第二部【企業情報】

第1【企業の概況】

1【主要な経営指標等の推移】

回次

第4期

第5期

第6期

第7期

第8期

決算年月

平成26年3月

平成27年3月

平成28年3月

平成29年3月

平成30年3月

事業収益

(千円)

211,370

408,821

145,177

902,046

150,000

経常利益又は経常損失(△)

(千円)

302,359

288,020

595,588

323,286

244,505

当期純利益又は当期純損失(△)

(千円)

302,695

290,170

597,542

305,106

246,268

持分法を適用した場合の投資利益

(千円)

資本金

(千円)

352,500

752,500

967,500

967,500

1,117,500

発行済株式総数

(株)

 

 

 

 

 

普通株式

2,875

4,475

5,335

5,335

5,635

A種優先株式

1,575

1,575

1,575

1,575

1,575

純資産額

(千円)

121,368

631,198

463,656

768,762

822,493

総資産額

(千円)

409,325

845,895

709,410

968,229

864,145

1株当たり純資産額

(円)

27,273.93

104,330.40

67,099.28

222.51

228.15

1株当たり配当額

(円)

(うち1株当たり中間配当額)

()

()

()

()

()

1株当たり当期純利益金額又は1株当たり当期純損失金額(△)

(円)

68,919.72

63,829.75

92,771.76

88.31

71.20

潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額

(円)

自己資本比率

(%)

29.7

74.6

65.4

79.4

95.2

自己資本利益率

(%)

49.5

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

営業活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

251,582

100,042

投資活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

1,020

財務活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

6,792

292,724

現金及び現金同等物の期末残高

(千円)

387,885

781,250

従業員数

(人)

5

5

5

8

11

(外、平均臨時雇用者数)

()

()

(2)

()

()

 (注)1.当社は連結財務諸表を作成しておりませんので、連結会計年度に係る主要な経営指標等の推移については記載しておりません。

2.事業収益には、消費税等は含まれておりません。

3.第7期及び第8期の財務諸表については、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和38年大蔵省令第59号)に基づき作成しており、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づき、三優監査法人の監査を受けております。
なお、第4期、第5期及び第6期については、会社計算規則(平成18年法務省令第13号)の規定に基づき算出した各数値を記載しております。また、当該各数値については、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく、監査を受けておりません。

4.持分法を適用した場合の投資利益については、関連会社がないため記載しておりません。

5.1株当たり配当額及び配当性向については、配当を実施していないため、記載しておりません。

6.潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額については、第7期は潜在株式は存在するものの、当社株式は非上場であるため期中平均株価が把握できないため記載しておりません。第4期、第5期、第6期及び第8期は1株当たり当期純損失であるため、記載しておりません。

7.第4期から第6期及び第8期の自己資本利益率については、当期純損失を計上しているため記載しておりません。

8.株価収益率については、当社株式は非上場であるため、記載しておりません。

9.第4期、第5期及び第6期は、キャッシュ・フロー計算書を作成しておりませんので、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー及び財務活動によるキャッシュ・フロー並びに現金及び現金同等物の期末残高については記載しておりません。

10.平成30年6月25日付で、A種優先株主の株式取得請求権の行使を受けたことにより、全てのA種優先株式を自己株式として取得し、対価として当該A種優先株主にA種優先株式1株につき普通株式1株を交付しております。また、その後同日付で当該A種優先株式の全てを消却しております。

11.平成30年6月15日開催の取締役会決議及び平成30年6月23日開催の第8回定時株主総会決議により、平成30年6月25日付で普通株式1株につき500株の株式分割を行っておりますが、第7期の期首に当該株式分割が行われたと仮定し、1株当たり純資産額及び1株当たり当期純利益金額又は1株当たり当期純損失金額を算定しております。

12.当社は、平成30年6月15日開催の取締役会決議及び平成30年6月23日開催の第8回定時株主総会決議により、平成30年6月25日付で普通株式1株につき500株の株式分割を行っております。

そこで、東京証券取引所自主規制法人(現 日本取引所自主規制法人)の引受担当者宛通知「『新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)』の作成上の留意点について」(平成24年8月21日付東証上審第133号)に基づき、第4期の期首に当該株式分割が行われたと仮定して算出した場合の1株当たり指標の推移を参考までに掲げると以下のとおりとなります。

