という観点では、あらゆる産業においてAI活用による課題解決への需要が高まっており、国内のAIソリューション市場は2019-2025年の間に0.9兆円から1.9兆円に拡大する(出典:株式会社富士キメラ総研「2020 人工知能ビジネス総調査」)と予測されております。しかしながら、産業共通課題の解決という観点で見ると、SDGsにより創出されるICT関連市場が中国を除くアジア太平洋先進地域で2030年に10.4兆円に拡大する(出典:三菱総合研究所「デジタル化の社会的・経済的効果について」)と試算されており、当社の事業機会は非常に大きいと考えております。

 産業全体の複数社にAIソリューションを提供することが可能であるため、個社の受託開発やコンサルティング等のビジネスと比較して、AI市場/SDGs市場の成長をより強く享受することが可能となります。また、単一の産業やプロダクトに依存しない収益構造であるため、特定産業の景気動向や成長スピードに左右されない優位なポジショニングを有しております。

 

 顧客は当社の支援によって、AIを用いた全社経営課題の解決に関する上流の戦略策定から、実際のAIアルゴリズムの構築、システム実装並びにオペレーションの改善等の下流の執行領域まで、一気通貫で成果を創出することが可能となります。当社のAIソリューションは、利益やキャッシュ・フロー等の観点で定量的な改善効果を創出することを重視していることから、顧客は経営課題の解決やSDGsの達成を実現しやすくなります。当社は、AIソリューションの顧客との共同研究開発並びに初期導入フェーズにおいて、課題特定や全社戦略策定の支援、PoC(*10)の実施、AIアルゴリズムの構築及びシステム実装等の準委任型の役務提供を通じてフロー型(非継続)の収益を得ております。また、AIソリューション導入後のフェーズにおいて、運用保守料やサービス利用料、ライセンス利用料、コンソーシアム会費等のストック型(継続)の収益を計上しております。

 

(1)当社の特徴と優位性

 当社の特徴と優位性は「AIアルゴリズムに関する技術面での豊富な知見」、「AIによる解決策の提示から実行まで一気通貫で支援するビジネス面での高い執行能力」及び「大手企業との共同開発(Joint R&D)と産業横展開を両立する生産性の高いビジネスモデル」にあります。

 

① AIアルゴリズムに関する技術面での豊富な知見

 当社は東京大学の大学院工学系研究科の松尾豊教授や田中謙司准教授、同大学院情報学環の越塚登教授の3名を顧問または社外取締役として招聘しており、それぞれの研究室と共同で特許権を取得する等、密接に連携しながら技術領域の研究開発を行っております。

 当社はビジネスデベロップメント部門、データサイエンス部門及びデベロップメント部門及びの三位一体のチーム体制により、産業課題の掘り起こし、AIによる解決策の提示、AIアルゴリズムの開発及びAIソリューションの実装までを包括的に推進しております。当社の正社員のうち半数以上はデータサイエンス部門及びデベロップメント部門の技術領域に所属しており、データサイエンス部門の一部メンバーは東京大学の最先端の研究室に在籍しながら国際的にも最前線の研究活動を行っております。また、正社員のうち約4割は理系の修士・博士であり、東京大学と共同で執筆した国際学会論文や共同で取得した特許権は、いずれも当社のAIソリューションの構築に大きく貢献しております。2020年に開催された機械学習の著名な世界的コンペティションであるKaggle(*11)に当社の正社員の一部が参加し、正社員の約2割がKaggleメダリストと認定され、トップチームは全世界で上位0.6%の成績を収めて表彰を獲得する等、当社のAI領域における技術力の高さは対外的にも示されております。

 

② AIによる解決策の提示から実行まで一気通貫で支援するビジネス面での高い執行能力

 当社は技術面に優れたチームに加えて、ビジネスマネジメントや課題発見、プロジェクトマネジメント、事業開発等に優れたチームを構築しており、単にAIを技術として提供するだけでなく、産業や顧客の課題を解決し実際に定量的な改善効果を創出することを重視しております。

