第二部 【企業情報】

 

第1 【企業の概況】

 

1 【主要な経営指標等の推移】

(1) 連結経営指標等

 

回次

第3期

第4期

決算年月

2018年12月

2019年12月

事業収益

(千円)

65,297

644,500

経常利益又は経常損失(△)

(千円)

213,390

146,351

親会社株主に帰属する当期純利益又は親会社株主に帰属する当期純損失(△)

(千円)

217,909

140,528

包括利益

(千円)

218,101

140,763

純資産額

(千円)

1,201,779

3,842,542

総資産額

(千円)

1,224,508

3,938,428

1株当たり純資産額

(円)

14.84

153.09

1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)

(円)

10.84

5.96

潜在株式調整後1株当たり
当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

98.2

97.6

自己資本利益率

(%)

5.6

株価収益率

(倍)

営業活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

212,608

224,148

投資活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

6,996

61,769

財務活動による
キャッシュ・フロー

(千円)

250

2,490,603

現金及び現金同等物
の期末残高

(千円)

1,205,143

3,857,235

従業員数
(外、平均臨時雇用者数)

(人)

10

16

(1)

(1)

 

(注)1.事業収益には、消費税等は含まれておりません。

2.当社は、2019年11月29日開催の取締役会決議により、2019年12月22日付で普通株式1株につき100株の割合で株式分割を行っており、第3期の期首に当該株式分割が行われたと仮定し、1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)を算出しております。

3.潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、第3期は潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できなく、1株当たり当期純損失であるため、また第4期は潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できないため記載しておりません。

4.自己資本利益率については、第3期は親会社株主に帰属する当期純損失であるため記載しておりません。

5.株価収益率については、当社株式は非上場であるため、記載しておりません。

6.第3期及び第4期の連結財務諸表については、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)に基づき作成しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、有限責任 あずさ監査法人の監査を受けております。

 

(2) 提出会社の経営指標等

 

回次

第1期

第2期

第3期

第4期

決算年月

2016年12月

2017年12月

2018年12月

2019年12月

事業収益

(千円)

17,921

65,297

644,500

経常利益又は

経常損失(△)

(千円)

45,948

141,200

228,981

128,822

当期純利益又は

当期純損失(△)

(千円)

46,214

142,150

229,932

127,899

資本金

(千円)

55,100

360,000

50,000

1,300,000

発行済株式総数

 

 

 

 

 

普通株式

(株)

126,000

126,000

126,000

25,100,000

A種優先株式

(株)

75,000

75,000

純資産額

(千円)

63,885

1,421,735

1,191,802

3,819,701

総資産額

(千円)

67,648

1,434,334

1,208,442

3,897,549

1株当たり純資産額

(円)

507.03

389.38

15.33

152.18

1株当たり配当額

(うち1株当たり

中間配当額)

(円)

(―)

(―)

(―)

(―)

1株当たり当期純利益又は

1株当たり当期純損失(△)

(円)

366.78

1,028.95

11.44

5.43

潜在株式調整後
1株当たり当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

94.4

99.1

98.6

98.0

自己資本利益率

(%)

5.1

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

従業員数

(外、平均臨時雇用者数)

(人)

3

(―)

(1)

(1)

(1)

 

(注)1.事業収益には、消費税等は含まれておりません。

2.当社は、B種優先株式について、2019年4月10日付で32,000株、2019年5月10日付で12,000株、2019年5月24日付で6,000株、合計して50,000株を有償第三者割当により増加しております。

3.当社は、2019年11月29日開催の取締役会決議により、2019年12月22日付で普通株式1株につき100株の割合で株式分割を行っており、第3期の期首に当該株式分割が行われたと仮定し、1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)を算出しております。

4.潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、第1期、第2期及び第3期は潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できなく、1株当たり当期純損失であるため、また第4期は潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であり、期中平均株価が把握できないため記載しておりません。

5.自己資本利益率については、第1期、第2期及び第3期は当期純損失であるため記載しておりません。

6.株価収益率については、当社株式は非上場であるため、記載しておりません。

7.1株当たり配当額及び配当性向については、配当を実施していないため記載しておりません。

8.主要な経営指標等の推移のうち、第1期及び第2期については、会社計算規則(平成18年法令省令13号)の規定に基づき算出した各数値を記載しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定による監査証明を受けておりません。