なお、第4期、第5期及び第6期の数値については三優監査法人の監査を受けておりません。

 

第4期

第5期

第6期

第7期

第8期

 

平成26年3月

平成27年3月

平成28年3月

平成29年3月

平成30年3月

1株当たり純資産額

(円)

54.55

208.66

134.20

222.51

228.15

1株当たり当期純利益金額又は1株当たり当期純損失金額(△)

(円)

△137.82

△127.65

△185.53

88.31

△71.20

潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額

(円)

1株当たり配当額

(円)

(うち1株当たり中間配当額)

 

2【沿革】

年月

事項

平成22年12月

「安心して身内のがん患者に勧められる治療法提供」を目的として、徳島県徳島市に

Delta-Fly Pharma㈱を設立

平成24年4月

東京都千代田区に東京事務所を開設

平成24年10月

抗がん剤候補化合物DFP-10917の米国での第Ⅰ相試験(対象:難治性・再発急性白血病)を開始

平成25年4月

㈱ヤクルト本社に対し、当社が保有する抗がん剤候補化合物の日本国内における開発商業化権に関するオプション権付与契約を締結

平成26年4月

中国北京市に北京事務所を開設

平成26年7月

抗がん剤候補化合物DFP-11207の米国での第Ⅰ相試験(対象:固形がん)を開始

平成27年2月

DFP-10917の米国での第Ⅱ相試験(対象:難治性・再発急性骨髄性白血病)を開始

平成28年4月

協和化学工業㈱との間で、抗がん剤候補化合物DFP-14323の日本における独占的ライセンス契約を締結

平成28年5月

東京都中央区に東京事務所を移転

平成29年3月

日本新薬㈱との間で、抗がん剤候補化合物DFP-10917の日本における独占的ライセンス契約を締結

平成30年3月

三洋化成工業㈱との間で、ドラッグデリバリーシステムを用いた新規抗がん剤における共同研究開発契約を締結

 

3【事業の内容】

(1)企業理念

 当社の企業理念は、“「がん」だけを見ることなく、「がん患者」の全体を診ることにより、安心して身内のがん患者に勧められる治療法を提供すること”です。

 

(2)創薬方法の特徴

1)医薬品の研究開発プロセス

 一般的な医薬品の研究開発プロセスには、新しい開発化合物を探索する「基礎研究」、実験動物等を用い開発化合物の有効性及び安全性を確認する「前臨床試験」、患者への投与により有効性及び安全性を確認する「臨床試験」の段階があります。また、開発の進捗にあわせた製造規模と品質確保のため、原薬・製剤にかかる製造法開発も随時行う必要があります。医薬品の販売承認を取得するには、これらの品質、有効性及び安全性にかかる膨大な試験データに基づき、各国の規制当局に対し承認申請を行い、審査を受ける必要があります。

 この結果、一つの医薬品を開発するためには、約10~15年に亘る長い期間と数十億円~数百億円に到る大規模な資金が必要になります。それにも拘らず、医薬品開発は、承認に到るまでの各段階において、試験データや事業環境の変化等から開発中止に到るリスクが大きく、世界の製薬会社や創薬ベンチャー企業にとっては、研究開発プロセスの効率化と開発リスク低減が大きな課題となっております。

<一般的な医薬品の開発プロセス>

プロセス

期間

主な内容(一般的な抗がん剤開発の場合)

基礎研究

2~3年

新薬候補化合物の探索(合成及び絞込み等)研究

前臨床試験

3~5年

実験動物等を用い、有効性及び安全性等を確認する試験

臨床試験

3~7年

第Ⅰ相

少数の健康な人(ただし、抗がん剤の場合は患者)を対象に、安全性等を確認する試験

第Ⅱ相

少数の患者を対象に、有効性及び安全性を探索的に確認する試験

第Ⅲ相

多数の患者を対象に、有効性と安全性を検証的に確認する試験

申請・承認

1~2年

各国の規制当局による審査

 

2)当社創薬方法「モジュール創薬」-患者にやさしい抗がん剤を世界に向けて開発-

 当社の創薬方法は、既存の抗がん活性物質等を「モジュール」(構成単位)として利用し、創意工夫(用法用量・結合様式等)を加えて「アセンブリ」(組み立て)することで臨床上の有効性と安全性のバランスを向上させた新規抗がん剤を創製する「モジュール創薬」です。