 当社の正社員のうち3割程度がコンサルティングや投資銀行、外資系メーカー等のプロフェッショナルファーム出身のメンバーで構成されております。また、エンジニアでありながらMBAを保有してビジネス領域の知見を有する人材や、データサイエンティストでありながらビジネス推進も含めた事業全体の責任者の役割を担う人材もおり、定量的な改善効果の創出に必須となるビジネススキルの高さが特徴となっております。

 顧客にとってAIの導入やDXの推進は、技術力が高いベンダーを選定したとしても容易に進まないケースが多いため、当社では高い技術力を有するメンバーとビジネス領域に知見を有するチームが共同となり顧客を一気通貫で支援することで、利益やキャッシュ・フロー等について定量的な改善効果を創出しやすい体制を構築しております。結果として、2021年6月期の継続顧客の割合(注:当事業年度に売上が発生した顧客のうち前事業年度にも売上が発生していた顧客の割合)は7割を超えており、顧客の満足度は非常に高い状態となっております。

 

③ 大手企業との共同開発(Joint R&D)と産業横展開を両立する生産性の高いビジネスモデル

 当社は各産業の大手企業と強固なパートナーシップを結びながら共同でAI活用を推進しており、Joint R&Dフェーズとして既に多数の顧客から収益を得ております。当該フェーズにおける顧客へのサービス提供を通じて、産業固有の課題やデータを収集できるというメリットに加えて、データによる学習を通じて自社が保有するAIのアルゴリズムを強化することが可能となります。さらに、当社単独での開発と比較すると、共同開発は大手企業の予算や人的リソースを活用できるため、開発費用が大きく抑制され、当社の生産性及び収益性が向上する要因となっております。

 また、共同開発の契約においては、一部例外を除き、開発したAIソリューション及びアルゴリズムを当社保有のプロダクトとして産業内外の複数の他企業に提供することが可能となっており、単一の顧客から一過性の収入を得る受託開発やコンサルティングと比較して持続的な事業拡大を実現しやすいビジネスモデルを実現しております。収益性についても、各産業において1社目のパートナー企業と共同で創出したAIソリューションを2社目以降に横展開する際には、既に存在するプロダクト及びアルゴリズムの活用が可能であることからプロジェクトの粗利率が改善する傾向にあり、横展開が進むほど収益性が向上するビジネスモデルとなっております。

 

 結果として、特定業界に依存することなく創業4期目で各産業の大手企業との共同研究開発が多数進展しており、

demand insightやsales insight、Wodom!等、複数のAIソリューションにおいて産業内の横展開が進んでおります。アルゴリズムの精度が向上し当社サービスやソリューションがもたらす価値が高まること等を背景に、継続顧客が増加すると同時に、顧客1社あたりから得られる収益も上昇傾向にあります。2021年6月期の継続顧客のうち前事業年度と比較して売上高が増加した割合は9割となっております。

 

(2)事業展開するAIソリューションのカテゴリ

 当社は、展開するAIソリューションごとに、共同研究開発や初期導入フェーズにおける課題特定や全社戦略策定の支援、PoCの実施、AIアルゴリズムの構築及びシステム実装等の準委任型の役務提供を通じたフロー型(非継続)の収益と、AIソリューション導入後のフェーズにおける運用保守料やサービス利用料、ライセンス利用料、コンソーシアム会費等のストック型(継続)の収益を得ております。

 産業ごとの共通課題に対してAIソリューションを創出しプロダクト化していくビジネスモデルであるため、今後もAIソリューションの数は増加する見込みでありますが、現時点でプロダクト化しているAIソリューションは以下のとおりであります。

 

① learning insight

 問題・ヒント提示を生徒の学習状況に合わせて最適化して提供するadaptive learningのシステム及びアプリケーションの開発等を手掛けております。教育領域のAI活用に留まらず、DX戦略策定やビジネスマネジメント等のプロフェッショナルサービスの提供や、データ活用を効率的に行うためのデータ基盤の整備など、幅広い観点で顧客を支援しており、多様な収益源を確保しております。また、教育業界以外にも、社内研修の効率化といった潜在的なニーズが高まっている産業も存在するため、今後は幅広い産業への横展開を検討してまいります。2021年6月期においては、大手予備校に対して、adaptive learning関連のプロフェッショナルサービスの提供やシステム開発等を行い、売上を計上しております。