9.第3期及び第4期の財務諸表については、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和38年大蔵省令第59号)に基づき作成しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、有限責任 あずさ監査法人の監査を受けております。

 

10.当社は、2019年12月10日付で、A種優先株主及びB種優先株主の株式取得優先権の行使を受けたことにより、全てのA種優先株式及びB種優先株式を自己株式として取得し、対価としてA種優先株主及びB種優先株主にA種優先株式及びB種優先株式1株につき普通株式1株を交付しております。また、2019年12月11日開催の取締役会決議により、当該A種優先株式及びB種優先株式の全てを消却しております。

11.2019年12月22日付で株式1株につき100株の株式分割を行っております。
そこで、東京証券取引所自主規制法人(現 日本取引所自主規制法人)の引受担当者宛通知「『新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)』の作成上の留意点について」(平成24年8月21日付東証上審第133号)に基づき、第1期の期首に当該株式分割が行われたと仮定して算定した場合の1株当たり指標の推移を参考までに掲げると、以下のとおりとなります。
なお、第1期及び第2期の数値(1株当たり配当額については全ての数値)については、有限責任 あずさ監査法人の監査を受けておりません。

 

 

第1期

2016年12月

第2期

2017年12月

第3期

2018年12月

第4期

2019年12月

1株当たり純資産額

(円)

5.07

△3.89

△15.33

152.18

1株当たり当期純利益又は

1株当たり当期純損失(△)

(円)

△3.67

△10.29

△11.44

5.43

潜在株式調整後1株当たり当期純利益

(円)

1株当たり配当額

(うち1株当たり中間配当額)

(円)

(―)

(―)

(―)

(―)

 

12.第1期の財務諸表については、2016年1月14日から2016年12月31日までであります。

 

 

 

2 【沿革】

 

年月

概要

2016年1月

東京都中央区にエディジーン株式会社(現 株式会社モダリス)を設立

2016年4月

米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市に連結子会社EdiGENE Inc.(現 Modalis Therapeutics Inc.)を設立

2017年4月

アステラス製薬株式会社との間で「CRISPR-GNDM」を用いた共同研究契約を締結

2017年12月

富士フイルム株式会社、他数社を引受先とする出資契約を締結

2017年12月

アステラス製薬株式会社との間で拡大共同研究契約を締結

2018年6月

経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム「J-Startup」に選定

2019年1月

当社を東京都中央区内で移転

2019年3月

アステラス製薬株式会社との間で遺伝子治療薬開発のライセンス契約を締結

2019年3月

米国子会社を米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市内で移転・拡張

2019年8月

商号を株式会社モダリス(英語表記:Modalis Therapeutics Corporation)へ変更

同時に米国子会社EdiGENE Inc.の社名をModalis Therapeutics Inc.へ変更

2019年9月

アステラス製薬株式会社との間で遺伝子治療薬開発の2例目となるライセンス契約を締結

2019年11月

エーザイ株式会社との間で「CRISPR-GNDM」を用いた共同研究契約を締結

2020年4月

Editas Medicine,Inc.との間でCRISPR/Cas9特許の非独占的実施の許諾を受けるライセンス契約を締結

 

 

3 【事業の内容】

当社グループ(以下、当社及び連結子会社Modalis Therapeutics Inc. (米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市)の2社を指します。)は、コアとなるプラットフォーム技術である『切らないCRISPR技術※1(CRISPR-GNDM技術)』を用いた創薬によって、その多くが希少疾患に属する遺伝子疾患に対して治療薬を次々と生み出し、企業理念である「Every life deserves attention (すべての命に、光を)」のとおりに、病気のために希望を失わなくてすむ社会の実現に貢献してまいります。

 