 

0201010_001.png

 

 一般的な抗がん剤の創薬は、基礎の探索研究からがんに特異的な部分に作用する化合物をスクリーニングし、可能性のある化合物を抗がん剤候補とする方法ですが、その場合は臨床段階で作用を確認し、臨床試験で有効性と安全性を実証する必要があり、長い期間を要します。それに対して、抗がん剤のモジュール創薬は、医薬品になっている抗がん剤の活性物質を利用して組み合わせる方法ですので、基礎の探索研究がほとんど不要であり、臨床での有効性と安全性の予測が可能となることから、着手して1~2年後には臨床試験を開始できていることなど、一般的な抗がん剤よりも研究開発の効率が高く、その期間も短く、臨床試験で失敗する等の開発リスクが低減されています。また、特許切れの医薬品を、がん患者の治療で問題になっている点に注目して、抗がん剤の知識とノウハウを駆使して組み合わせれば、新規の抗がん剤としての特許化が可能であり、抗がん剤の問題点を解決しようとする限り、新規の抗がん剤を生み出せることから、新たな創薬手法の大きなイノベーションになり得ると確信しております。

 

(3)当社の開発品

 当社の開発パイプラインは以下の通りです。

開発品

(投与方法)

作用機序

開発段階

(開発地域)

対象疾患

提携会社

DFP-10917

(持続静注)

がん細胞周期調節作用

(細胞周期G2/M期*1停止)

第Ⅲ相試験準備中

(米国)

難治性・再発

急性骨髄性白血病

第Ⅰ相試験準備中

(日本)

日本新薬㈱

DFP-14323

(経口)

がん免疫機能調整作用

第Ⅱ相試験中

(日本)

肺がん等

協和化学工業㈱

DFP-11207

(経口)

がん細胞代謝調節作用

(チミジル酸シンターゼ*2阻害)

第Ⅱ相試験準備中

(米国)

固形がん

(膵がん等)

DFP-14927

(静注)

抗がん剤高分子デリバリー

第Ⅰ相試験準備中

(米国)

固形がん・血液がん

DFP-10825

(腹腔内)

核酸医薬デリバリー

(チミジル酸シンターゼ産生阻害)

前臨床試験中

(-)

腹膜播種転移がん

(胃がん・卵巣がん)

 

1)抗がん剤候補化合物DFP-10917

① 特徴

 抗がん剤候補化合物DFP-10917は、今までの化学療法で用いられてきた投与を見直し(モジュールの改良)、低用量で長時間持続点滴投与することにより、従来使用されてきている核酸誘導体(シタラビンやゲムシタビンなど)とは異なる作用を引き起こし、既存の化学療法が無効な患者に対しても、薬効を期待できることが特徴です。それにより、標準療法が無効な難治性・再発の急性骨髄性白血病のがん患者に対しても、効果が期待されます。

 

 

② 作用機序

 従来の核酸誘導体は、核酸の生合成阻害に基づく細胞毒性の抗がん剤であり、核酸代謝拮抗剤とも呼ばれ、核酸代謝酵素等の標的分子に結合することにより、その酵素反応を阻害したり、DNAあるいはRNA合成酵素の基質となり、DNA鎖やRNA鎖に取り込まれた後にDNA鎖やRNA鎖の伸長を阻害したりして、抗がん活性を発揮します。

 DFP-10917は、低用量で長時間持続点滴投与をすると、DNA鎖に取り込まれ、β脱離反応*3によってDNA鎖を自己切断して細胞周期調節作用(G2/M期停止)を引き起こし、アポトーシス*4(がん細胞死)を誘導することにより、抗がん活性を発現します。

 作用機序を図示すると、次の通りとなります。

 

0201010_002.png

 