 中長期的には、オンラインによる質の高い教育サービスの提供を通じて、SDGsの目標である「4:質の高い教育をみんなに」の実現に貢献してまいります。

 

② demand insight

 「需要予測が難しい」、「製品数(SKU)(*12)が多すぎて管理が煩雑」、「欠品と滞留の連続」等の人力業務が限界を迎えて効率化や最適化が困難という課題を抱える顧客に対して、機械学習を用いた需要予測・在庫最適化・発注自動化のAIソリューションを提供しております。提携する東京大学の研究室の協力も得ながらAI・機械学習における最先端の予測技術を活用しつつ、顧客課題を正確に把握した上でAIを実装していくことで高い予測精度を実現しております。大手小売企業への導入事例において実施した机上検証のプロジェクトにおいては、対象SKUのうち約7割から9割程度の製品で需要予測の精度を改善させており、余剰な在庫の削減等を実現しております。大手ホームセンターへの導入事例においては、机上検証で観測された削減効果を全輸入品カテゴリに適用した場合に在庫量が約16%削減されるという検証結果を得ております。既に業界内の横展開の事例も存在しており、2021年6月期においては、アセスメント、PoC実施、導入に際してのシステム開発、導入後の継続的な運用保守に伴うサービス利用料等により売上を計上しております。

 中長期的には、フードロスや在庫ロスの削減を通じて、SDGsの目標である「12:つくる責任 つかう責任」の実現に貢献してまいります。

 

③ home insight

 電力のスマートメータから取得可能なデータを用いて、二つの大きな社会課題の解決に取り組んでおります。

 一つ目は、電力データから「フレイル」という虚弱状態(健康な状態と要介護状態の中間に位置)を検知・予測するという当社保有の特許技術を活用し、現在は大手電力会社と共同で新しいサービス開発に取り組んでおり、システム開発やビジネスマネジメント等の収入を得ています。将来的には、フレイル検知のAIアルゴリズムのライセンス費用やAPI(*13)の利用頻度に応じた課金といった安定的な継続収益に繋げてまいります。また、電力をはじめとする多様なデータを活用した新たなサービスを生み出すことでフレイルを予防・改善し、健康寿命の延伸等を目指すフレイル対策コンソーシアムに発起人として当社が参画しており、中長期的には電力会社だけではない幅広い業界の主要プレーヤーと協業し、介護・ヘルスケア領域の様々な課題を解決していくことを目指します。

 中長期的には、介護状態の回避や健康寿命の延伸等を通じて、SDGsの目標である「3:すべての人に健康と福祉を」の実現に貢献してまいります。

 二つ目は、電力データを用いて在宅か否かを検知・予測し物流の配送ルートの最適化に繋げるという当社保有の特許技術を活用し、現在は大手物流会社と共同で不在配送比率引き下げのプロジェクトに取り組んでおり、システム開発やビジネスマネジメント等の収入を得ています。将来的には、在不在判定のアルゴリズムのライセンス費用やAPI課金といった安定的な継続収益に繋げてまいります。

 2021年6月期においては、導入前のビジネスマネジメントサービスやアセスメントサービス、PoC実施、本導入のシステム開発、導入後の継続的な運用保守、ライセンスやAPI等を提供し、売上を計上しております。

 中長期的には、効率的な物流機能を備えたスマートシティの実現等を通じて、SDGsの目標である「11:住み続けられるまちづくりを」の実現に貢献してまいります。

 

④ sales insight

 製薬会社のMR向けに、e-Detailシステム(対医師への薬剤説明等の営業行為をオンラインで実施するシステムをいう)をfrontconnectというサービス名で提供しております。昨今のDXやオンライン化の流れに加えて、新型コロナウイルス流行下において、更にニーズが高まっており、国内・外資系双方の大手製薬会社に複数導入が進んでおります。