当社グループのターゲットとしている遺伝子疾患とは、10,000(1)と言われるヒトの疾患の中で、約7,000(2)が患者数の少ない希少疾患(疾患のロングテール)と言われ、ほとんどはこの希少疾患に属します。これらの患者数は、一つ一つの疾患は細分化されていても、合わせると世界中で4億人(3)もいるとされています。希少疾患領域のための治療薬開発は、開発コストと開発期間が膨大にかかる従来型の創薬では効率が悪いためこれまで敬遠されており、95%(3) (5)の希少疾患にはまだ治療薬がありません。当社グループの技術力でこの問題解決に挑みます。

 


 

なお、当社のセグメントは遺伝子治療薬開発事業のみの単一セグメントであります。

 

(1) 当社の事業領域

当社は、遺伝子コード※2やエピジェネティクス※3のエラーによって生じる遺伝子疾患に対して、独自のプラットフォーム技術であるCRISPR-GNDM(Guide Nucleotide-Directed Modulation)技術を用いた遺伝子治療薬※4の開発を主たる事業としております。

 

① CRISPR-GNDM技術

CRISPR-GNDM技術とは、ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9※5のコア分子であるCas9というCRISPR酵素※6を基に、当社グループが開発した独自の創薬プラットフォームシステムです。

この技術は、Cas9タンパク質※7を詳細に解析して有効な改変を行い、また独自に開発した周辺技術と組み合わせ、目的遺伝子の発現(細胞内での出現量)をオン・オフすることを可能にしたものであり、いわば「遺伝子スイッチ」として機能するユニークかつパワフルな創薬技術(モダリティ)です。より具体的には、CRISPR酵素の切断活性※8を不活化し、これに遺伝子の転写※9を上げる、または下げるスイッチング分子※10を連結することにより、ガイド核酸※11で誘導された特定の箇所の近傍にある遺伝子を選択的にオン、またはオフにすることが可能になります。つまり、通常のゲノム編集とは異なり、遺伝子の切断を行わず効果を発現させる技術です。このCRISPR-GNDM技術によって、6,000を数えると言われる遺伝子疾患の原因遺伝子に対してエピジェネティクスを直接制御して治療法を生み出すことが可能になります。

 

<CRISPR-GNDM技術のイメージ図>

 


 

② CRISPR-GNDM技術の特徴

a.  CRISPR-GNDM技術による成功確率の優位性

医薬品開発の主要な4つのハードルとして、薬物動態※12、メカニズム(Proof-of-Mechanism(PoM))※13、概念実証(Proof-of-Principal(PoP))※14、コンセプト実証(Proof-of-Concept(PoC))※15があります。

一般的な創薬技術(モダリティ)は、低分子医薬、抗体医薬、核酸医薬等があり、旧来の創薬である低分子医薬は、多くの候補の低分子化合物から目的の機能の評価試験法を用いて絞り込みをして開発候補物質を決め、開発のステージを進めていきますが、候補選択の評価試験法には限りがあり、着目している機能以外に毒性など不明なことが多いままに臨床試験を行うことになりますので、開発の各ステージで予期せぬ毒性などが露見し、次々とドロップアウトし、極めて少数のプロダクトが上市に辿り着くのが常でした。また近年は、病態や疾患の原因となるターゲット分子の同定※16が進んだことにもより、タンパク質や遺伝子のような標的に対して合理的にデザインされた分子によって治療を行おうとする、抗体医薬、核酸医薬等のように分子標的薬アプローチ※17が取られるようになりました。しかしながら、このようなアプローチをしても標的分子の種差によって候補物質の作用の仕方が動物とヒトの間に差がある場合があり、実際に実験してみるまでは薬効や毒性の程度の差はわからないという状況に変わりはありません。つまり、一般的な創薬技術においては、常にドロップアウトのリスクと隣り合わせであり、長期にわたり多額の研究開発投資を投入しても成功の予測が困難な状態が開発の最終段階までつきまといます。したがって、一般的な創薬技術であれば、第Ⅱ相臨床試験※18の終了まではその薬が効果を見せるかどうか、あるいは毒性があるかどうかは試験を実施するまで予見することが困難です。