③ 開発状況

 DFP-10917は、平成24年10月から難治性・再発急性骨髄性白血病の患者を対象に臨床第Ⅰ/Ⅱ相試験を米国治験施設M. D. Anderson Cancer Centerにおいて実施しました。この試験の第Ⅰ相パートでは、7日間持続点滴投与から開始し、その後14日間持続点滴投与に移行して、安全性の確認と至適投与量の決定を行い、その際に14日間持続点滴の低用量投与で70%(7/10例)の患者で奏効する臨床効果が認められ、基礎及び動物の試験で示されていた低用量・長期間持続点滴の投与方法の有用性が、ヒトを対象とする臨床試験でも確認されました。また、第Ⅱ相パートにおいても難治性・再発急性骨髄性白血病患者を対象に低用量・長期間点滴投与によるDFP-10917の有効性及び安全性の確認を行い、48%(14/29例)の患者で奏効している結果が得られ、高い有用性が示唆されました。本書提出日現在、規制当局との臨床第Ⅱ相試験終了時のMeetingを経て、臨床第Ⅲ相比較試験の治験実施計画書を提出し、試験開始の準備を整えました。

 

④ 対象疾患

 急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)は、骨髄で造血幹細胞から白血球などの血液細胞に成熟する過程で「がん化」する疾患の一つで、幼若な血液細胞である芽球が異常に増殖して、正常な血液細胞が極端に少なくなり、感染や貧血などを引き起したり、体内に広がったりして、早期に死に至る疾患です。治療法としては、抗がん剤などを用いてがん細胞を殺すか、または細胞分裂を停止させてがん細胞の増殖を抑える化学療法と、正常の造血幹細胞を注入して置き換える造血幹細胞移植などがあります。初回治療の標準的な化学療法では8割以上の患者に効果を示しますが、治癒に至るケースは3割程度に留まっており、それ以外は難治・再発となり、二次治療の化学療法が実施されてもほとんど効果を示しません。DFP-10917はこの二次治療の化学療法が対象となる急性骨髄性白血病の患者に絞って開発を進めております。

 

⑤ ライセンスの状況

 平成29年3月に、難治性・再発急性骨髄性白血病患者を適応として、日本新薬㈱との間で日本における独占的ライセンス契約を締結しました。一方、グローバルでのライセンスの提携先は決まっていません。本書提出日現在、日本以外のライセンス先の確保に向けて活動を続けている状況です。

 

2)抗がん剤候補化合物DFP-14323

① 特徴

 DFP-14323は、医薬品として承認・販売されているウベニメクスの適応追加を目的とした開発品で、ウベニメクスの抗腫瘍免疫能の活性化作用と癌幹細胞の抑制作用に着目し、常量よりも低い用量で単剤または抗がん剤および分子標的治療薬*5などとの併用により、がん患者の免疫機能を改善し、末期又は高齢の肺がん等患者の治療が期待できることが特徴です。

 

② 作用機序

 DFP-14323は、宿主の免疫担当細胞に作用し、がん患者の免疫機能を高めることにより、抗腫瘍効果を発揮するものと考えられています。

 

③ 開発の状況

 ウベニメクスは「成人急性非リンパ性白血病に対する完全寛解導入後の維持強化化学療法剤との併用による生存期間の延長」の効能・効果で承認済みであり、がん患者に対する安全性や免疫機能を改善することが明らかになっていることを踏まえ、DFP-14323では新規の効能・効果として、固形がんの一つである肺がんに対する臨床第Ⅱ相試験を、平成30年1月から日本国内で開始しました。

 

④ 対象疾患

 末期又は高齢のがん患者は免疫機能が低下傾向にあり、標準的な化学療法による治療効果は不十分であることから、効果と安全性のバランスに優れた治療薬の開発が望まれています。DFP-14323はがん患者の免疫機能を高めて抗腫瘍効果を発揮することから、末期又は高齢の肺がん患者を対象として、国内での臨床第Ⅱ相試験を進めております。

 

⑤ ライセンスの状況

 平成28年4月に、協和化学工業㈱との間で日本における独占的ライセンス契約を締結しました。

 

3)抗がん剤候補化合物DFP-11207

① 特徴

 抗がん剤候補化合物DFP-11207は、抗がん作用を有する5-フルオロウラシル(5-FU)を徐放・阻害・失活させて薬物動態をコントロールする3つのモジュール化された活性物質(モジュールⅠ、Ⅱ、Ⅲ)をアセンブリ(結合)した化合物であり、既存の5-FU系抗がん剤と比較して、有効性と安全性のバランスを改善していることが特徴です。それにより、がん患者の生存期間の延長やQOL(Quality Of Life:生活の質)の改善に寄与することが期待されます。

 