 製品の特徴としては、(i)医師向けに個別のビデオメッセージが可能、(ⅱ)医師ごとの閲覧・評価等のデータを収集し分析が可能、(ⅲ)製薬業界の厳しいコンプライアンスへの対応、(ⅳ)月額固定ライセンス料の低コスト導入、(ⅴ)即導入・即利用が可能、という点が挙げられます。現状はAI実装のためのデータ収集フェーズであり、今後はリモートでの発言内容の自動文字起こし、AIによる示唆提供、複数社間での医師の反応データの共有等、新たな機能の開発を目指してまいります。大手製薬企業の導入事例においては、MRの対面による営業活動の費用を1回2万円と仮定して試算した結果、対面訪問と比較して1か月の費用が約4百万円低減するという結果が得られました。2021年6月期においては、複数社の大手製薬会社に対して、システム導入の初期費用と導入後の運用保守及び利用量に応じた従量課金等の形で売上を計上しております。

 中長期的には、対面営業だけではないオンラインなどの新たな形の営業活動を支援することにより、SDGsの目標である「8:働きがいも 経済成長も」の実現に貢献してまいります。

 

⑤ response insight

 ダイレクトメールやカタログ送付などのマーケティング手法について、人間の勘や統計的な手法だけではなく、AIを活用して予測・選定を行うことで、より高い精度及び生産性を実現するAIソリューションを提供しております。大手観光業における導入事例では、人間が勘にも頼りながら選択する運用から当社AIアルゴリズムを活用する運用に切り替えた結果、ダイレクトメールのキャンペーン1施策あたりのCVR(*14)が最大で約90%改善し、年換算で約1.7億円の利益改善が実現しております。

 2021年6月期においては、アセスメント、PoC実施、導入に際してのシステム開発、継続利用料等により売上を計上しております。

 中長期的には、ダイレクトメールの削減による無駄な紙の消費を抑え、SDGsの目標である「15:陸の豊かさも守ろう」の実現に貢献してまいります。

 

⑥ maintenance insight

 家電製品の運転状況や、製造装置の運転状況、太陽光発電の稼働状況など、様々な領域における運転や稼働の状態を時系列のデータを元に解析し、AIのアルゴリズムを用いることで、異常が発生する確率や頻度を予測するというソリューションを提供しております。大手メーカーやインフラ企業、エネルギー関連企業等に対して、ビジネスマネジメントサービスやアセスメントサービス、PoC実施等から売上を得ておりますが、今後は本導入のシステム開発や導入後の継続的な運用保守等からも売上を計上する予定です。

 中長期的には、より効率的な稼働を実現しエネルギー効率を高めていくことで、SDGsの目標である「7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の実現に貢献してまいります。

 

⑦ Wodom!

 社内に散在するデータを集積し、AIや機械学習の活用が可能な形でデータの基盤を構築するソリューションを幅広い産業に提供しております。当社のinsightシリーズのAIソリューションを導入する前段階で、データが整備されておらずデータに基づいた経営判断ができていないケースが多く、そういった場面でWodom!が活用される事例が増加しております。2021年6月期においては、導入前のビジネスマネジメントサービスやアセスメントサービス、PoC実施、本導入のシステム開発、導入後の継続的な運用保守等を提供し、売上を計上しております。

 中長期的には、より効率的なデータ基盤の構築を通じて、SDGsの目標である「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」の実現に貢献してまいります。

 

 

[事業系統図]

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[事業展開するAIソリューション]

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4【関係会社の状況】

 該当事項はありません。

 

 

5【従業員の状況】

(1)提出会社の状況

 

 

 

 

2021年10月31日現在

従業員数(人)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(千円)

55

(15)

35

1.1

7,734

 

 当社はAIソリューション事業の単一セグメントであるため、事業部門別に記載しております。

事業部門の名称

従業員数(人)

デベロップメント部門

19

(3)

データサイエンス部門

13

(3)

ビジネスデベロップメント部門

15

(3)

コーポレート部門

8

(6)

合計

55

(15)

 (注)1.従業員数は就業人員であり、従業員数の( )外書きは、臨時従業員(インターン、アルバイト、人材会社からの派遣社員を含む。)の最近1年間の平均雇用人数であります。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.最近日までの1年間において従業員が11名増加しております。主な理由は、事業拡大のため人材採用を積極的に行ったためであります。

 

(2)労働組合の状況

 当社において労働組合は結成されておりませんが、労使関係は円満に推移しております。