一方で、当社のCRISPR-GNDM技術をはじめとして単因子遺伝子疾患※19を対象とする遺伝子治療薬開発においては、PoPとPoCの蓋然性がより高いと考えられます。多くの遺伝子治療でターゲットとする単因子遺伝子疾患においては原因が単一の遺伝子に起因しているため、PoP及びヒトPoC※20予見可能性が高いと考えております。そのため、動物でターゲット遺伝子の正常化を行った結果が良好であれば、ヒトでの治療効果を早期に予見することができ、開発の成功確率が高まり、一般的なモダリティよりも早い段階でパートナー企業とのライセンス契約の締結に繋げることが可能と考えております。

 

 

<医療品開発の主要なハードル>

 


 

b.  CRISPR-GNDM技術の移転可能性

一般的な創薬技術の場合は、ある一つの薬が臨床試験に成功して上市されたとしても、その開発ノウハウを別の薬に移転できる部分はあまり大きくありません。これは薬毎に性質が異なり、薬毎の利点も問題点も異なるからです。一般的な治療薬の開発は、数千〜数百万の化合物のライブラリーの中から薬効や薬物動態、毒性などを指標に適切な化合物の絞り込みを行い、さらに最適化を続けて開発に資する化合物へと何段階ものスクリーニングをしなければなりません。ターゲットの疾患毎にこうした作業はゼロから行うことになり、したがってある治療薬の開発経験やノウハウは他の治療薬へそのまま転用することが難しいと考えられます。

一方で、一般的な遺伝子治療薬開発においては必要な細胞への導入方法や製造方法の多くは、ターゲットの遺伝子が変わっても共通の部分が非常に多いと考えられているため、成功のノウハウと失敗の学びを他のターゲット遺伝子に対する遺伝子治療薬に転用することが一般的な創薬技術に比べて容易となると考えております。

CRISPR-GNDM技術においては、特に可変部分がガイド核酸(下記図中①)という非常に小さい部品に限られており、またその他の構成成分である切断不活型CRISPR酵素(下記図中②)とスイッチング分子(下記図中③)は共通のパーツとして既にあるため、標的疾患毎に対応したわずか約20塩基ほどのガイド核酸のみを個別にデザインをするだけで、効率よく遺伝子治療薬を開発することができると考えております。この技術的な特徴により、多くの遺伝子疾患にCRISPR-GNDM技術による創薬の方法論を拡張して遺伝子治療薬を生み出すことができると考えております。

 

 

<CRISPR-GNDM技術のコンセプト>

 


 

c.  CRISPR-GNDM技術の収益の将来性

米国における遺伝子治療薬を開発するバイオテック企業の時価総額の累計は、『Human Gene Therapy Clinical Development Vol. 29, No. 4』(2018年12月、Mary Ann Liebert, Inc.発行)掲載の「Traditional Approaches for Company Valuation are Flawed for Valuing in vivo gene therapy companies」によると、2018年10月末時点において2,500億米ドル(約28兆円)に達し、特に2017年以降に急速な上昇を見せています。

その背景には、上記で述べた遺伝子治療薬開発においての予見可能であることによる成功確率の高さ及び他の遺伝子治療薬へノウハウを移転することの容易さという、2つの特徴によると考えられています。

その結果、遺伝子治療薬開発において重層的なキャッシュ・フローを生み出すことが可能であると考えられており、遺伝子治療薬開発バイオテック企業の高い将来性の評価に繋がっていると考えております。特に、CRISPR-GNDM技術においては、一般的な遺伝子治療薬よりも他の疾患への技術移転が容易であるため、当社の収益性も高くなると考えております。

 

<遺伝子治療薬のキャッシュフローモデル>

 


 

 

d.  CRISPR-GNDM技術の安全性

遺伝子治療の1つとしてゲノム編集治療があります。ゲノム編集は、染色体上の特定の場所にある遺伝子配列を部位特異的※21なヌクレアーゼ※22(切断酵素)を利用して、思い通りに改変する技術です。代表的な技術に第一世代のZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)※23、第二世代のTALEN(タレン)※24といった旧来からの技術に対して、第三世代となるCRISPRが新たに登場しました。CRISPRは旧来からの技術に対して、より簡便かつ高速にターゲットの遺伝子を改変することができると考えられています。これらの技術を用いたゲノム編集治療は、ヌクレアーゼを細胞内にウィルスベクター※25などを用いて送り込み、疾患の原因となった遺伝子コードやエピジェネティクスのエラーを書き換えて治療を試みるものです。