② 作用機序

 DFP-11207は、5-FUを徐放するプロドラックのエトキシメチルフルオロウラシル(EMFU:モジュールⅠ)と、5-FUを分解する酵素ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)を阻害するギメラシル(CDHP:モジュールⅡ)と、5-FUによる消化管障害を局所で阻害するシトラジン酸(CTA:モジュールⅢ)の3つの成分を結合して、抗がん作用を有する5-FUの効果と毒性のバランスを最適化した化合物です。DFP-11207は体内で速やかに各成分に分かれて効果を発揮しますが、3つの成分を配合するよりも結合することにより、血中の5-FU濃度が低く長く維持され、従来の5-FU系抗がん剤で発現していた血小板減少を含む血液毒性も回避することができ、継続して治療することが可能となります。

 作用機序を図示すると、以下の通りとなります。

 

0201010_003.png

 

③ 開発状況

 DFP-11207は、平成26年7月から固形がん(消化器がん)を対象に米国の治験施設であるM. D. Anderson Cancer Centerで臨床第Ⅰ相用量漸増試験(用量を順次上げながら、新薬候補化合物の安全性を確認する試験)を進めました。その結果、推奨用量が決定され、抗がん活性成分の5-FUが血中で低い濃度を長く維持していることを確認するとともに、従来の5-FU系抗がん剤で発現していた血小板減少の副作用がないことを確認しました。また、すでに標準的治療が終了したがん患者にもかかわらず、3例に腫瘍増殖の抑制(RECIST判定*6でStable disease:安定)が認められ、その内の1例は1年近く増悪することなく投与が継続されるなど、薬理効果が相応に確認されました。本書提出日現在、食事の影響試験を終了し、臨床第Ⅱ相試験に移行する準備を進めております。

 なお、動物モデルによる薬効試験では、各腫固形がんで有効性と安全性に優れている結果が得られておりますが、特に膵がんモデルでは、膵がんの標準療法のゲムシタビンよりも優れている結果が示されており、従来の5-FU系抗がん剤の適応癌腫を踏まえて、最初に膵がんの患者に対象を絞って開発する考えです。

 

④ 対象疾患

 対象とする疾患は、膵がん、胃がん、大腸がんなどの消化器がんです。特に膵がんは、その臓器が体の深部に位置し、早い段階では特徴的な症状もなく、内外分泌の異常などから膵がんと分かったときにはすでに進行していることが多く、罹患数と死亡数がほぼ等しい疾患です。再発膵がんの治療は、5-FU系抗がん剤またはゲムシタビンが汎用されていていますが、単剤や併用療法で骨髄毒性や下痢等の消化管毒性が発現しやすく、特に血小板減少の毒性は、投薬を中止し、血小板輸血を複数回繰り返す過程で出血して、死亡に至るケースが少なくありません。こうした膵がん治療の現状から、血小板減少のないDFP-11207が患者から待ち望まれていると考え、開発を進めています。

 

⑤ ライセンスの状況

 本書提出日現在、日本及びグローバルでのライセンスの提携先は決まっていません。現在、ライセンス先の確保に向けて活動を続けている状況です。

 

4)抗がん剤候補化合物DFP-14927

① 特徴

 抗がん剤候補物質DFP-14927は、DFP-10917の高分子デリバリーに係る物質であり、がん組織へ選択的に集まり、がん細胞内で効果的にDFP-10917を放出することを可能としたことが特徴です。動物を用いた薬効試験では、膵がん等の固形がんに対して、1週間に1回だけの投与で、有効性と安全性が示されていることから、DFP-14927の固形がん患者への治療に貢献することが期待されます。

 

② 作用機序

 DFP-14927は、DFP-10917に4本鎖のポリエチレングリコール(4-arm-PEG、分子量4万の高分子)を結合させた物質であり、血中分解と腎排泄を受け難くしてがん組織へ選択的に送達し、がん細胞内でDFP-10917を徐放して作用を発揮します。それにより、血中での影響が少なくなり、固形がんに対してもDFP-10917と同様にDNA鎖に取り込まれ、β脱離反応によってDNA鎖を自己切断して細胞周期調節作用(G2/M期停止)を引き起こし、アポトーシス(がん細胞死)を誘導することにより、抗がん活性を発現します。

 

③ 開発の状況

 DFP-14927は、現在、前臨床試験が終了している段階です。前臨床試験のデータでは、週1回投与で血液中濃度が長時間安定であることを確認しており、固形がんに対する抗腫瘍効果を認めています。平成30年3月に三洋化成工業㈱と共同開発契約を締結し、その第一弾として、米国での臨床第Ⅰ相試験開始申請の準備を進めております。

 

④ 対象疾患

 DFP-14927はDFP-10917で効果が認められたAMLの前がん病変であるMDS、また前臨床試験で効果が認められた固形がん、特に膵がんを対象として臨床第Ⅰ相試験の準備を進めております。

 

⑤ ライセンスの状況

 本書提出日現在、日本及びグローバルでのライセンスの提携先は決まっていません。現在、ライセンス先の確保に向けて活動を続けている状況です。

 

5)抗がん剤候補化合物DFP-10825

① 特徴

 抗がん剤候補物質DFP-10825は、RNA干渉*7を利用した核酸医薬であり、がんの増殖に多大な影響を与える因子をRNA干渉で特異的に阻害させるために、腹腔内投与で効果を発揮できるように工夫していることが特徴です。卵巣がんや胃がん等の患者は、終末期になると胸水や腹水などの体液貯留(腹膜播種転移)が認められ、つらい状態になりますが、腹腔内に直接注入して効果を発揮することにより、腹水をコントロールして苦しさを和らげ、延命につながることが期待されます。

 

② 作用機序

 DFP-10825は、がんの増殖に多大な影響を与えるチミジル酸合成酵素(TS)をコードしているDNAに対して、RNA干渉によりブロックするショートへアピンRNA(TS-shRNAi)を、リン脂質から成る微粒子の表面に付着させてがん細胞に取り込ませ、TSの産生を阻害して、がんの増殖を抑制します。

 

③ 開発の状況

 DFP-10825は、現在、前臨床試験を実施している段階です。今後、ライセンスの提携などで資金が確保されれば、臨床第Ⅰ相試験に移行する予定です。

 

④ 対象疾患

 DFP-10825は、腹水などの体液貯留をコントロールして延命につなげることを考えており、特に腹水が多く認められる卵巣がん、胃がんの腹膜播種転移のがん患者を対象に開発を進める予定です。

 

⑤ ライセンスの状況

 本書提出日現在、日本及びグローバルでのライセンスの提携先は決まっていません。現在、ライセンス先の確保に向けて活動を続けている状況です。

 

(4)当社の事業戦略

1)事業領域

① 抗がん剤開発への特化

 がんは全世界において主要な死因の一つであり、患者や家族、社会にとって大きな問題となっています。新しい治療法や新規抗がん剤により、生存予後が改善する傾向がみられており、がん患者であっても社会生活を営むことができるようになってきております。その一方で、がんが進行した状態では、抗がん剤の治療効果は限定的であり、また、その抗がん剤の多くは様々な副作用を伴い、がん患者のQOLに十分寄与しているとは言い難い状況です。

 当社は、その現状を少しでも打破したいと考えた抗がん剤開発の経験豊富なメンバーによって設立されました。過去の経験とノウハウから、医薬品になっている抗がん剤の問題点に着目すると、種々の工夫や組み合わせで副作用を少なくして、治療効果を改善できる可能性が極めて高い領域と考えられたためです。このがん領域は、まさに当社が得意とする「モジュール創薬」の宝庫であり、当社が強みを発揮し、安心して身内のがん患者にも勧められる治療法を提供する企業として、事業領域を抗がん剤開発に特化しております。

 

② 外部資源の有効活用

 当社は、組織の効率的運営のため、外部機関と積極的な連携を図りながら、研究開発を進めております。

 当社は、研究開発のマネジメント業務に集中し、具体的な業務については、外部の研究開発受託会社や製造受託会社に委託する形で研究開発を進めております。

 

③ 製薬会社等との提携

 当社は、独自のモジュール創薬により新規抗がん剤候補物質を探索し、前臨床試験及び臨床試験を実施し、製薬会社に対し、医薬品の開発権及び販売権等を許諾して提携関係を構築し、事業を推進する方針です。

 

<当社の事業領域と役割>

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2)収入形態(ビジネスモデル)

 当社が得る収入は、当面の間は、提携製薬会社からの収入です。一般的に、研究開発の段階においては、「契約一時金」、「マイルストーン」及び「開発協力金」を受け取ります。さらに、将来、提携対象の製品が上市に至った場合には、売上高に応じた「ロイヤリティ」の収入を受け取る予定です。