ターゲット遺伝子のカット&ペーストを行う通常のゲノム編集は、遺伝子コードのエラーによって生じる疾患に対して半/永続的に効果をもたらす有効な治療法ですが、遺伝子の二重鎖切断※26を伴うと、遺伝子を切断することでガン化リスクが高まることが報告されており、またそもそも狙った遺伝子ではなく他の遺伝子を切断するリスク等を伴う治療法であります。

一方で、遺伝子のエピジェネティクスの修復にフォーカスしたCRISPR-GNDM技術は、切断を含む遺伝子の配列の改変を行うことなく「遺伝子スイッチ」のオン・オフのみを制御するものであります。つまり、ターゲット遺伝子において異常な機能をもたらしている遺伝子の発現レベルを遺伝子によってはほぼゼロまで落とすことができ、あるいは発現量が足りないことによって疾患が生じている場合には発現量を高めて治療することができるという、遺伝子の切断を行う一般的なゲノム編集と比較して、遺伝子の切断を行わないCRISPR-GNDM技術はよりクリーンな方法で治療を行うことができると考えられています。

 

(2) 当社のビジネスモデル

① 当社のビジネスモデルの概要

創薬事業は、一般的に多額の研究開発費用と長い時間を要します。したがって、当社のように開発の初期段階を担う企業は、開発から上市までの収益の谷間を投資家からの資金と製薬企業等のパートナーからの契約金で賄っていく必要があります。

当社のビジネスモデルは、パートナーに技術プラットフォームであるCRISPR-GNDM技術を開放し、パートナーの選定したターゲットに対してパートナーの資金で治療薬の開発を行う「協業モデルパイプライン」と自社でCRISPR-GNDM技術を用いてターゲットの選定から行い、自己資金でCRISPR-GNDM技術を用いて治療薬の開発を行う「自社モデルパイプライン」の2種類があります。

当社は、協業モデルパイプラインと自社モデルパイプラインを組み合わせることによって、協業モデルの利点である早期の収益獲得と自社モデルの利点である将来の大きなアップサイドである上市後の収益獲得の両者の特徴を組み合わせた、「ハイブリッドモデル」を目指しております。これらを実現できる背景にあるのは、前項に述べたようにPoPとPoCの蓋然性の高さにあります。これにより、開発の早期から後期にいたるまであらゆるステージでパートナリングを行える可能性があり、協業モデルパイプラインと自社モデルパイプラインを組み合わせた連続的な創薬が実現できます。さらにハイブリッドモデルの強みは、このように幅広い収益機会に下支えされた資金を効果的に活用することで事業計画の選択肢が増え、その選択肢を最適化することで経営基盤の安定と成長領域への投資の双方を両立することを当社がコントロールできることにあります。

 

 


 

② 協業モデルパイプライン

当社の協業モデルパイプラインでは、最初に製薬企業等のパートナーとのターゲットの合意の基に共同研究開発契約を締結し、当社の技術プラットフォームであるCRISPR-GNDM技術を使用することに伴う共同研究開発の契約一時金(A)を受領します。共同研究開発契約後は、当社米国子会社においてパイプラインの開発を行い、その進捗に応じて共同研究開発のマイルストン収入(B)を受領します。プロトタイプ分子※27の作成、システムの最適化、動物モデルでの検証を経て、通常は前臨床試験の前の段階で将来の製造販売権の全てあるいは一部を譲渡するライセンス契約を締結し、ライセンスの契約一時金(C)を受領します。ライセンス契約締結後は、パートナーまたは共同で開発を行い、その開発の進捗に応じて当社はライセンスの開発マイルストン収入(D)を受領します。また、上市後は売上の一部からライセンスのロイヤルティ収入(E)及び一定の売上条件を達成した場合にライセンスのセールスマイルストン収入(F)を受領する予定です。ライセンス契約締結後のパイプラインの開発及び販売はパートナーに委ねられており、したがって、(D)、(E)及び(F)について当社でのコントロール及び売上予測は困難になるという特徴があります。

 

③ 自社モデルパイプライン

当社の自社モデルパイプラインでは、まずCRISPR-GNDM技術でターゲットにする疾患及び遺伝子の決定から始まります。これは、メカニズムに基づいて妥当と思われる遺伝子を絞り込み、その中でアンメットメディカルニーズ※28があるものを各疾患領域の専門家と綿密なディスカッションを通じて検証を行います。その後に当社技術を用いて、ターゲットに対して有効なプロトタイプ分子の作成を行います。さらにシステムの最適化を行いながら、疾患細胞、動物モデルなどを用いて実際に有効であるかどうかの検証を行います。この後に前臨床試験などによって毒性及び有効量の見積りを行い、GMP※29に準拠した原体の製造を行い、GLP※30準拠の前臨床試験を行うこととなります。

一般的には、当社が一定の開発段階まで開発を進めた後に、パートナーとのライセンス契約を行い、ライセンスの契約一時金(C)を受領する予定です。パートナーは、それ以降の開発及び販売を引き継ぐことになり、その開発の進捗に応じて当社はライセンスの開発マイルストン収入(D)、上市後は売上の一部からライセンスのロイヤルティ収入(E)及び一定の売上条件を達成した場合にライセンスのセールスマイルストン収入(F)を受領する予定です。

 

 

<当社のビジネスモデル>

 


 

<当社の一般的な収入形態>

 

収入形態

内容

A

共同研究開発の契約一時金

共同研究開発を契約するにあたり、パートナーから得られる収入。

B

共同研究開発のマイルストン収入

共同研究開発契約を行ったパイプラインの開発進捗に応じて設定したいくつかの目標を達成する毎に一時金として得られる収入。

C

ライセンスの契約一時金

パイプラインあるいは共同研究開発の成果に対する独占的な権利をパートナーに付与する対価として得られる収入。

D

ライセンスの開発マイルストン収入

ライセンス契約を行ったパイプラインの開発進捗に応じて設定したいくつかの目標を達成する毎に一時金として得られる収入。

E

ライセンスのロイヤルティ収入*

製品が上市後に、その売上からあらかじめ定められた一定割合をパートナー企業から受領する収入。

F

ライセンスのセールスマイルストン収入*

上市後に一定の売上条件となる重要な節目、目標に応じて受領する収入。

 

*:現時点での実績はないが、将来計画している収益。

 

当社の開発パイプラインは、パートナーと共同で開発する協業モデルパイプラインと自社で開発する自社モデルパイプラインにより構成されています。

2020年5月末現在において、5品目の協業モデルパイプラインと2品目の自社モデルパイプラインとを有しており、進捗状況は下記のとおりとなっております。

 

 

<当社の開発パイプライン(2020年5月末現在)>

 


 

パートナーとの共同研究契約に基づき開発してきたMDL-201及びMDL-202は、既にライセンス契約を締結しております。MDL-201及びMDL-202のライセンス契約では契約一時金及びマイルストンの合計で380億円以上の契約を締結しており、その他に上市後の売上に応じた販売ロイヤルティが設定されており、開発の進捗にしたがって当社は当該収益を段階的に獲得することになります。

当社は、この他にも共同研究開発契約に基づいた後続の協業モデルパイプラインを有しており、それらについても順次ライセンス契約を締結していく計画です。また、自社で開発する自社モデルパイプラインについても一定の段階でパートナーとライセンス契約を締結すべく取り組んでおります。

 

<用語解説>

※1

CRISPR技術

CRISPR(クリスパー)とは、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeatsの略。ターゲット遺伝子を切断する通常のゲノム編集技術。

※2

遺伝子コード

核酸の塩基配列からタンパク質のアミノ酸の配列に変換するための暗号。A、G、C、Tの4つの塩基のうち3塩基の組み合わせで26のアミノ酸に対応する。

※3

エピジェネティクス

生まれた時に既にもっている遺伝子そのものは変わらないが、生後、年齢や環境によって遺伝子発現に変化が起こり、表現型(外見や生理的機能)に影響を与えること。

※4

遺伝子治療薬

遺伝子コードあるいはエピジェネティクスのエラーを補完や修復、あるいは抑制する機能をもった遺伝子を外部から細胞内に導入することにより、病気の原因であるこれらのエラーを直接治し、治療を行う医薬品。