 当社は、平成28年4月に協和化学工業㈱との間で日本でのDFP-14323の独占的ライセンス契約を締結いたしました。また、平成29年3月に日本新薬㈱との間で日本でのDFP-10917の独占的ライセンス契約を締結いたしました。これらの契約に基づき、平成29年3月期に契約一時金の収入を受け取り、平成30年3月期にマイルストーンの収入を受け取っております。今後、開発が順調に進み、申請・承認されれば、マイルストーンやロイヤリティの収入を受け取ることになります。

<提携製薬会社からの受け取る主な収入>

 

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<主な収入の内容>

収益名

内容

契約一時金

契約締結時に一時金として受け取る収入

マイルストーン

研究開発の進捗に応じて、事前に設定したイベントを達成した際に受け取る収入

開発協力金

研究開発費用に応じ、提携会社が負担する分の収入

ロイヤリティ

医薬品販売後に売上高に応じて受け取る収入

 

[用語解説]

*1 細胞周期G2/M期

細胞周期は一つの細胞が二つの細胞に分裂する一連の現象で、細胞が分裂する「M期」とその次のM期の間の間期に分けられます。間期は、DNA合成の準備の「G1期」、DNA複製の「S期」、細胞成長の「G2期」に分けられます。G2期では細胞分裂に必要なタンパク質合成が行われ、M期に進めるかどうかを判断しています。この過程がG2/M期となります。

 

*2 チミジル酸シンターゼ

がん細胞は増殖するために活発なDNA合成を行っていますが、このDNA合成に必要な材料としては核酸(プリン塩基、ピリミジン塩基)や葉酸などがあります。チミジル酸は核酸の構造を持つ有機化合物の一種で、DNAの部分構造となっており、それを合成するための酵素の一つがチミジル酸シンターゼです。チミジル酸シンターゼを阻害するとチミジル酸の合成が止まってしまい、最終的にはがん細胞死となります。

 

*3 β脱離反応

化学反応の一種で、炭素-炭素の結合が二重結合を生成する過程で、炭素(α)に結合している水素が離れる際に、その隣の炭素(β)に結合している分子が電子を持ち去りながら離脱する反応で、種々の条件下で起こる反応機構です。

 

*4 アポトーシス

細胞の死に方の一形態で、生物の発生や恒常性の維持に必要不可欠な機能です。ヒトの細胞が生体内で死ぬ場合、ほとんどがアポトーシスであり、個体維持の過程で積極的に引き起こされるプログラムされた細胞死です。細胞の内容物を周囲に漏らすことなく、最終的にマクロファージなどの食細胞が除去するので、痕跡は残りません。

 

*5 分子標的治療薬

分子標的治療薬は、がん細胞などの病気の細胞の表面にあるたんぱく質や遺伝子を標的として、効率よく攻撃する薬の総称です。がん細胞の増殖や転移を起こす特定の分子だけを狙い撃ちにするので、従来の抗がん剤よりも正常な細胞へのダメージが少ないはずですが、今までになかったタイプの副作用が現れるケースも増えています。

 

*6 RECIST判定

固形がんの治療効果判定のためのガイドライン(response evaluation criteria in solid tumours)のことで、抗がん剤の有効性を判定する基準です。完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、安定(SD)、進行(PD)、評価不能(NE)の5段階で評価されます。

 

*7 RNA干渉

RNA干渉(RNA interference;RNAi)は、標的遺伝子と同じ配列をもつ2本鎖のRNAを導入すると、mRNAが分解され、遺伝子の発現が抑制される現象です。標的mRNAを分解させることができるため,がんやエイズ、遺伝病の治療など、医学分野への応用が期待されています。

 

4【関係会社の状況】

 該当事項はありません。

 

5【従業員の状況】

(1)提出会社の状況

平成30年7月31日現在

 

従業員数(人)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(円)

11(-)

46.7

4.3

5,557,211

 (注)1.従業員数は就業人員(当社から社外への出向者を除き、社外から当社への出向者を含む。)であり、パート及び嘱託社員は( )内に、最近1年間の平均人員を外数で記載しております。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.当社の事業セグメントは医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の従業員数の記載はしておりません。

 

(2)労働組合の状況

 当社の労働組合は結成されておりませんが、労使関係は安定しております。