 

 

※5

CRISPR/Cas9

第三世代のゲノム編集技術。CRISPR/Cas9 は、元々はバクテリアのシステムで、バクテリアがウィルスなどに由来する外来遺伝子の一部を切り取って自分の中に保存し、次に感染を受けたときの防御のために用いる免疫のように働くシステムのこと。このシステムの過程で、外来遺伝子を切断して自身のDNAのなかに挿入していることから、遺伝子の編集目的に利用できる可能性が着目されたことにより、メカニズムの解明競争が起こり、その結果、2012年に米国カリフォルニア大学バークレー校(以下、「UCB」という。)のジェニファー・ダウドナ博士及び共同研究者のエマニュエル・シャルパンティエ博士によって、バクテリアでゲノム編集を再構築できることが証明され、またブロード研究所(米国マサチューセッツ州)(以下、「ブロード研」という。)のフェン・チャン博士によりヒトなどを含む動物の細胞においてもゲノム編集技術として利用できることが見いだされた新しい技術。

これにより、DNAをゲノム上の特定の場所で切断することが可能になり、遺伝子疾患などをターゲットとした医薬品のみならず、品種改良など幅広い領域で利用可能となった。

※6

CRISPR酵素

CRISPR/Casシステムで用いられるCas酵素群。guide RNAと協働して二本鎖DNAを切断するハサミの役目を果たす。

※7

Cas9タンパク質

CRISPR酵素の一種であるCas9を構成するタンパク質

※8

切断活性

切断酵素タンパク質が実際にDNAやRNA等の対象を切断するハサミとしての機能、及びその強さ。

※9

遺伝子の転写

DNAの遺伝子情報をRNAへと写しとる過程を、転写という。

※10

スイッチング分子

標的の遺伝子発現を活性化もしくは抑制する調節を担う機能分子、転写因子等。

※11

ガイド核酸

guide RNA。CRISPR/Casシステムで遺伝子配列特異性を与えるために使用される数十塩基のRNA。

※12

薬物動態

薬物が体内でどの様に分布し、ターゲット臓器に到達するかの過程。

※13

メカニズム(Proof-of-Mechanism(PoM))

薬物が仮説通りに標的に作用するかを証明すること。

※14

概念実証(Proof-of-Principal(PoP))

薬物が仮説通りに病態に薬理的な作用を有するかを証明すること。

※15

コンセプト実証(Proof-of-Concept(PoC))

新薬候補物質の有用性・効果が臨床試験で得られ、仮説が証明されること。

※16

同定

同一であると見きわめること。単離した化学物質が何であるかを決定すること。

※17

分子標的薬アプローチ

ある特定の分子を標的として、その機能を制御することにより治療する方法。

 

 

※18

第Ⅱ相臨床試験

臨床試験第2番目の段階で、第Ⅰ相試験で安全性が確認された用量の範囲内で、同意を得た比較的少数の患者を対象とし、主に治験薬の安全性及び有効性・用法・用量を調べるための試験。

臨床試験とは、ヒトを対象として薬や医療機器など、病気の予防・診断・治療に関わるいろいろな医療手段について、その有効性や安全性などを確認するために行われる試験のことで、以下が臨床試験の3つのステップである。

第Ⅰ相:少人数の健常人を対象に候補薬剤の投与量を少しずつ増やしていき安全性や代謝を調べ、投与法の基礎情報を得る。

第Ⅱ相:少人数の患者を対象に候補薬剤の投与量や投与タイミングを副作用や有効性を指標に試験する。

第Ⅲ相:多数の患者を対象に安全性・有効性及び投与法を確認する。その際、既存薬もしくはプラセボ(偽薬を投与)を比較対象に用いる。

※19

単因子遺伝子疾患

一つの遺伝子の変異が原因となって病態が生じる遺伝子疾患。

※20

ヒトPoC

新薬候補物質の有用性・効果が、ヒトに投与することによって認められること。

※21

部位特異的

ここでは塩基の特定の配列、パターンにのみ作用すること。

※22

ヌクレアーゼ

核酸(DNA、RNA)を分解切断するハサミである核酸分解酵素の総称。

※23

ZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)

第一世代のゲノム編集技術。遺伝子疾患毎に全てをデザイン、作製する必要がある。ただし切断部位選定には一定の条件があり限定的である。

※24

TALEN(タレン)

第二世代のゲノム編集技術。転写因子様TAL Effector(TALE)を持つ。遺伝子疾患毎にすべてをデザイン、作製する必要がある。切断部位はすべての遺伝子の塩基配列に対して任意に選定可能で、標的としていないDNA配列を誤って切断してしまうことが少ない。

※25

ウイルスベクター

ウイルスの強い感染力を利用し、体内あるいは細胞内に遺伝子を導入する運搬体のこと。ウイルスが遺伝子の運び屋になるので、ウイルスベクターと呼ばれる。医療品用として用いられる場合は、感染能力以外の問題となる機能は改変され、安全化されている。

※26

遺伝子の二重鎖切断

二本鎖DNAである遺伝子をある部位で二本とも切断すること。

※27

プロトタイプ分子

薬剤の原型となる分子。

※28

アンメットメディカルニーズ

いまだ有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズのこと。生活習慣病や癌など患者数が多く治療薬を必要とするもの、患者数は少ないが治療薬の必要性が高いもので希少疾患(難病)が挙げられる。

※29

GMP(Good Manufacturing Practice)

施設場所の設備・機器、組織・職員、検査・手順・結果等が、安全かつ適切であることを保証する医薬品の製造品質管理基準。

※30

GLP(Good Laboratory Practice)

医薬品の非臨床試験の安全性に関する信頼性を確保するための基準。

 

 

※31

IND

Investigational New Drugの略。米国における新薬候補臨床試験の開始届で、承認を得ること。新薬候補に関する前臨床試験の情報パッケージを当局(FDA:アメリカ食品医療品局、Food and Drug Administrationの略)に提出・申請し、この申請が承認されなければ臨床試験(ヒトでの安全性や薬効などの試験)は実施できず、医薬品開発の非常に重要なステップ。

 

 

 

4 【関係会社の状況】

 

名称

住所

資本金

主要な事業
の内容

議決権の
所有割合(又は被所有割合)(%)

関係内容

(連結子会社)

 

 

 

 

 

Modalis Therapeutics Inc.

アメリカ合衆国

マサチューセッツ州

5米ドル

遺伝子治療薬開発事業

100

役員の兼任1名
業務委託費の支払

 

(注) 1.「主要な事業の内容」欄には、セグメント情報に記載された名称を記載しております。

2.特定子会社に該当しません。

3.有価証券届出書又は有価証券報告書を提出している会社はありません。

 

 

5 【従業員の状況】

(1) 連結会社の状況

 

2020年5月31日現在

事業部門の名称

従業員数(人)

研究開発部門

13

(-)

全社(共通)

3

(1)

合計

16

(1)

 

(注) 1.従業員数は就業人員(当社グループからグループ外への出向者を除き、グループ外から当社グループへの出向者を含む。)であり、臨時雇用者数(パートタイマー)は、最近1年間の平均人員(1日8時間換算)を( )外数で記載しております。

2.当社グループは、遺伝子治療薬開発事業の単一セグメントであるため、事業部門別の人数を記載しております。

3.全社(共通)と記載されている従業員数は、管理部門に所属している従業員であります。

 

(2) 提出会社の状況

 

 

 

 

2020年5月31日現在

従業員数(人)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(千円)

3

(1)

44.3

1.3

10,568

 

 

事業部門の名称

従業員数(人)

研究開発部門

全社(共通)

3

(1)

合計

3

(1)

 

(注) 1.従業員数は就業人員(当社から社外への出向者を除き、社外から当社への出向者を含む。)であり、臨時雇用者数(パートタイマー)は、最近1年間の平均人員(1日8時間換算)を( )外数で記載しております。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.当社グループは、遺伝子治療薬開発事業の単一セグメントであるため、事業部門別の人数を記載しております。

4.全社(共通)と記載されている従業員数は、管理部門に所属している従業員であります。

 

(3) 労働組合の状況

労働組合は結成されておりませんが、労使関係は円滑に推移しております。